_MI_5133.jpg引き続きお伝えしております、スペインからのレポート。セビージャのフラメンコ・フェスティバル、"ビエナル"。今年の作品ラインナップでは、フェスティバル前半は、再上演のものが多くありました。映画と違って、舞台は生ものです。毎回、全く同じ出来ということはありませんし、その後のアーティスト達によるバージョンアップ具合もうかがえます。またお気に入りのアーティストが出ていたら、何度でも観たいものです。

公演の内容としては初演のものを優先してお伝えしますが、再演のもので足を運べたものは少しご紹介します。
第93回号で記者会見の様子を書いた二人のアーティスト、ダビ・パロマール(David Palomar)とホセ・バレンシア(Jose Valencia)のロペ・デ・ベガ劇場でのそれぞれのリサイタルに行ってきました。ダビ・パロマールの公演「デノミナシオン・デ・オリヘン(Denominacion de origen)」については、こちらで2015年へレスのフェスティバルで内容をご紹介しています。

_MI_5225.jpgダビは、セビージャのビエナルという舞台での公演ということで、一層気持ちが引き締まっているようで、最初の3曲が終わるまでは、超シリアスモード。どストレートのカンテ・フラメンコのスタイル、歌とギターのみ、で、客席もダビの歌にぐっと集中して、張り詰めた空気感がありました。また今回は、バイラオーラのマリア・モレノ(Maria Moreno)がさらに貫禄をつけていて、観客の大きな拍手を浴びていました。会場にはアーティストの姿も多く、このコンサートを皆、楽しみにしていたようです。

Jose Valencia 05.jpgダビのコンサート同様、ファンだけでなくアーティストたちも注目していたのが、ホセ・バレンシアの公演「セビージャからカディスへ(1969ー2016)(De Sevilla a Cadiz)」。会見でも言っていたように、故エル・レブリハーノ(El Lebrijano)が監督だった作品でしたが、公演の前に亡くなるという事態になってしまいました。指揮を引き継いだのは、長年レブリハーノにギターを弾いていた甥のペドロ・マリア・ペーニャ(Pedro Maria Pena)です。大御所カンタオールを失ったレブリハ。既に実力は認められていますが、レブリハーノ亡き今、これからを担っていくホセがどんな歌いっぷりをするのか、改めて確認されることになったコンサートです。

Jose Valencia 03.jpgレブリハーノと関わりの深いバイオリニスト、ファイサル(Faisgal)の演奏から始まり、舞台のスクリーンにはセビージャからレブリハへの風景が映し出されました。そして、ホセのカンテにフアン・レケーナ(Juan Requena)のギターでソレア(Solea)、そして続いてはギタリストがマヌエル・パリージャ(Manuel Parrilla)に変わり、ティエントス(Tientos)という曲を歌いました。ギターとカンテのみ。カンテ・フラメンコの正統的スタイルです。
フアン・レケーナもマヌエル・パリージャもギターはとても力強いタッチ。その二人VSカンテはホセ一人になっても、全く負けないほど、ホセの声には迫力があり、天のレブリハーノに届かせるかのように、一層伸びやかに響きました。ホセ・バレンシアは、フラメンコ界のエンリコ・カルーソ(Enrico Caruso)と言われるほどの声量と声の良さ。一体、どこで息継ぎをしているんだろうかと思うくらいです。舞台中央に座り、両手を広げて歌う姿は、真似をしているわけではないのに、在りし日のレブリハーノを鮮明に思い出させます。
レブリハーノが指名したゲストのバイラオーラ、パストーラ・ガルバン(Pastora Galvan)は、真っ白な衣装で一曲踊り、間奏の間、舞台上で衣装替え。一転して真っ黒な喪に服しているような雰囲気に変わりました。パストーラ独特のちょっぴり兄のイスラエル・ガルバン譲りのユニークな動きが随所に入ります。
Jose Valencia 04.jpgブレリア・ポル・ソレア(少し早いテンポのソレア)では、ホセが舞台を動き回りながら歌いました。舞台からはみ出しそうになるくらい客席に近づきます。先日、アルカンヘルがタブラオで歌った時も、舞台から半分靴がはみ出すくらい前に出てきて歌っていました。引きこもった自己陶酔ではなく、何かを伝えよう、表現しようとして前に出てくる姿勢は、観客の一人一人を、まるで自分に向かって歌ってくれているような気持ちにさせてくれるのではないでしょうか。
賑やかなブレリアが終わると、舞台上に白い椅子が置かれ、真上からスポットライト当てられました。もちろん誰も座りません。日本でいう「陰膳」のようなものです。ホセが、デブラ(無伴奏の曲で、デブラとはヒターノの言葉で神を表します。)を歌い上げると、椅子の真上あたりにふわっと白い雲のようなものが浮かび上がってきました。これは演出なのか、照明上の偶然の産物なのか?!まるで、レブリハーノの魂が現れたかのようでした。

Esperanza Fernandez y Gonzalo Rubalcaba 06.jpgカンテのコンサートでは、マエストランサ劇場で、カンタオーラのエスペランサ・フェルナンデス(Esperanza Fernandez)のコンサート「Oh! Vida」を公演しました。キューバ出身のジャズピアニスト、ゴンザロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba)を迎えて、キューバの伝説の名歌手、ベニー・モレ(Beny More)とフラメンコ歌手の大御所の一人、マノロ・カラコル(Manolo Caracol)を取り上げたレパートリーということでした。

まずはベニーの曲、続いて、ゲストで出演したアルカンヘル(Arcangel)が、エスペランサとの掛け合いを交えながらサンブラを見事に歌いあげ、好調にスタートを切リました。ところがその後は、カラコルよりもキューバのソンの割合が圧倒的に高く、ルバルカバの素晴らしいピアノソロがあったにも関わらず、キューバものが3曲続いた後、会場の拍手はやや緩み気味。その時、客席から「これはカリブやキューバのフェスティバルじゃないのよ!フラメンコのフェスティバルなんだから!」という怒声が飛びました。エスペランサ・フェルナンデスのコンサートなので、エスペランサを聴きに来たのであれば、内容はどうであれこういう声は飛ばないのでしょうが、フラメンコの本場セビージャでのビエナルというフラメンコフェスティバルということで、チケットを買ったお客さんにとっては期待を裏切られた形になったかもしれません。確かに、観光やバケーションでセビージャに滞在していて、フラメンコは全く知らないけど、フェスティバルだからということで会場に来ている人も結構いるようです。エスペランサが誰だかも知らないけど、フラメンコだろうと思って行ったのよ、というスペイン人女性もいました。また、エスペランサのフラメンコを聴きたい!と思っていた人にもフラメンコを歌う時とは全く違う歌い方でボレロやサルサを歌っていたのも違和感があったかもしれません。しかし、野次のおかげ(?)で、"エスペランサ頑張れ!モード"に入ったかのように、その後は曲が終わるごとに拍手が大きくなり、最後はとりあえずいい感じで幕を降ろせる雰囲気にまで持ち直しました。さすが、スペイン、ラテン気質!
その後の世論はいろいろありますが、今後、ビエナルでの上演公演を選択するに当たって、観客の期待するものへの考慮が一層高まる良いきっかけになったかもしれません。

写真( FOTOS):cBienal de Sevilla Oficial
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.

アクースティカ倶楽部

アクースティカ倶楽部イメージ
アクースティカ倶楽部は、仲間とともにフラメンコの「楽しさ」を追求する、フラメンコ好きのためのコミュニティです。