久しぶりの大型新人登場に感動したので、敢えて今回は特別番外編として、最新のライブレポートをお届けしよう。

"新人"といっても、その実力は、すでに日本フラメンコ協会の新人公演・ギター部門において、史上初の奨励賞兄弟受賞(兄・健太郎2009年、弟・康次郎2010年)や、プロモーション映像などで、目にした人も多いだろう。本サイト「フラメンコ・シティオ」でもロングインタビューが掲載された。二人ともセビージャのフラメンコ・アカデミー「クリスティーナ・ヘーレン」のモニトールと呼ばれる副講師を務めるギタリストだ。
 筆者は二年前、スペイン・コルドバの『フラメンコの白夜』で行われた日本人ライブ「デル・ソル・ナシエンテ(日出づる国から)」で、健太郎の演奏を初めて聴いた。彼は当時19歳。しかし、マイク音量不足とバイレ主体のプログラムで、ソロもアクシデントで飛ばされてしまい、大舞台での実力が未知数のままだったのだ。
 あれから二年後、健太郎のギターは恐るべき成長ぶりだった。こんなタイプのギターは日本人で初めて聴いた。抜群のコンパス感(リズム感)とテクニックは、日本人の常識を覆すレベルだ。まったくもたつかず、目を閉じると、まぎれもなくスペイン人のノリである。両親がフラメンコギタリストと踊り手(徳永武昭氏と小島正子氏)で、中学卒業後にセビージャへギター修業に渡り、はや5年。現地アカデミーでの副講師の経験は、相当大きいのだろう。「基礎を叩き直された」と二年前、生徒時代のインタビューでは語ってくれた。
 事実、テクニックの基礎レベルが非常に高いゆえ、速弾きでも音がダマにならず、粒立ってきらめくのだ。指使いが基礎に忠実ゆえの、抜群の安定感。このギリギリと研ぎ澄まされた硬質感と鋭さは、決して大げさではなく、若き日のパコ・デ・ルシアを彷彿とさせた。
 第一部5曲、第二部5曲の合計10曲とも、観客を飽きさせないように、ブレリア、タンゴ、アレグリアス等の、ノリやすいリズム重視のプログラム構成。それが功を奏して、最後まで客席の集中力は途切れなかった。観客の多くが楽しげにリズムに肩を揺らし、パルマを叩き、熱っぽいハレオを掛けていたのだ。
 グループの勢いが弛まないよう、コンパスに鋭くムチを振るい、抜群のソニケテ(リズムが生むノリ)を生み出すギタリスト――それがこの日の健太郎である。しかし、決して強権独裁ではない。信頼のおけるメンバー同士が醸しだす、絶妙な調和がグループ内に見える。これもどこか、パコのセクステットを彷彿させた。
 弟の康次郎も相当の実力だ。ソロで聴かせたソレアの深みも10代とは思えない。だが今回のライブに限っては、兄・健太郎の独壇場といえる展開だった。時にパルマを叩き、カンテも唄い、MCを仕切り、ラストは美貌のドイツ人バイラオーラのジャムナ・エンリケス(彼女も素晴らしかった!あのサパテアード!)とパレハを踊ってしまう。その若く溌剌としたリーダーシップに、今どきの若者には珍しい男気を感じた。黒の水玉シャツもトマティートっぽく、シックでお洒落。二人ともぜひこのままスペインで、武者修行を続けてほしい。そして、一体どこまで行けるのか、とことんまで自分を試してほしい。応援しています!!
 さて、最後は本来のプーロ・ドランカー的に締めよう。
 本公演の1ドリンク券用に烏龍茶と並んだワインは、スペイン北東部アラゴン発の銘柄、「ボルサオ」のティント(赤)。ガルナッチャ(フランス語ではグルナッシュ)種が主体の安旨ワインとして、最近日本市場を席捲している。私は二杯飲んだ。マアマアいける。だが、この日の輝かしい二人に敵う酒は、そう簡単には見つからないだろう。

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