carrete1.JPGのサムネイル画像前回はお薦めの若手歌手をご紹介しましたが、今回は大ベテラン、いぶし銀アーティスト達の公演をご紹介します。(左写真:カレテ・デ・マラガ)
フラメンコ・フェスティバルと名のつくイベントは、スペインだけでなく各国で催されてます。1?3日程度の短いものから、1ヶ月に渡って続くものと期間も様々。その内容もスペインからのオファーで幾つかの公演を組み合わせたものもあれば、そのフェスティバル独特のチョイスで選んだ個性のある内容を打ち出すところもあります。7月にフランスのモン・デ・マルサンで行われるフェスティバルは、その後者。スペインには地理上近いということもあり、フェスティバルの監督は、しばしばスペインを訪れ、直接現地を視察してその内容を決めているようです。アンティグオ(古いもの)からもっと学ぶべきだと言われる今日この頃。今年は、若手とベテランを同じ日の舞台に立たせるという公演が企画されました。

YIYO.JPGのサムネイル画像まずは18歳のバイラオール、エル・イジョ(El YIYO)。バルセロナの北、バダロナ(Badalona)出身で、10代初めから頭角を表し、今年(2015)6月のマドリードのフラメンコ・フェスティバル、スマ・フラメンカ(Suma Flamenca)で、大御所バイラオールのエル・グイト(El Guito)と同じ舞台に立ち、注目を集めました。地元やバルセロナを中心に活動していたようで、舞台で観たのは初めてでしたが、すらっと長身でキレのある気持ちのいいバイレが好印象でした。なるほど、期待の新人です。新人...と言っても、10歳の時には中国で看板公演をしていたようですから、舞台キャリアはもう8年以上。こちらで30秒ほどですが当日の録画がご覧いただけます。本場スペインのバイレは層が厚いです。

若手バイラオーラとして登場したのは、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)から、ヘマ・モネオ(Gema Moneo)、24歳。ヘレスの名門フラメンコファミリーの一員で、カンタオールの故エル・トルタ(El Torta)の姪にあたります。4歳からバイレを始め、13歳で地元へレスのタブラオで踊り始め、翌年からは海外含め、タブラオ、舞台で本格的にプロとしての活動を始めました。フラメンコ的に恵まれた環境に生まれながらも、ドメスティックにおさまることなく、年齢、性別、ヒターノ、非ヒターノ、出身地を問わず、多くのアーティストから学んできたことが、今の彼女の実力を育む源となったのでしょう。ファルキートやホアキン・コルテスのグループにも参加しています。ヒターノ(ジプシー)の力強さをガツンと感じさせるバイレ。ヘレスを代表するバイラオーラへと成長することでしょう。

carrete2.JPGのサムネイル画像若手2人に対し、第二部のベテランの部で登場したのが、伝説のバイラオールと言っても過言ではない、カレテ・デ・マラガ(Carrete de Malaga)。1941年生まれ。その名の通り、アンダルシアのマラガ県出身。60年間踊り続けている大ベテランです。マラガの有名なビーチリゾート地域であるコスタ・デル・ソルに位置するトレモリノス(Torremolinos)のタブラオで踊り続けています。大きな劇場に出ることは少なかったのですが、その噂を聞いて、パコ・デ・ルシアやカマロンらもわざわざトレモリノスにカレテを観に来ていたほどのカリスマ性のあるアーティストです。真っ白なスーツを着こなす舞台上の姿は、実際の背丈は想像できないほど大柄な印象を与えます。男性のバイレの見本のようなすばらしい姿勢。そして、衰えることのないバイタリティー。観客の目を釘付けにさせる魅力あふれるバイラオールは健在でした。

Ranca.JPGカンテには、ラ・カニェタ・デ・マラガ(La Caneta de Malaga)、1932年生まれ。ロメリート・デ・へレス(Romerito de Jerez),同じく83歳。そして、ランカピーノ(Ramcapino)、70歳。ずらりと舞台上に揃い、曲が始まると、どこからか携帯電話の呼び出し音。しかし舞台上の誰も気にする様子もなく舞台は進行していきました。カニェタ、ロメリートと歌い、ランカピーノの番。するとまた、電話が。なんと!ランカピーノのスーツのポケットに入っていた携帯電話だったのです。それでもなお、ご本人ランカピーノも慌てるでもなく舞台上で携帯を切って、何事もなかったかのように歌に戻る。なんというのどかさ!と微笑ましくすらなる一場面もありました。(右写真:ランカピーノ)

