年の瀬、12月になると聞こえてくるのがクリスマスソング。スペインではそれをビジャンシーコ(Villancico)と言いますが、元の意味は「村に住む農民」。15世紀後半頃から農民達の間で歌われていた歌がその起源と言われています。今ではビジャンシーコ=クリスマスキャロルですが、そのフラメンコバージョンというのがあります。(左写真/Foto Jaime Martinez)
19世紀のアンダルシア地方で、ビジャンシーコのフラメンコ化が進みました。もともとあったビジャンシーコをフラメンコ風にアレンジしたり、クリスマスを祝う宗教的な歌詞をタンゴやブレリアなどのフラメンコの曲で歌うようになったりしたのです。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la frontera)出身のカンタオールに、ニーニョ・デ・グロリア(Nino de Gloria)という人がいましたが、芸名の"グロリア"は、彼がビジャンシーコをブレリア(Burleria)のリズムに乗せて歌い、その歌詞の中に「グロリア(栄光)」という単語がたくさん出てきたことからつけられました。そのヘレスではサンボンバ(Zambomba)と呼ばれるクリスマス行事が有名。壷に皮を張ってその皮に棒を差し込んで擦り音を出すサンボンバ、金属製の乳鉢、ウサギ科の小獣の皮を張ったタンバリン、オリーブの枝で作った楽器などを持ち寄り、皆で歌い踊るフィエスタです。写真はセビージャでの公演「Pura Escencia de la Navidad de Jerez(ヘレスのクリスマスの真髄)」より。手前にサンボンバが置いてあります。)
そのヘレスで来年2月21日から3月9日まで、恒例のフェスティバル・デ・ヘレス(Festival de Jerez)が開催されます。そのオープニング公演を飾るのは日本を代表するフラメンコアーティストとしてスペインでも尊敬を集める小島章司氏(Shoji Kojima)とハビエル・ラトーレ(Javier Latorre)が再びコンビを組んでプロデュースした作品「ファトゥム!(Fatum!)」です。(右写真はコルドバ公演のポスター)今年11月29日、伝統あるコルドバ(Cordoba)のコンクール期間中に初演され、大好評を博しました。Fatumとはラテン語で「運命」。「人知を超えた不可避の運命の力」を意味し、死や破滅に繋がる宿命を示唆します。ベルディのオペラ「運命の力(La forza del Destino)」とハビエル・ラトーレが1988年に公演した同名のフラメンコ舞踊作品をベースにした作品とのこと。ゲスト舞踊手にラ・モネタ(La Moneta)を迎え、群舞のメンバーは、オーディションで150人の中から選ばれた男女各7名。もちろん舞台上には小島氏とハビエル・ラトーレも。偶然ながら、来年4月にロシオ・モリーナ(Rocio Molina)と共に来日するカンタオーラのロサリオ・ラ・トレメンディータ(Rosario La Tremendita)の新譜タイトルも「Fatum」。そのコンサートが同じヘレスのフェスティバル2日目の19時から公演されます。ゲストには第4回、第5回そして第31回でもご紹介したディエゴ・アマドール(Diego Amador)。そして21時からはエバ・ジェルバブエナ(Eva la Yerbabuena)の公演「アイ!(Ay!)」。これは今年の3月、ロンドンでの初演の様子をこちらにレポートしておりますのでご覧下さい。来年のフェスティバル、見応えのある楽しみなオープニングとなりそうです。
小島章司氏と言えば、昨年セルバンテス文化センターで行なわれた第一回クンブレ・フラメンカ(Cumbre Flamenca de Japon)の取りを飾られました。カンタオールでもある芸術家の堀越千秋(Chiaki Horikoshi)氏のオーガナイザーとしてのご尽力と人望で実現した企画。百数十人ほど収容できるオーディトリアムで、観客の入場料は無料。そこでたった一曲踊るために、小島氏は、新作「Fatum!」でも共演しているギタリストのチクエロ(Chicuelo)と歌手のロンドロ(Londro)をスペインから呼び寄せられました。大劇場、大観衆の前でなくとも、常に100%で挑まれるそのプロ意識に敬服すると共に、スペインにいるかのような素敵な時間をプレゼントして下さったことに大感謝でした。
