去る10月23日、第18回ビエナル・デ・フラメンコのヒラルディージョ各賞の受賞者の発表がありました。ヒラルディージョ賞については、前回の記事をご参照ください。今回は、2年前の前回と比べて賞の数は5つ減りました。また「審査員特別賞」に代わって「セビージャ市賞」が設けられました。(右写真:エンリケ・モレンテ)
では、各部門の受賞者を写真入りでご紹介します。
セビージャ市賞:エンリケ・モレンテ、フアン・ペーニャ・エル・レブリハーノ(Giraldillo CIUDAD DE SEVILLA a Enrique Morente y Juan Pena El Lebrijano)
"アーティストとしてのキャリアの中で果たしたフラメンコへの多大なる貢献とセビージャとの特別な結びつきを讃えて"という理由で選ばれた2人。エンリケ・モレンテは、2010年に亡くなられましたが今回のビエナルの開幕公演となった追悼作品で、その存在の大きさを改めて感じさせられました。そして、エル・レブリハーノは最終日の閉幕公演の主役。最初と最後を飾った2人のアーティストの受賞となりました。(写真はセビージャ市長とレブリハーノ)
カンテ部門:アントニオ・レジェス(Giraldillo al CANTE a Antonio Reyes)
ヘスス・メンデス(Jesus Mendez:写真左)と2人で舞台に立った作品「カンタオーレス」の中での、自分自身の個性の中にもカンテの先人マエストロ達の伝統を伝える歌唱を評価されての受賞です。アントニオの出身地はチクラナ・デ・ラ・フロンテーラ(Chiclana de la frontera)。有名なカマロン・デ・ラ・イスラ(Camaron de la Isla)が名アルバム「La Leyenda del tiempo(時の伝説)」の中で歌った「Bahia de Cadiz(バイア・デ・カディス:アレグリアスという曲種)」に出てくるサンティ・ペトリ(Sancti-Petri )という美しい浜辺のある街です。歌手ランカピーノ(Ramcapino)の出身地でもありますね。ここから、次代を担う歌手としてさらなる新風を吹かせてくれることに期待です。
バイレ部門:ファルキート ( Giraldillo al BAILE a Farruquito)
卓越したバイレで観客を大いに湧かせた公演「Pinacenda」。そして、ゲストとして出演したエル・ペレ(El Pele)公演でもそのバイレは光っていました。97年、ファミリアの長である祖父の死。その3年後には、父が42歳の若さで突然死。18歳にしてファミリア・ファルーコの家長としての責任を担うことになりました。その後、人気絶頂で作品を発表するごとに大成功を収めていた2003年には、自らが残念な事件を起こすことに。裁判、服役、結婚、復帰...これらを経て今年32歳を迎えたファルキート。弟のファルー(Farru)、カルペタ(El Carpeta)の2人も今回のビエナルで活躍していました。やはりセビージャのバイレには、ファミリア・ファルーコの存在はなくてはならないものなのでしょう。
ギター部門:ミゲル・アンヘル・コルテス(Giraldillo al TOQUE a Miguel Angel Cortes)
あらゆる面での熟練したギター演奏が評価されての受賞。それもそのはず。今回のビエナルでは、ホセ・マリア・ガジャルド(Jose Maria Gallardo)とのコンサート「Lo Cortes no quita lo Gallardo」でソロをじっくり聴かせただけでなく、伴奏として、マリナ・エレディアMarina Heredia)、エスペランサ・フェルナンデス(Esperanza Fernandez)、そしてアルカンヘル(Arcangel)のコンサートでも存在感のある素晴らしい演奏を聴かせてくれました。2005年にカルメン・リナーレス(Carmen Linares)と、2007年にはアルカンヘルと来日しました。コンサートの後、初めてスペイン人のフラメンコギターを聴いたというお客様から、その音色に圧倒されたという声をいただいたことは、今でも印象に残っています。
最優秀作品:アンダルシア舞踊団「イマヘネス」(Giraldillo al MEJOR ESPECTACULO a Imagenes del Ballet Flamenco de Andalucia)
