ギター部門総評
若林雅人 今回感じたのは以下3点。①曲の最後にテンポアップしたからといって、必ずしも盛り上がるわけではない。②自分で大きな流れを作り、その中にいることが大切。③自分が出している音ではなく、自分が乗っているコンパスを感じさせることが大事。
中谷伸一 "新人公演"なので、作品の完成度や細かいテクニックの精度より、演奏に情熱と未来を感じさせるかどうかを第一に考え、本稿を執筆した。ギター部門は、是非はともかく個々のカラーが鮮明な出演者が多かったと思う。したがって、共通する総評は難しい。敢えて言うなら、絶対的な音量だろうか。搭載するエンジンそのものを、もう一回り大きくしてほしい。そうすれば、より強烈なドライヴ感と、幅のある表現が生まれるはずだ。
加部洋 高いレベルであることが当たり前になりつつあるギター部門。ただ今年は音響が悪く、ハウリング気味だったので、最も大切な"音"の真実味が出なかった。ギターを弾弦すれば、弦が振動し、音が広がるわけだが、指が弦に触れた瞬間の"接触音"(衝撃音)もマイクは拾わなければならない。今年はそれを拾っておらず、腰のない音だった。それにもかかわらず、出場者は目一杯の演奏をしてくれた。
1 藤嶋良博氏 君 (ソレア) |
●美しい旋律だが、アルペジオやピカードが曖昧でフレーズの輪郭が見えにくい。イメージが切れ切れになってしまいソレアの流れが感じられなかった。フレーズを想像しながら聴かざるを得なかったのが残念。(若林雅人) ●ギター・ソロというより、まるで何かの伴奏のような雰囲気が漂う、全体的にやや地味で控えめなニュアンスの演奏だった。聴衆を引っ張るストーリー性、そして起伏ある曲展開に、メリハリのあるコンパス感が加味されると、より一層引き締まるのではないだろうか。(中谷伸一) ●ソレアのアイレ・雰囲気は良かったが、コンパスが流れ気味で、細かいフレーズのさばき方がいま一つだった。しかし好もしい演奏ではあった。(加部洋) |
2 野路雄大 君 (グラナイーナス) |
●ハイポジションでのフレーズと展開が美しい。感情が音になってこちらに届いた。ただアルペジオやトレモロに雑音が多いのと、ピカードが滑って音にならなかったのが惜しい。多少テンポが遅くなっても、しっかり弾いた方が説得力があると思います。(若林) ● ●あくまでもセラニートにこだわる野路君。曲の成否を左右するピカードにミスが目立ったのが残念だった。演奏の出来から言えば、昨年の方が良かった。しかしグラナイーナのアイレは湛えていた。(加部) |
3 大山勇実 君 (ブレリア) |
● ●残念ながらパルメーロの存在が痛かった。ギターのリードか、フォローか、一体感を出すのか。パ ●キケ・パレデスのファルセータから始まるブレリア。演奏とパルマのズレが気になった。フレーズにモタるところが散見された。ブレリアの"おいしい"ノリを盛んに出そうとする努力は良い。テンポが上がった最後の演奏はすこし乱暴だった。(加部) |
4 江戸裕 君 (ブレリア) |
● ●個人的に奨励賞。ディエゴ・デル・ガストール、もしくはモロンのギターが根底にあるのだろうか。いず ●親指奏法を多用した独特の骨太なブレリア。Amに転調してから良くなった。後半、モロン・スタイル取り入れていたが、自分なりにアレンジして弾き方を変えていたのには好感が持てた。(加部) |
5 宇根理浩 君 (ブレリア) |
● ●こちらは協会の奨励賞を受賞。一転して現代ギターの典型的なブレリア、という出演順の妙 ● モライートを発展させたような、極めて正統でオリジナリティもあるブレリア。ミスはほとんど無かったと思う。もう一つインパクトがあったら満点の演奏。最後のアルサプーアはすごかった。(加部) |
6 足立浩一 君 (ソレア) |
●最初の低音一発でグッときた。切ないメロディーが美しい。トレモロのかすれた音が気になったが、全体にとても丁寧な演奏。効果的な低音の響きが最後まで印象的。ただメロディー側に意識の比重があるのか、ソレアのコンパスがあまり感じられなかった。(若林) ● ●丁寧で気持ちを深く入れた表現には好感が持てたが、フラメンコ独特のパッションが不足していたと思う。もう一つ説得力が欲しかった。テンポが上がったエンディングはもう少し長くても良かったのではないだろうか。(加部) |
7 渡辺イワオ 君 (ソレア) |
● ●黒くギラギラする音にしびれた。こちらも個人的に奨励賞。一貫して強い音 ●オリジナリティに溢れた堂々たるソレア。ラスゲアード、トレモロその他フラメンコギターのテクニックはほぼ完璧。リズム、音量も申し分なかった。足りないものがあるとすれば、"つや"だろうか。(加部) |
8 岸元輝哉 君 (天の川) |
●美しい曲。ギターのサイズが少し小さく感じたのは気のせいか?もしそうならば普通のサイズにした方が音が豊かになって曲調に合っていたと思う。実際伸びやかさに欠ける音が最後まで気になった。昨年もこの曲を弾いた人がいたが教室の練習曲なのかな?(若林) ● ●タランタの形式を発展させたオリジナル曲。丁寧なフレージングは良かったが、まだ自分の側に引き寄せた表現になっていなかったと思う。メリハリとドラマ性が欲しかった。(加部) |
9 廣川叔哉 君 (アレグリアス) |
● ●テクニック ●いま流行りの転調を多用したモダン・アレグリアをかなり自分のものにしていた。しかし、細かいフレーズ処理に曖昧な点が多かったので、それをクリアすれば相当良くなるのではないかと思う。(加部) |