菊地裕子
例年になく参加者が3組と少なかったのは残念だったが、非常にレベルの高い作品が多かった。
奨励賞は私も1票を投じたcoral flamencoが受賞し、トルニージョは話題賞を受賞したが、制約がなければ2組とも奨励賞にと思ったのは私だけではない。以前から書いていることだが、フラメンコの群舞はいまだ確立されていないジャンルだと思っている。ここ数年の新人公演の群舞部門を見ると、そのジャンルに自分達なりの表現で切り込んでくる意気込みのあるグループが台頭してきたように感じる。トルニージョは洗練されたモダンな振付でフラメンコ群舞の可能性を拓き続けているし、coral flamencoは、たとえば昨年のエストゥディオカンデーラ発「湘南大和路ライン」や、一昨年の小林理香フラメンコ舞踊教室、影山奈緒子フラメンコ教室といった、どちらかといえば泥臭いフラメンコに根ざした群舞の可能性に挑戦しているグループの方向性を、練りに練ったフォーメーションでさらに発展させた形だろう。「群舞はフラメンコの感動を倍増させてくれる!」かもしれない。その可能性を感じさせてくれた出演者と関係者に、沢山の「ありがとう!」を。

堀越千秋
吉例のフラメンコ新人公演である。A先生の独断と偏見はB先生のそれと異なる。
当然僕とも異なる。それもひとつの表現だからである。そう思って読んで頂きたい。
もし出演者の方で御質問のおありになる方は、どうぞ往復ハガキにてアクースティカあて(〒141-0021 東京都品川区上大崎2-15-5長者丸ビル3F)にお送りください。必ずお答えします。
ランクはA、a上、a中、a下、B上、B中、B下、b上、としました。

西脇美絵子
3組だけの出場だったが、レベルは非常に高かった。3組それぞれに異なる魅力があり、審査を忘れて楽しませてもらった。選考にあたっては技術的にはまだ荒削りだがフラメンコ性に富んだcoral flamencoと出演者のレベルが高く圧倒的な作品力だったスタジオ・トルニージョのどちらを推すか正直迷ったが、私はトルニージョを推した。選考の答えが一つでないことも、新人公演という場が単に舞踊ではなく"フラメンコ"を評価する場であることも承知している。だが、いやだからこそトルニージョの圧倒的なクオリティを奨励賞という形で評価することができなかった点については、忸怩たる思いが残る。coral flamencoの受賞に異存があるわけではまったくない。私だって一歩思考の回路を変えればそちらに投じていた可能性は大いにあったのだ。フラメンコにおける群舞の評価の難しさを改めて実感している。なお、特に良かったっものには◎、良かったものに〇を付記。



20 ラ・ダンサ

(シギリージャ)

ラ・ダンサ

●2人のシギリージャ。カスタネットの音が心地よい。シギリージャの曲想をよく理解し、抑えた表現で好感が持てた。しかし舞踊的には2人ともやや硬さがあり、「上手」という以上の印象を与えなかったのが惜しまれる。カスタネットの舞踊は今では希少であり、個人的にも好きなので、是非とも続けていただきたいところ。舞踊をさらに個性的に磨くか、カスタネットで「上手以上」に迫るか、いずれにしろ、誰でもない独自の世界を目指しての再挑戦を望みたい。(菊地裕子)

●なかなかに力作、という印象。久しぶりにパリージョを聞いた。お二人の内Bさんに、首の可憐曲げ(踊りの不足を補うため、ないし気分を出すためつい無意識に傾けてしまう首のこと)あり。 [B上](堀越千秋)

●淀みなく繰り出されるパリ―ジョも、二人が醸し出す空気感もフォルムもノリも、見事に息があっていた。息が合う、出演者の振りのフォルムや動きのタイミングが合っているというのは、フラメンコ以外の群舞では、いの一番に求められること。だが、フラメンコでは違う。一糸乱れずに踊ることよりも、一人ひとりの個性が生かされていること、それぞれがコンパス感覚や曲種のニュアンスをとらえていることが、より重要視される。しかして、二人の息は合っていた。胸ぐらをつかまれるような類のインパクトではない。だが二人が醸し出す調和は、とても好ましく思えた。フラメンコの群舞では、見落とされがちな大切なものが、ここにはあったように思う。〇(西脇美絵子)

