JAVIERFERGO_PASARIA_003.jpg日本でもお笑いは人気ですが、スペイン、特にここアンダルシアの人は冗談が大好き。スペイン語では「チステ(CHISTE)」と言いますが、人々が集まると誰かしらが必ずネタを持っていて隙あらば笑いを仕掛けてきます。スペイン語ノンネイティブにとって辛いのは、話の最後のオチになると畳み掛けるように早口で話す上に、もう話している本人がほとんど笑っていて、何を言っているんだか聞き取れすらしないことです。

カディス県カディスのカーニバル(スペイン語ではカルナバル)は、何人かでグループを作り、扮装をして社会風刺やいろんなジャンルの出来事を辛口のユーモアを効かせて歌うグループ(チリゴタ、コンパルサ)のコンクールがあります。ただのお笑いではなく、歌のうまさや表現力もポイントで、なかなかの役者が揃います。そんなお土地柄に生まれた4人のコンサートが、今回のフェスティバルで公演されました。タイトルは「?Que pasaria si pasara?」。もし〇〇だとしたら、どうなっているだろう?という、現実にはありえないことを想像する4人のカディス人、下記写真左から、リキ・リベラ(Riky Rivera)、エル・フンコ(El Junco)、ダビ・パロマール(David Palomar)、そしてロベルト・ハエン(Roberto Jaen)の繰り広げるコメディとフラメンコたっぷりの作品。

IMG_8143.jpgカンタオール(歌手)のダビ・パロマールは、若い頃からチリゴタ(前述のカルナバルのグループ)のメンバーとして活躍していました。伸びのある声と人懐こい笑顔が印象的で、とにかく歌唱力は抜群。すでにアルバムも4枚リリースしています。
ギターのリキ・リベラは、ダビの奥さんのアナベル・リベラ(Anabel Rivera)の弟。作曲、プロデューサーとしても活躍しており、歌手のインディア・マルティネス(India Martinez)のアルバムも手がけてヒットさせています。
バイレのエル・フンコは、来日回数も多いのでご存知の方も多いと思いますが、すらっとした長身にサラサラの髪の王子様系の風貌ですが、バリバリのカディス人。歌うのが大好きな、気さくでユーモアある人です。クリスティーナ・オヨスの舞踊に10年近く在籍し、ソリスタとしても踊っていました。

パーカッションのロベルト・ハエンは、エル・フンコの弟ですが、そのことはプロフィールには書いてありません。兄の七光りでではなく、ロベルトのマルチタレントぶりとコンパス(フラメンコのリズム)センスの良さが買われて、多くの公演に出演しています。実は、ここでご紹介するために、あえて今までの記事には書きませんでしたが、今年のフェスティバルでは4公演に出演しています。IMG_8141.jpg
ラ・ルピの「ラ・パウラ」ではパルマ(手拍子)、ディエゴ・ビジェガスのコンサートではパーカッション、そして、この公演の翌日にはアンドレス・ペーニャの公演では、パルマ(手拍子)で。4公演に共通なのは、ただアーティストとして楽器やパルマを叩くだけではなく、それ以外の役者的要素が求められてる役どころ。ラ・パウラでは、場面ごとの演技とコミカルなラップを披露し、ディエゴのコンサートではMCへのツッコミや観客へのコーラス指導の手伝い、そして、アンドレスの公演でもちょっとした演技や踊りもこなしています。ユーモラスで器用、そしてフラメンコのコンパス感バッチリのアーティストです。今までも、ロベルトの名バイプレーヤーを何度も目にし、気になるアーティストの一人でした。公演前日に本人と直接話す機会があり写真をお願いすると、この"イカした"ポーズです(笑)。「ほら、ハリーポッターだよ!」とシャツを見せてくれたり、オフでも何かしら楽しい雰囲気を醸し出していました。公演について訊くと、兄のエル・フンコと口を揃えて「楽しいよ!笑えるからね!」と本人たちの方がうずうずしている様子でした。フラメンコは、観客にとってセラピーのようなものと、以前インタビューしたラファエル・カンパージョが言っていましたが、笑いは何よりの心の特効薬。公演への期待が膨らみました。

image__Que_pasaria_si_pasara_Jerez_4218_96461230671030662.jpg似た者同士の4人のカディス人によって、いろんな場面が繰り広げられた舞台。4人が舞台に立ち、それぞれが何やら熱弁を始めます。それすら既に、フラメンコのリズムに乗っているようで、続いてノリのいいパルマで始まります。これぞフラメンコのリズム!すると今度は急に世の中に起きているシリアスな問題を口にし始めます。最後に「シギリージャ(苦悩や悲しみが描かれるフラメンコの曲種)を歌う時、口の中は血の味がする」と言うと、ダビ・パロマールががシギリージャを歌い、エル・フンコが踊り出します。さすがの歌唱力で、さっきまでのコミカルな表情とは全く別人のようです。