まだこのコーナーで取り上げていなかった作品でした。設立20周年となるアンダルシア舞踊団としては、30作目となる記念すべき作品。過去に監督や振付を務めたアーティスト達の功績を思い出させる素晴らしい作品であったことが評価されました。初代監督マリオ・マジャ(Mario Maya)の元で、バイラオーラとして活躍していたラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco)。昨年、舞踊団の監督に就任し、これが第二作目です。イマヘネスとは"イメージ"。単なる再現するのではなく、過去の名場面のイメージを思い起こさせるように、知っている人が見ると、「あ、これは誰々の何々という作品からだ」と分かるように作るというのは、なかなか難しい作業だったようです。グラナダで約一ヶ月間、毎日6時間のリハーサルを積んだとのこと。記者会見には苦労を共にしたメンバーも集まりました。
ソリスト(スペイン語ではソリスタ)は、ダビ・コレア(David Coria)、アナ・モラーレス(Ana Morales)、ウゴ・ロペス(Hugo Lopez)。ダビは振付にも入っています。テクニックや経験だけでなく、豊富な知識や構成力、そして人々をまとめる力が必要とされる重責を果たしながら、自らもバイラオーラとして出演するラファエラ・カラスコのバイタリティーにも脱帽です。ベレン・マジャ(Belen Maya)、イサベル・バジョン(Isabel Bayon)と並び、「マエストロ」達から直接学ぶことのできた世代で、尚かつ、時代の変化を体験しながら現代のバイレを牽引する、アラフォーアーティストの底力を感じます。(写真後列右から三人目がラファエラ・カラスコ)
顕著な活躍をした新人:マヌエル・バレンシア(Giraldillo REVELACION a Manuel Valencia)
今年のビエナルは、ギターの名演奏がを堪能することができました。パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)を失った今、ベテラン、中堅、若手、全てのギタリストがもう一度フラメンコギターの原点を見つめ直して、天国のパコに捧げるかのように演奏に情熱を注いでいるかのようです。そんな中で、マヌエル・バレンシアのコンサートもとても印象深いものでした。ヘレスのカンテを影で支えながらキャリアを積んで来たマヌエルの受賞は、伝統的なフラメンコギターの演奏を守る姿勢が高く評価されてのものでした。
マエストロ賞:ラファエル・リケー二(Giraldillo a LA MAESTRIA a Rafael Riqueni)(写真は左:マノロ・フランコ、右:ラファエル・リケーニ)
セビージャ出身で、ニーニョ・リカルド(Nino Ricardo)、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)、マノロ・サンルーカル(Manolo Sanlucar)と言うフラメンコギターのマエストロの流れを汲む正統派ギタリスト。今年52歳のラファエル・リケー二ですが、97年頃から病気療養のため、公の場で弾くことが少なくなっていました。
今回、ロペ・デ・ベガ劇場で公演されたカンタオールのセグンド・ファルコン(Segundo Falcon:写真右)が中心となって企画した作品「セビージャ(Sevilla)」に、マノロ・フランコ(Manolo Franco)、パコ・ハラーナ(Paco Jarrana)と共に登場しました。三人ともセビージャのギタリストで、それぞれの個性を感じさせる素晴らしい演奏。その中でもリケーニに対する観客の拍手には一段と熱いものを感じました。12歳でのデビュー以来、演奏、作曲の両面でその才能を発揮してきていたただけに、地元の人々、そしてフラメンコファン全てが、リケーニの復帰を願ってきたことの現れだったのでしょう。特に「アマルグーラ(Amargura)」を三人で弾いた場面では、会場は感動でどよめいていました。この曲は、1919年にセビージャの作曲家、マヌエル・フォン・デ・アンタ(Manuel Font de Anta)によるもので、セマナ・サンタ(Semana Santa:キリスト教の聖週間)の行進に使われる曲です。アマルグーラとは、スペイン語で"苦しみ"を意味し、アマルグーラのマリア(Virgen de Amargura)に捧げられたこの曲も、死、葬儀を思わせる曲調です。この曲をリケーニは、1994年のビエナルでのコンサートの中で演奏し、人々はその美しさに驚かされました。こちらでお聴きいただけます。あれから20年。名曲、名演奏は色褪せることはありません。セビージャを、そしてフラメンコ界を代表するギタリストを讃える証して、この賞が贈られました。
受賞者の皆さん、おめでとうございました!!Enhorabuena a todos los premiados!
FOTOS de la Bienal:Antonio Acedo / その他:Makiko Sakakura