21 スタジオ・トルニージョ

(グアヒーラ)

スタジオ・トルニージョ

●9人のグアヒーラ。既視感があったので「おや」と思ったら、2月に行われた協会設立20周年記念公演「オメナヘ〜愛は永遠に〜」での群舞が元になっていたようだ。個々の舞踊性や表現力が非常に高く、全員の集中力で複雑なフォーメーションも無理なくこなし、華麗で楽しい作品に仕上がった。さすがである。ただ、グアヒーラだからか、トルニージョにしては若干エンターテインメント寄りの表現が目立ち、フラメンコに固有の感動よりも"ダンス"としての要素が際立って、「よく出来たショー」的な印象になったのは否めない。難点ではないにしても、それが「賞」の行方を左右したように思う。トルニージョが群舞の可能性を拓いてきたのは間違いない。次の展開を楽しみにしている。 [特A評価]

(菊地)

●何という奇抜さだろう!かつてこんな派手な演し物は当公演で見たことがない。ふだんどこへ行くとこういうものが見られるのだろう?!生々しい。何だかわからないが圧倒された。誰かが「トクした」と言っていたが、よくわからない。  [B上](堀越)

●なんという艶やかさ! なんという芳しさ!  構成、振付、衣装、照明、それぞれが完璧なまでに作り込まれている一方で、女たちは、出演者たちの命が、エロスが、輝いていた。圧倒的なクオリティ、作品力。出演者一人一人の実力もハイレベルだ。何年か前に漆黒のシギリージャの世界を群舞で見事に表現して、フラメンコにおける群舞の新地平を示したスタジオ・トルニージョが、同じフラメンコでも180度趣の違うグァヒーラで同じことをやって見せた。曲種がグァヒーラだったから、作品の完成度の高さは、エンターテイメント性の高さを際立たせた。新人公演の傾向と対策的にいえば、エンターテイメント性は、一段低くみられてしまう。そもそもフラメンコとエンターテイメントの相性はあまりよろしくないのだ。十分その点も認識した上で臨んだに違いない。この作品で新人公演に挑むこと自体が、挑戦だったであろうと推察する。潔い挑戦に拍手! 残念ながら奨励賞とはならかったが、私の一票はここに投じた。◎スペシャル(西脇)

22 coral flamenco

(タラント)

22 coral flamenco

●4人のタラント。正直、今年の奨励賞はトルニージョで決まりだと思っていたところに、この群舞を見て度肝を抜かれた。なんだ、この4人は! 一人ひとりが恐ろしいほどにタラントの空気をまとい、強い存在感をアピールするではないか。変化に富んだフォーメーションも見事だし、その中でも全体に還流するエネルギーが落ちることがない。出演者個々の深い曲の理解と集中とコンパス感が、まごうかたなきフラメンコの振付による、群舞ならではの感動を生み出した。そう、こういう「フラメンコの群舞」を私は待ち望んでいたのです!素晴らしい![特A評価] (菊地)

●4人の中に1人うまい人がいた。衣裳にもう一工夫ほしいようである。動きに力みがある。  [B上](堀越)

●フラメンコの群舞を見るときにどうしても求めてしまうものがある。そこにフラメンコ性があるかどうかだ。具体的に言うなら、集団として美ではなく、あくまで個の結集として美があるか。全体の統制よりもコンパスの間合いを各人が掴んでいるか、等々。だがそれは、集団美をクリアしたうえで実現できる次元のものであると、筆者は考える。だが、フラメンコの多くの群舞は、全体美の追求がほとんどなされないまま単にでこぼこした群舞になるか、全体美の追求で終わってしまう場合が多い。この難題に真正面から取り組んだのがコーラル・フラメンコだ。フラメンコ舞踊の技術面ではつたない部分も見受けられたが、4人それぞれが、タラントのなんたるかを良くつかんでおり、フラメンコらしい強い存在感を守りながら、踊りきった。同時に群舞として多様な空間の使い方、見せ方でも楽しませてくれた。ぐっとこちらの胸元に迫ってくる群舞だ。奨励賞おめでとう!◎(西脇)

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
先行きが見えない...
壁を感じている...