JAVIERFERGO_PASARIA_002.jpgリキが語りだすと、残りの3人は後ろで椅子に座って新聞を広げながら、聞き耳を立てています。その間もそれぞれのリアクションの芸が細かく、笑いを誘います。その他には、スペイン各地の子どもたちを想像して、それぞれの土地柄を風刺していって、最後は「カディスのこどもたちは...一味違うんだよな。」とカディス自慢が始まり、アレグリアス・デ・カディスをコミカルに歌い踊る場面も。

JAVIERFERGO_PASARIA_005.jpgダビ・パロマールが、「ドゥエンデ」探しの旅を語る場面もありました。「ドゥエンデ」とはフラメンコに潜む不思議な力。人の心を震わせたり、感動をもたらすものです。「ドゥエンデ」のないフラメンンコはダメだということで、じゃあどこに行ったら「ドゥエンデ」はあるんだ?!と、カンテが生まれたとされている鍛冶場(フラグア:Fragua)や鉱山(ミナス:minas)に行ったと言います。でも、見つからない。「そうだ!森に行こう!」...と、ここで「ドゥエンデ」のもう一つの意味との引っ掛けが出てきます。「ドゥエンデ」とは「小人の妖精」という意味もあります。そして、大抵、森の中に入るものなんです。もちろん森では、切り株を枕に「ドゥエンデ」さんに出会えて、そのやりとりを面白おかしく再現。本当に役者です。

image__Que_pasaria_si_pasara_Jerez_4340_7900762348991284557-2.jpgリキは、コミュニケーション手段について語ります。今みたいに便利じゃない時代はどうしてたんだろう?インディアンは火を焚いていたのかなあ?と、想像ごとに3人がコミカルに演技を添えます。
そうだ!こういう手段もある!と、4人が机を囲んで始めたのはQuija または espiritismo と呼ばれている遊び。日本で言う「こっくりさん」です。「そこにいる?」と4人で天に向かって訊き、4人が手を繋ぐと、エル・フンコにカディスのカンタオール、チャノ・ロバートが降霊して、すっかりチャノになって、しばらくすると「あ!戻った!」。テーブルの上で円状のものに4人が手を置くと、それが動き出して文字の上で止まります。それを繋ぎ合わせると「R.O.S.A.R.i.O」。4人が「ロサリオ?」と首を傾げていると、ロベルトが突然歌いだします。フアニート・バルデラマ(Juanito Valderrama)のヒット曲「エル・エミグランテ(El emigrante)」を歌い出します。"Tengo que hacer un ROSARIO"の歌い出しの歌詞で、一同「あーフアニート・バルデラマか!」ということで、降霊してきたフアニートにいろんな注文を出します。フアニートになりきったロベルトもまた好演。

image__Que_pasaria_si_pasara_Jerez_4672_1872498934834170952.jpg4人が白衣を羽織ると、エル・フンコが「Tiempo」の大切さを語り出します。『Tiempo』とは時間、であるとともに、テンポであります。フラメンコのテンポとの引っ掛けです。「さあ、みなさん、胸に手を当てて!」「うーん、ウイルスにやられるとコンパス(フラメンコのリズム)から外れるんです。では、ドクター・ティエンポが治療しましょう!」と、客席に降りて、観客に"テンポを整えるための"フレーズの練習をさせます。

image__Que_pasaria_si_pasara_Jerez_4218_96461230671030662-2.jpgこんな感じで、歌あり語りありのコメディー。風刺を入れた語りが100%分かればもっと楽しめたのですが、そこは外国人には難しいところ。しかしそれを差し引いたとしても十分楽しめる、バイレ、ギター、歌、パルマともに、決めるところでは決めている一流のフラメンコのパフォーマンス。公演する場所によって、内容も変えているという凝りよう、と言うか、自分たちもきっと楽しんで作品を作っているのかもしれません。残念ながら公演のビデオはありませんが、プロモーションビデオのリンクはこちらです。

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