「プーロ・ドランカー」は、「プーロ(純粋な)酔っ払い」と「プーロ・フラメンコにKOされた男(=筆者)」、つまりボクシングのパンチ・ドランカーに掛けた造語である。で、今回は久々に本稿好みの豪快無比、正統派のハード・パンチャー登場! 黒い光を放つモロンのヘヴィー級ギタリスト、イグナシオ・デ・アンパーロの「ソナンドラ」(2012)だ。

 先日、数ヶ月ぶりにアクースティカを訪れ、近作を片っ端から試聴させてもらったのだが、本作は一曲目の一音を聴いた瞬間、即買だった。音が太い! 分厚い! うねる! 黒い! 重い! そして、伝説のディエゴ・デル・ガストールのニュアンス!! でもまぎれもなく、現代の、21世紀の生きた音なのだ。信じられない。彼の存在は、いまだ鉄道も通らない内陸の街、モロン・デ・ラ・フロンテーラという隔絶された土地が育んだ、一種の奇跡だろう。
 ライナー解説によると、このイグナシオは1967年のモロン生まれで、最初からバリバリのプロではなく、これまでの人生の大半はアルバニル(左官屋)として過ごしてきたらしい。が、前述の伝説的なギタリスト、ディエゴ・デル・ガストールを大叔父(祖父ホセレーロの妹と結婚した義兄、という関係)に持つわけで、そういう意味では、単なる無名の新人ではないのだ。弟パコ・アンパーロは、かつて一世を風靡したフラメンコグループ、ソン・デ・フロンテーラの凄腕ギタリストである。
 イグナシオのギターには、最近主流のフラメンコから確実に失われつつある、骨太で泥臭い男のロマンがある。テクニックを詰め込みすぎない、間を重んじる演奏は、いつの間にか引きずり込まれてしまう。後を引く余韻。乾いた空気感。寡黙なのに雄弁とは、まさしくこのギターのことだ。渋い! オレ! ビバモロン!!
 イグナシオの音に合わせようと買った、とあるモルトウイスキーは、見事にマリアージュ失敗。ムダ金だった。これほど極太の音に比肩する酒は、やたらと見つかるわけが・・・と天を仰ぐと、本棚上のリボンが巻かれたビールに気づいた。先のヴァレンタインデーに、奇特な美女がプレゼントしてくれたのだが、勿体無くて手をつけずにいたのだ。
 ただいま朝10時。が、飲むしかない。口に含むと、重厚感ある苦みが広がる。どっしりしたボディのスタウト(黒ビール)だ。しかもアルコール度数が8.5! さらに、「箕面ビール」との表示。なんと大阪府箕面市の国産スタウトだった! 世の中知らないことばかり。リボンに隠れて見えなかったが、本場英国のWBA主催のビアコンテストで"World's Best Strong Stout&Porter 2010"を受賞している!
 朝っぱらから酒飲んで、極上のモロンギターを聴く。まったくいいご身分だぜ、という声がどこからか聞こえてきそうだが、これもまた、フラメンコの・・・いや、純粋な酔っ払いの真実である。

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