さて、今年も去る11月28日からの3日間、第2回が開催となりました。毎日4組、若手からベテランまで日本のフラメンコ界で活躍する面々が登場しました。人に歴史あり。それぞれアーティストのバイレやギターにはその人のフラメンコの歴史を感じました。そして今年の取りを飾られたのが岡田昌己氏(Masami Okada)(右写真)。クンブレの始まる数日前に、今年のラ・ウニオン(Festival Cante de las Minas de La Union)のコンクールで「ランパラ・ミネーラ(Lampara Minera)」を受賞したカンタオールのヘロモ・セグーラ(Jeromo Segura)が日本に来ていると知りました。ヘロモはここ数年、エバ・ジェルバブエナの舞台で歌う他、セビージャ(Sevilla)のタブラオでもよく歌っており、昨年はソロアルバムを発表。着実に研鑽を積んできたことが実を結び、ソロカンタオールとして新たな一歩を踏み出したアーティストです。しかし、なぜこの時期に日本に?と訊くと、なんと、このクンブレのためだけに岡田昌己先生から呼ばれたとのこと。さらにギターのアルフレッド・ラゴス(Alfred Lagos)にパーカッションのラウル・ドミンゲス(Raul Dominguez)まで。岡田先生、ありがとうございます! がっつり堪能させていただきました。
ここで誤解なきよう。バックを必ずスペインから呼ばなければダメと言うことでは決してありません。アーティストは皆さん、自分のベストの状態を皆様に見せるために努力をしておられます。また、このクンブレはフラメンコの世界に深く関わり、ご自身も歌われる堀越氏のセレクション。その期待にも応えて、アーティストの皆さんはご自分の持ち味をいかんなく発揮され、観客にとっては「知る」、アーティストにとっては「知ってもらう」良い機会になったと思います。さて、話を戻します。昨今、公演を打つとなると、収支のバランスがとれることは非常に難しいものです。そんな中、スペインからアーティストを招聘して、公演を行なうのというのは、ある意味「投資」なのではないかと思います。たとえ経費がかかっても、あの歌手の歌で踊ってみたい。あのギターのコンパスに乗ってみたい。フラメンコの本場はスペインですから、彼らから今のスペインの流れを吸収したい...など、いろいろと理由はあると思います。経済的な事以外にも、色々なリスクも伴いますが、敢えてそういう挑戦を続けるアーティストに対しては、同じ日本人として応援する気持ちがさらに盛り上がります。今年もこのクンブレで、スペインに行かなければ聴けない声や音が聴けるというスペシャルプレゼントをいただきました。また、最終日の公演後には、小松原庸子氏がご登壇。小島氏、岡田氏とともに日本のフラメンコ界を牽引し、今日においても日本とスペインとの繋がりを持ち続けてこられたことへの表彰がありました。(写真右:クンブレの公演より、大沼由紀氏(Actuacion de Yuki Onuma en II Cumbre)クンブレ公演掲載写真撮影 青柳裕久)
このフラメンコ・ウォーカーも、微力ながら日本の皆様とスペインのフラメンコ界を結ぶ橋の橋げたのひとつにでもなればと活動を続けてまいりました。できるだけ多くのスペインフラメンコ情報を自分の足と目で仕入れて、フラメンコの魅力分かり易く、且つニュートラルに伝えたいという思っております。幸いにもスペイン(今年はフランスも)のフラメンコ関係者の方々にはその思いが伝わり、スペイン常時在住ではない外国人であるにもかかわらず、取材活動ができるように扉を開いていただけるようになりました。ありがたいことです。そしてもちろん、フラメンコを通じて出会うことができた皆様への感謝の気持ちも胸に2014年も歩み続けてまいるます。引き続きご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
Estoy muy agradecida a toda la gente que he conocido a traves de Flamenco. Gracias por facilitarme la actividad como prensa en varios festivales, como la Bienal de Sevilla, Festival de Jerez, La fundacion caja sol, Festival de Arte Flamenco Mont-de-marsan, etc... Les deseo un feliz ano nuevo 2014 y espero que nos veamos pronto.