こんにちは。フラメンコ・ウォーカー担当の坂倉まきこです。
バイレから始まった私のフラメンコですが、カンテとギターに魅了されてフラメンコ音楽三昧の日々。
コーディネーターや通訳など、フラメンコのバックステージで仕事をしています。
舞台に立つ者でも、批評家でもない立場で、スペインのフラメンコやアーティストを様々な形でご紹介していきたいと思います。
「フラメンコ、興味あるけど何から聴いていいかよく分からない」という音楽ファンの皆さん。
「踊りには、カンテやギターを聴くのが大事って言われるけど、アーティストの名前とかよく分からない」というフラメンコ練習生さん。
「レッスンや舞台があって、なかなかスペインに行けないし、情報を探す余裕もない」というプロフラメンカの方々。
そんな皆様の参考となる情報がお届けできるよう、スペインにも足を運んでフラメンコ力をアップデートしてまいりますので、どうぞよろしくお付き合い下さい。
さて第1回は、カンタオール、アルカンヘル(Arcangel)の新リリースに関連した情報です。
ミゲル・ポベダ、エストレージャ・モレンテと並び現代のカンテ若手旗手として注目されて来たアルカンヘル。
2001年、ファルキートのクラスで毎日かかっていたのがデビューアルバムの「アルカンヘル」。その声が妙に印象に残り、以降、渡西のたびに彼のコンサートに行くようになりました。
生で聴くその歌声は、繊細でありながら、鋭く会場の空気を震わせる力を感じさせます。
どんな小さな針穴にも一発で糸を通すような絶妙なコントロールでメロディーを歌い上げるという印象を受けました。
聴衆の年齢層もいつも幅広く、往年のカンタオール達から歌い継がれて来た伝統的な歌詞を丁寧に歌い上げると、ベテラン愛好家からのハレオ(かけ声)がかかります。
そして出身地であるウエルバのファンダンゴを歌うとなると「待ってました!」とばかりに会場の空気が一段とアップ。昨年9月に行ったコンサートでも、その流れは健在でした。
アルカンヘルの日本でのコンサートを企画招聘したのは、2007年。ちょうどアルバム「ropavieja」が出た年でしたが、残念なことに発売後間もなく製造元が再プレスを止めてしまい、コンサート会場での販売することができませんでした。
そして5年経った昨年10月、ようやく次のアルバム「QUIJOTE DE LOS SUENOS」が発表され、最近の歌声が聴けるようになりました。
そこで先日、このサイトのオープン記念にと、アルカンヘル本人から直接コメントをいただきました。
「前作からの5年間、じっくりと考えてきたことを実現したアルバム。
自分の持つカンテ・フラメンコへの考えに忠実であるために、自分自身がプロデューサーとして指揮をとり、曲のほとんども自作という新しい挑戦をしてみた。
そうすることで、より自分のやりたいことを実現する環境を作ることができた」とのこと。
まさにタイトルのキホーテのように夢の実現に立ち向かったわけです。タイトル曲の「QUIJOTE DE LOS SUENOS」はファンダンゴ。
ファンダンゴという曲種には、その曲の生まれた土地や得意とした歌手の名が付けられた多くのスタイルがありますが、これはアルカンヘル自身のスタイル、つまり"ファンダンゴ・ペルソナル・デ・アルカンヘル"と言えます。
さらにこの曲は、ファンダンゴの名手パコ・トロンホへのオメナヘ(オマージュ)の想いを込めてあるそうです。
「このアルバムの歌詞の90%はフアン・コボ・ウイルキンス(同じウエルバ出身の作家、戯曲家、詩人)によるもの。まさに僕が求めていた詩の内容だったので、それに曲をつけ、感じたままを歌に託した。良い悪いは別として、限りなく自分のやりたかったことに近い出来になったことは確か。僕が言えるのはここまで。それ以外のことは語るのは聴いた皆さんにお任せします。」
1曲目にはドランテス注1とのコラボ。
そしてポップス歌手アントニオ・オロスコとのデュオもあります。
伝統的なフラメンコ、そして歌詞の内容を大切にするアルカンヘル。
今回は、現代の言葉で書かれた詞を多く取り入れて、この時代を生きる人間の想いを「フラメンコ」と自分の声で表現することに挑戦しています。
夢を捨てずに前に進む私達への応援歌となることを期待しています。
注1:ドランテス:David Pena Dorantes
フラメンコピアニスト。 フラメンコの盛んなセビージャ県内でも、特にカンテ(歌)で有名なウトレラとレブリハにまたがる有名なフラメンコファミリーの一員。アルバム「Orobroy」「Sur」