前回に引き続きディエゴ・アマドールのインタビューからです。
フラメンコと言うとご存知の通り、出発点は歌（カンテ）。その伴奏の楽器としてギター、そして音楽から踊りが生まれ、フラメンコと言う芸術を完成しました。

この３つのコンポーネントからなるものが一般的にフラメンコと呼ばれます。ギターソロ、カンテソロがあるように、それぞれが単独でも、または２つの組み合わせ、歌とギター、歌と踊りというのも"あり"で「これがないとできない」というものでもありません。
そのフラメンコの演奏に、ギタリストのパコ・デ・ルシアがペルーの楽器「カホン（Cajon：木製で箱形の打楽器）」を取り入れたことは有名ですが、その他にもバイオリンやフルートなどもフラメンコ音楽の演奏に加わりました。さてピアノはと言うと、1966年に「組曲フラメンカSuite Flamenca」を作曲したアルトゥール・パボンがフラメンコピアニストの先駆け。その後、ジャズピアニストのチック・コリアの影響も受け、ピアノによるフラメンコの演奏方法も変わって来ました。前置きが長くなりましたが、そんな歴史も踏まえてディエゴ・アマドールのインタビューの続きをお届けします。
まずはフラメンコ、そして音楽全般に関するお話です。
「フラメンコは、生まれた時から既に身体の中にあったもの。フラメンコとしてフラメンコと共にこの世に生まれて来た。だから例えピアノやエレキギターというフラメンコではあまり使われない楽器で演奏しても、いつも土台になっているのはフラメンコ。フラメンコというベースがあってこそできることなんだ。」
「音楽に対してはオープンで、どんなジャンルの音楽も聴くし、これが嫌いというのはない。もちろん僕はフラメンコだから、子供の頃はずっとフラメンコを聴いて育ったけど、その後、ジャズも聴くようなった。聴いて何かを感じるものであれば、クラシックであれ、ジャズであれ、どんな音楽であろうが関係ない。素晴らしい演奏、本物の音楽であれば、心に響き、何かが伝わって来るものだよ。」

ーまだ日本では、フラメンコ音楽はあまり認知されていないんです。フラメンコと言えば"踊り"だとか...
「そうだろう。フリルをつけた衣装と花っていうイメージが一般的だね。みんなにフラメンコを「音楽」としてもって知ってもらいたいな。ただ、"フラメンコ"と言って世に出ているものが、すべて本当にフラメンコとは限らないということに注意しないと。ちょっと混乱してしまっているものも結構多いんだ。ジャズ出身の人が演奏にフラメンコを取り入れたら、注目を集めるだろうけどそれは本当のフラメンコとは言えない。例えば、僕自身はジャズが好きだけど、自分はジャズアーティストではなく、フラメンコだ。フラメンコは、他ジャンルの音楽の影響を受けて、新たな道を歩み始めているけれど、謙虚な気持ちでそれぞれの分野に敬意を払って進んでいくべきだと思う。」

ーたしかにあなたの曲はいわゆるフラメンコの楽器を使っていなくても、フラメンコが強く伝わって来ますね。
「もちろん！どの楽器のパートもしっかりとしたフラメンコの原型をベースに、曲を作り上げていくんだ。いきなりドラムをソレア（フラメンコの曲種の一種）に取り入れようとしても、そのままではソレアには聞こえない。ひとつひとつの音を丁寧に見直していくんだ。ベースギターにしてもそう。その結果、僕のやっている曲は、すべてフラメンコだし、実際聴いても分ってもらえると思う。
例えば（自分が作曲した）ソレアは、ジャズに似たメロディーで始まるけれど、その後にソレアのカンテがすんなり入る。さっきリハーサルでやった「ロマンセ・デ・アマルゴ」は、チャーリー・ヘイデンの「ファースト・ソング」という曲をアレンジしたものを取り入れ、カマロンのソレアの歌詞で歌っている。こういうことをするためには、しっかりとした知識があって、自分がやっていることが本当にちゃんと分っている必要があるんだよ。」

ー今後のプロジェクトは？
「新しいアルバムの準備は進めていて、既に録音済みの曲もあるよ。仲間のアーティストの参加も考えているし、いろいろとやりたいことはたくさんあるけれど、シンプルな構成でいこうかと思っている。自分自身のスタイルはあるけれど、アルバムが毎回前作とは違うスタイルで作りたいんだ。例えばライブでやっているままを録音してみたいと思っているよ。発売時期？それは断言しないほうがいいな。大抵、ずれるからね（笑）」

その夜のコンサートでも、根底に深く濃いフラメンコを感じる曲の数々と歌声で、表現方法を変えても彼の存在自体が真のフラメンコであることを証明してくれました。(左写真：息子ディエゴ・アマドール・ブランコと）
写真協力：Alain Jacq
協力：Diego Amador (http://www.diegoamador.es/)