ロメリートとランカピーノというベテラン2人が共演するファンダンゴがこちらでご覧いただけます。ちなみにこのシーンは、第一部に出演した若手達も皆、舞台に戻って来ていますね。こうして、世代の違うフラメンコ達が一堂に会するという機会があったのも、スペイン国外でのフェスティバルならではかもしれません。フェスティバル最終日公演に出演した、カンタオールのホセ・デ・ラ・トマサ(Jose de la Tomasa)も、記者会見で前日のこの公演について「ベテランに舞台に立つ機会を与えてくれたことは本当に素晴らしい」と繰り返し口にしていました。というのも、スペインでは、円熟した素晴らしいアルテをもつベテランが活躍する場が非常に少なくなっているからです。"芸術"であるフラメンコには定年はありません。競技ではないので一定の基準を満たせなくなったから、または、他者と比べて劣るからという理由で続けられなくなるものではありません。もちろん、加齢によっての変化は生じるでしょうが、それもまた「味」。アーティストにとって、フラメンコは人生そのものなのです。

2012年のセビージャのビエナル(セビージャで2年ごとに開催されるフェスティバル)で、カンタオーラのラ・サジャゴ(La Sallago)の歌を聴いて、何とも言い難い感動を覚えました。(その時の記事はこちら。映像はこちら)当時93歳。その3年後の2015年に96歳で亡くなられました。結局、このビエナルでのコンサートが最後の公でのステージとなりました。次のステージは残念なことに亡くなった一ヶ月後に予定されていたそうです。高齢になると健康上の問題でも、ステージへの出演は難しくなるでしょうが、93歳の歌声を聴くことができたのは、コンサートが企画されたおかげです。フラメンコの原点、歴史の生き証人であるベテランのアルテ(=芸術)をレスペクトする気持ちを育てるためにも、このような機会が増えるといいですね。
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フェスティバル最終日は、いつもの会場に円卓が設置され、恒例のディナー&ショー。メインアーティストは4名。まずは、ホセ・デ・ラ・トマサのカンテで幕開け。続いてはバイレで、メルセデス・デ・コルドバ(Mercedes de Cordoba)、ラファエル・デ・カルメン(Rafael de Carmen)、最後はフアナ・アマジャ(Juana Amaya)。全てソロでのパフォーマンスとなりました。(写真:公演当日朝の記者会見より)

このフランスのモン・デ・マルサンのフェスティバル期間中に行われていたクラスには、秋に来日予定のラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco)も講師として参加していました。初日のレセプションで久しぶりにお会いしましたが、アンダルシア舞踊団を率いて三年目の彼女は、とても溌剌としていて、超多忙なスケジュールも楽しみながらこなしているような印象を受けました。ラファエラを知ったのはサンパウロ在住時。今から20年近く前から、スペインからブラジルにもフラメンコを教えに来ていました。やがて、彼女のクラスに出るようになり、その恐るべき超高度なテクニックとフラメンコ感に直接触れることもでき、魅力のあるアーティストとして注目してきました。ラファエラの振付は、彼女独特のスピード感と細部を高度なテクニックできっちり埋めているがゆえに醸し出される格好良さがあるのです。そして、なんと言っても「音」への反応が敏感。体の動きの全てがリズムを刻み、音楽の一部となっているのです。

11798256_867371353353241_1415622275_n.jpgそのラファエラ・カラスコが、アンダルシア舞踊団の監督として9月に来日します。それについて、ご本人から一言いただきました。(右写真中央がラファエラ)
「日本にまた行けることをとっても嬉しく思っているわ。ここ10年くらい行ってなかったからね。また日本で踊れるのがとても楽しみだし、日本の知り合いの皆さん、クラスに来てくれたことのある生徒さん達にまた会えることもとても楽しみにしてます。一緒に楽しいひとときを過ごせるといいわ!」日本へは既に何度か来日経験があり、若い頃には6ヶ月滞在して新宿のタブラオで踊っていたこともあるラファエラ。短い滞在にはなるものの、「覚えている場所もあるから、街歩きも楽しめたらいいな」とも話してくれました。

DSCN0225.jpg今回来日の作品「イマヘネス(Imagenes)。アンダルシア舞踊団第一期生だったラファエラが、監督として、バイラオーラとして、20年を迎えた舞踊団の歴史を彼女自身のイマヘン(Imagen=イメージ)で蘇らせています。見応えのある公演ですので、是非ご覧下さい。公演は、バルコ主催のフラメンコ・フェスティバルとして行われ、このアンダルシア舞踊団の他に、サラ・バラス(Sara Baras)の公演もあります。こちらに詳しい日程などが出ております。(写真:ラファエラと筆者)

また、同じく9月には、ギタリスト、カニサレス(Canizares)のコンサート(詳細はこちら)が、続く11月には、ロシオ・モリーナ(Rocio Molina)の来日公演が東京と大阪であります。(詳細はこちら)ちなみに、ロシオ・モリーナは2012年にアンダルシア舞踊団の作品「メタフォラ(Metafora)」にゲスト出演していました。映像はこちら。6:12あたりから1分半ほどロシオのパートが入っています。

この秋は、日本にいながらスペインのフラメンコを観る機会がたくさんありそうですね。まだ"フラメンコ"をご覧になったことのない方、フラメンコと出会うチャンスです! 文: 坂倉まきこ (フラメンコ・コーディネーター、ライター)

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3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
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