湿気の少ないスペインから日本に戻ると、その空気の重さを痛感します。来年の夏は、日本でのオリンピック開催ですが、ヨーロッパ諸国の選手にとっては屋外競技はかなり厳しいコンディションとなるでしょう。気温や湿気だけでなく、日の出と日没の時間にも大きな違いがあります。夏は夜8時くらいまでは明るい欧州。それによる生活時間帯の違いも、そこで生まれる文化や習慣に大きく影響していると思います。

スクリーンショット 2019-10-03 0.39.02.pngスペインで生まれたフラメンコ。日本で多くの人が抱いているイメージは、スペインのフラメンコの実際の姿とは一致していない部分が多々あります。この「フラメンコ・ウォーカー」では、スペイン、音楽、フラメンコのことをちょっと覗いてみようかなという方々にも読んでいただき、「薔薇の花、口に加えて、オーレ!」や「情熱と汗のほとばしるラテンもの」というようなイメージとは違う、本場の空気を少しでもお伝えできればと思って、現地に足を運んでは書いております。

今回は、まず来年の2月にアンダルシア州のヘレス・デ・ラ・フロンテーラで二週間にわたって開催される毎年恒例の「フェスティバル・デ・ヘレス」の公演プログラム発表のお知らせから。

第24回となるこのフェスティバル。ヘレスはフラメンコの原点であるカンテ(歌)の地としても有名ですが、今回は特に「踊り」をメインにしたフェスティバルとして、フラメンコ、スペイン舞踊の公演に力を入れているようです。ポスターも今までとは違うトーンになっています。

オープニングは、2020年2月21日(金)。以前、アンダルシア舞踊団の監督も務め、このフェスティバルでは、公演、そしてレッスンの講師としても長年の常連、ラファエラ・カラスコの新作がビジャマルタ劇場で上演されます。3月7日のフィナーレは、同じくビジャマルタ劇場で、新監督ルーベン・オルモ率いるスペイン国立バレエ団の公演。前監督アントニオ・ナハロの振付の演目も一つ入りますが、それ以外は新作というラインナップです。

踊りの公演を見ると、サラ・バラスら、脂の乗った中堅~ベテランから、注目の20代のバイラオール(ダンサー)達の公演がめじろ押しで、どれも見逃せない、そして観ておきたいものばかり。日本人アーティストの小島章司先生もハビエル・ラトーレとのコンビで新しい作品を公演されるようで、こちらも楽しみです。

公演プログラムはこちらから。(現時点でフェスティバル公式ページへのアクセスが一時的に出来なくなっているので、スペインのフラメンコサイト?deflamenco.comへのリンクを張ります。よって、このリンク先は公式事務局ではないので、お問い合わせはご遠慮ください。)

チケットの申し込みは、10月15日より、下記の場所と方法にて。

(1)ビジャマルタ劇場チケット売り場:時間:火曜~土曜 10:30-14:00
公演のある日は、さらに17:00-公演開始まで。公演のない土曜、月曜、祝日は休み。
現金、またはクレジットカードでの購入。

(2)電話:チケットビューローのTICKENTRADAS(902 750 754)へ。
クレジットカードでの購入となり別途手数料が課金されます。受取りは劇場窓口にて。

(3)インターネット:TICKENTRADAS (www.tickentradas.com)
クレジットカードでの購入となり別途手数料が課金されます。受取りは劇場窓口にて。

また、公演のシリーズ毎に、まとめ買い割引も設定されています。ビジャマルタ劇場への直接申し込みで(方法は窓口、電話、ファックス、電子メール)、20~30%割引になる購入方法もあります。(ABONO)詳しくはフェスティバル公式HPをご覧ください。

ビジャマルタのインフォメーション窓口 : +34 956 14 96 86 / Fax: +34 956 14 90 60
メール : taquilla@teatrovillamarta.es

チケットのインターネット販売はこちらのサイト。(申し込み開始までは、フェスティバル用のページはありませんのでご注意ください。)

さて、お知らせの後は、前回に引き続き、この夏に観てきた、フラメンコ・オン・ファイアーからのピックアップを。
_43A0508.jpg今年の新企画として、タコネラ庭園の一部を会場にした野外ステージ、エル・ボスケシージョ(スペイン語で小さな森)で、22日から4日間、ジャムセッションやDJ、そしてコンサートが開催されました。入場は自由。周囲に飲食の出店やジンのプロモーションの試飲コーナーもあり、気軽にゆったりと午後を過ごせる贅沢な空間となりました。

14時半から、国営放送で番組を持つ人気アナウンサーやフラメンコやジャズのエキスパートによるDJセッションからスタートし、2時間ごとに次のプログラムが始まります。19時からは、メインステージで、本来ならコンサートホールでやっているようなコンサートが聴けるということで、連日大にぎわいでした。

