2週間のフラメンコ・フェスティバルが終わった翌日の日曜日。空はアンダルシアブルー。すっかり冬が終わった感じがありますが、今年は今までにない冷えがあったようなので、また気候は急変するかも?という声もあります。日曜ということもあって、毎夜毎夜の各所でのフラメンコ公演があったのが嘘のように静まり返っています。来年も無事、フェスティバルが開催され、またここで集うことができるといいですね。
前回に引き続き、コンサートのご紹介から。
もうずいぶん前からですが、フラメンコの世界に"フュージョン"という言葉が流行りだし、やがてそれは"コンフュージョン"だと揶揄される現象が起きました。そして現代では「フラメンコ」という言葉を冠しているだけで、実際にはフラメンコの根も粋もない、なんちゃってフラメンコが増殖。フラメンコをネーミングに入れることで、興味を引いたり、付加価値をつけているだけの「オレオレ(Oleに因んで勝手にネーミングしています)詐欺」は、聴衆を騙しやすい海外だけでなく、本場スペインでも語られていました。
カメラタ・フラメンコ・プロジェクトのコンサート「ENCUENTROS DE VANGUARDIA(アバンギャルドの出会い)」、今回のメンバーはセクステットで、ピアノ、バイオリンチェロ、サックス、コントラバス、パーカッションに、フラメンコのカンテ、バイレが入りました。このコンサートは、フラメンコの貴重な映像を残したシリーズや現在でもラジオでも活躍中のフラメンコ界の重鎮であり、大の理解者、ホセ・マリア・ベラスケス-ガステル氏がコメントを寄せるグループ。そしてそこには"フュージョン"という言葉は見当たりません。
フラメンコと印象派クラシック、ジャズなどの他分野の音楽をintegrar、つまり一体化させたもの。そして、ただ弾けるというのではなく、フラメンコにも深く関わっていたプロフェッショナル達。例えば、たいしてフラメンコを知らなくても楽譜さえあれば、その楽器が使えればフラメンコは弾けるでしょう。そして、聴いている人はそれをフラメンコだと思います。それは間違いではありませんが、フラメンコ音楽を長年聴いていると、それはフラメンコに聞こえても、フラメンコとは感じられないものです。
このグループのメンバー、例えばピアノのパブロ・ソアーレス(Pablo Suarez)は演奏だけでなく作曲家として長年フラメンコ作品に関わっていますし、チェロのホセ・ルイス・ロペス(Jose Luis Lopez)、コントラバスのホセ・ミゲル・ガルソン(Jose Miguel Garson)もエンリケ・モレンテ、(Enrique Morente),カルメン・リナーレス(Carmen Linares)やホアキン・コルテス(Joaquin Cortes)らの公演での実績があります。
ゲストのカンタオールのアントニオ・カンポス(Antonio Campos)は、最近までアンダルシア舞踊団でも歌っており、ピアノのパブロとの共演もありました。いつもはバイレへの伴唱が多いので、後方で黒い服を着て舞台に立っている姿ばかり見ていましたが、今回はベージュのスーツでステージの真ん中に立ち、後ろにバンドを従えてのいつもとは逆の図。ソリストとしての実力も十分の歌手です。
バイレのアルフォンソ・ロサ(Alfonso Losa)は、若き日のファルー(ファルーコ・ファミリーの次男)のスタイルを彷彿させる重みのある男性らしい動きで、硬派で、大地にしっかりと刺さる軸のある踊りでした。
バイオリンチェロから始まる静かなオープニング。タンゴっぽさのあるピアノのメロディーあり、サティーのあり、ミロンガ、シギリージャ(フラメンコの曲)ありと、実力派のミュージシャンによる心地良い演奏が続きます。フラメンコとジャズは、リズムやスイング感は違いますが、インピロビゼーションという共通項があります。そのインプロ力が高いアーティストは他分野の音楽の暗黙の了解にも敏感なのかもしれません。演奏はビデオでお楽しみください。
ヘレスのカンテと言えば、ファミリア・アグヘタス(Familia Agujetas)を抜きには語れません。アンダルシアでが最後のSが発音されないので、音的にはアグヘタな音ですが、一応表記には"ス"を付けます。ヒターノの叫び、フラメンコ・プーロという言葉が一番当てはまるカンテでしょう。全くコマーシャルベースのものではないので、BGMとして聞けるようなものではなく、じっくり、ずっしりと聴くカンテです。今回のフェスティバルでコンサートがあったのは、アントニオ・アグヘタ(Antonio Agujetas)。2015年に亡くなったマヌエル・アグヘタス(Manule Agujetas)の息子で、フェスティバル中にギタリスト、マヌエル・パリージャのコンサートで歌ったドローレス・アグヘタス(Dolores Agujetas)の弟です。記者会見では、超マイペースな感じのアントニオ。今回のギタリストは、父マヌエルの次のアルバムで弾きたがっていたギタリスト。それが叶わなかったので、今回いい機会だからって呼んでやったのさ、と淡々と語ります。そして「いつも、コラソン(心)で歌ってるだけだよ。」とも。コンサートでは、何かブツブツとつぶやきながら登壇。会場は超満員。オールバックの髪にブルーのスーツ、赤いネクタイ。痩せているせいか、ズボンはかなり余裕があります。
まずはマラゲーニャ(曲種名)。歌い終わると、立ち上がって会場に向かって投げキス。次のソレア(曲種名。フラメンコの中で根幹にある大切な曲)もまるで語っているかのように歌います。伝統的なレトラ(歌詞)。しかし、アントニオはまるでこの歌詞が作られた時代に生きているような臨場感があります。真の感情がそこに乗っているのでしょう。現代の50歳とは思えない風貌。続く、シギリージャ、ファンダンゴとへレスがオリジンともされる伝統曲が続きます。時には鬼気迫る表情で、苦しみや悲しみを腹の底から叫ぶように歌います。最後は、「パルメーロ、ポル ファヴォール!」とパルマの二人を舞台に呼んでブレリア。現代社会に生き続ける、奇跡のような生粋のフラメンコがそこにありました。
同じ会場で続いてコンサートしたのは、フアン・ララ(Juan Lara)。こちらもへレスのフラメンコ・ファミリーの出身。ロス・パコテス(Los Pacts)の一員で、親族には故エル・トルタ(El Torta(もいます。アントニオ・アグヘタスの後だけに、ずいぶんマイルドに感じます。ソレア・ポル・ブレリアから始まり、最後はブレリア。もう身体に染み付いていて、楽々と歌っていきます。彼らのように、生まれた時から、生のブレリアを聴いて育っている人たちは、本当に小気味よく歌うので、歌詞の内容がわからなくても、自然と体にリズムが入ってくるブレリアを歌います。
写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FESTIVAL DE JEREZ
記載内容及び写真の無断転載はご遠慮願います。Copyright Makiko Sakakura All Rights Reserved.