スペインの夏、7月から秋にかけては、各地で野外公演やフェスティバルが開催されるフラメンコシーズン。野外での公演は、夜10時前後から始まり、何人ものアーティストが名を連ねるフェスティバルともなると大トリが出てくるのが夜中の0時を過ぎることはごく当たり前。というのも、日中は40度を超える暑さで、日没は20時過ぎ。そんなスペインならではの長い夜が楽しめるというわけです。

夏のフェスティバルは、通常の都市での劇場公演とは違って、地元の人でいっぱい。野外のステージでは暴風が吹こうが、会場が多少ざわめこうがひるむことなく進む公演に、フラメンコのたくましさを感じたりもします。しかし、場所によっては交通のアクセスが難しく、終演後は車がない限り現地に宿泊するか、公共交通機関が動き出すまでどこかでしのぐか...単独旅行者にとっては、ちょっとアクセス難易度の高いイベントとなります。

毎年8月に行なわれる、通称「ラ・ウニオン」と呼ばれる「カンテ・デ・ラス・ミナス国際フェスティバル(FESTIVAL INTERNACIONAL DE CANTE DE LAS MINAS)」は、52年の歴史をもち、コンク―ルとしても権威のあるフェスティバルです。開催場所は、バレンシア州とアンダルシア州の間に位置するムルシア州のラ・ウニオンという町。フェスティバルの名にある"ミナス"は"鉱山"という意味で、このラ・ウニオンは、かつては鉱山で栄えた町です。(右写真:鉱山よりラ・ウニオンの町を望む)IMG_0443.JPG

フラメンコの曲種の中には、カンテス・デ・レバンテ(Cantes de Levante)というグループがあります。レバンテは東方、つまりアンダルシアの東にあるムルシア、アルメリア、ハエンの3県で生まれた歌です。さらにその中で、この地方の鉱山労働から生まれた歌がカンテ・デ・ラス・ミナス(Cante de las minas)と総称されます。タランタ、カルタへネーラ、ミネーラ、ムルシア―ナ、レバンティーカ、タラント、ファンダンゴ・ミネーロなど。いずれも重めで難曲ということもあり、歌われることが少なくなりつつありました。そこで、地元では自分たちの土地で生まれた歌が忘れられることなく歌い継がれていくようにと、カンテコンクールを開催したのがこのフェスティバルの始まりで、その後、ギター、そしてバイレ部門のコンクールが加わりました。そのため、カンテコンクールは今年で52回目ですが、ギター部門は33回目、バイレ部門は19回目となります。IMG_0319.JPG

今年は8月1日から11日に開催。最初の7日間は、昨年の各部門の優勝者によるオープニングナイトから始まり、サラ・バラス、ホセ・メルセー、ドランテス、アルカンヘルなど豪華なゲストによる公演が続きます。そして最後の4日間がコンクール。11日間どっぷり、フラメンコ漬けとなります。
(左写真:会場は1907年に建てられた旧市場。メインのこの広場の周辺には、連日朝4時過ぎ頃までフラメンコな人たちが行き交っていました)

フラメンコに興味を持ち始めたときから、いつかは行ってみたいと思っていたのがこのラ・ウニオンのコンクール。毎年、ゲストの豪華なアーティスト陣のラインナップを指をくわえてみておりましたが、ついに昨年ラ・ウニオン行きを決行しました。直前までバルセロナにいたので、そこからラ・ウニオンに自力で行くには、飛行機でムルシアか、電車で隣町のカルタヘナに着き、そこからタクシーでラ・ウニオン入りすることになります。
電車は、夏ダイヤで海岸沿いを走りながらの各駅停車となり8時間。飛行機で行くとすると、バルセロナからマドリードに飛び、そこでムルシア行きに乗り換えとなりますが、ムルシア行きは1日2本のみで朝9時か夜9時。接続がよくありません。では、マドリードから電車にすると...5時間!結局空港で待つ乗り換え時間と同じくらいになるのです。
次の問題が宿泊場所。ラ・ウニオンには、ホテルは一軒だけしかないのです。車で15分ほどのカルタヘナにはホテルはありますが、深夜1人で毎晩タクシーというのも心もとないもの。幸い、フェスティバル直前にオープンしたペンションを紹介してもらいそこに落ち着きましたが、国内移動のわりに、今までで一番時間、労力、経費のかかる旅となりました。
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では次回、その最難関(?)の旅の末に体験したフェスティバルとアーティストをご紹介します。
(右写真:会場である旧市場の中にある舞台。鉱山繁栄期を象徴して鉄とガラスをふんだんに使った構造。公演に使うようになってからは、天井には音響効果を考えて、様々な工夫が施されました。)

Fotos:坂倉まきこ(MAKIKO SAKAKURA)

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