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19時からのコンサートからご紹介すると、まずはギタリスト、トマティートの息子、ホセ・デル・トマテ(Jose del Tomate)。父のコンサートでは、セカンドギターでしたが、ここではソロコンサート。父親譲りは甘いマスクだけでなく、初アルバム「Plaza Vieja」発表後、ますます腕を磨いて、力強い演奏を聴かせてくれました。「バルコニーからのフラメンコ」シリーズでも父との共演があり、今回のパンプローナ滞在中は一緒に行動することが多かったようです。それにしても、昨年に比べ、息子ホセのファンからの取り囲まれ度がかなりアップ。移動の度にファンにつかまって、フォトセッションが延々と続くという人気ぶりでした。

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コルドバ出身で8歳からサックスを音楽院で学び、その後、独学でフルートを覚え、フラメンコの世界に入ったセルヒオ・デ・ロペ(Sergio de Lope)のコンサートもありました。フラメンコジャズのアーティストとして、バークレー音楽院のプロジェクトにも参加。表情豊かで躍動感のある演奏は、幅広い音楽ファン層を楽しませてくれそうです。2017年に、フラメンコの世界では有名なコンクール、カンテ・デ・ラス・ミナス、通称:ラ・ウニオンのコンクールでの受賞をきっかけに、さらにメジャーになりました。

IMG_0044.JPGそのセルヒオのコンサートで、目、いや耳を引いたのは、今年のラ・ウニオンのコンクールで、ランパラ・ミネーラという栄誉ある賞を受賞した歌手、マティアス・ロペス "エル・マティ"(Matias Lopez El Mati)。とにかくこの人は、レパートリーが広く、カンテの知識も豊富で以前から注目していたので、この受賞は嬉しいニュースでした。現在34歳。12才から頭角を現し、19歳でプロとして生きていく決意をして以来、多くのアーティストや舞踊団のバックとして歌い続けてきました。そして、歌だけでなく、いろんなことでも器用。様々なアーティストと共演していて、覚える段取りも数多いはずなのに、今回のセルヒオの公演では、シンセサイザーを操りながらの演奏と歌唱をさらりとこなしていました。その器用さもあってか、日本の公演にゲスト出演することも多く、11月にも日本人バイラオーラ、石井智子さんの公演に出演のため来日するようなので、日本で生歌は聴くチャンスはありそうです。(公演情報はこちら)ランパラ受賞後の今後は、ソロ活動も増えるでしょうから、スケジュール確保は難しくなるかもしれません。

_FE_1852.jpgボスケシージョでのコンサートでは、ジャズフラメンコから若手がもう一人出演。アンダルシアのカディス県、サン・フェルナンド出身のアントニオ・リサーナ(Antonio Lizana)。サックス奏者ですが、歌も歌います。ジャズ畑で学び、ラテンジャズのアーティストとして活躍。しかし、彼の生まれたサン・フェルナンドは、伝説のカンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラを輩出したほどのフラメンコの地。フラメンコは生まれた時から聴いていたし、音楽的な影響も受けています。そのルーツの関係か、フラメンコギター、カホンの叩き出すフラメンコのリズム、そして、フラメンコボイスが耳障りよく調和していました。実際、「ジャズはそんなに好きじゃない」というフラメンコファン、そして、「フラメンコはそんなに好きじゃない」というジャズファンから「でも、お前のやる音楽なら好きだよ」と言われるそうです。

_FE_1948.jpg野外ステージの最後を飾ったのは、こてこてのカンテ・フラメンコ。カンタオール(フラメンコ歌手)のエセキエル・ベニテス(Ezequiel Benitez)。フラメンコがそんなに親しまれていないこのパンプローナの地でも、多くの人が耳を傾けました。無料で聴けるということで、フラメンコ自体にそんなに興味を持っているわけではないという人たちも多くいたかもしれませんが、純粋なフラメンコの歌にどこか共鳴できる部分があったはず。途中で立ち去る人などおらず、むしろ、どんどん人が集まり、皆、聴き入っていたのが印象的でした。

フェスティバル終了後、開催されたパンプローナの周辺の村を訪れました。そこで地元の人たちに尋ねると、このフェスティバル、フラメンコ・オン・ファイヤーについては好意的なコメントばかりでした。最初は「この地方でフラメンコなんて」と思ったそうですが、登場するアーティストのラインナップ(トップクラスのアーティストばかりなので)、そして、無料イベントのクオリティの高さが評判を呼び、今では「ナバラ地方でも、フラメンコフェスティバルが盛り上がっているのよ。パンプローナは、フラメンコ・オン・ファイヤーで大成功してるわね。」と言わしめるまでとなっていました。1.2年でただの"珍しいこと"で終わらせることなく、地道に6年間、観客、アーティストの楽しめるフェスティバルとして試行錯誤しながらも続けてきた結果でしょう。まさに、継続は力なり。また、その他の公演やアーティストもご紹介していきます。_FE_1281.jpg

写真:写真内無記名のものは、ハビエル・フェルゴc Flamenco On Fire /Javier Fergo
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