9月に入ったセビージャ。つい三日前までは、まさに「灼熱」の暑さでしたが、今日あたりから吹く風がほんのり秋めいてきました。
第19回を迎えるセビージャのフラメンコ・フェスティバル、ラ・ビエナル・デ・フラメンコ。今年は、9月8日から10月2日までの開催です。今回のビエナル取材は諸事情により、前回よりも少ない公演のカバーとなりますこと、ご了承ください。
初日のオープニング行事は、まず20時40分、世界遺産のアルカサルの門の上から、カンタオールのホセ・デ・ラ・トマサ(Jose de la Tomasa)がトナー(Tona:フラメンコの曲種名で無伴奏で歌われる)を歌いました。門の下に広がるトリウンフォ広場(Plaza de Triumfo)にはたくさんの人が集まってきていました。
続いて21時からのフラッシュモブを前に、ファルキート(Farruquito)の振り付けのVTRが広場に設置された大画面で放映されていました。そして、なんと21時ぴったりにファルキートが登場!カンタオーラのエンカルナ・アニージョ(Encarna Anillo)の生歌で課題曲(!)ブレリアを踊り始めました。
過去二回は昼間。そして踊るスペースも広くあり集まった人の多くが一緒に踊っていましたが、今回はロープが張ってある内側にいる十数人だけがファルキートと踊っているようでした。というのも、とにかく人が多く、どこで何をやっているかは全く見えない状態だったのです。大画面スクリーンで映し出される映像で進行状態はかろうじて確認できたのですが、急に日が暮れたこともあり、映像が暗くなってしまい「え?どこにいるの?」と思っている間に曲が終わってしまいました。皆、腕を高々と伸ばし携帯で動画撮影。フラッシュモブ、ならぬ、フラッシュモバイルだとの声も。きっと撮影側にいたら特等席でよく見えたのでしょうが、群衆に紛れてのレポートは残念ながら失敗!とはいえ、ビエナルスタート!の気分は味わえました。その様子はこちらの映像でご覧ください。(出典:http://www.deflamenco.com)
ビエナル本格スタートの二日目。今年の新しいシリーズである、サン・ルイス・デ・ロス・フランセセス教会でのコンサート"バロックの光(La luz del barrco)"の記者会見が同教会で行われました。ここではビエナル期間中に19回のコンサートが予定されており、会場には出演者のうち7名のアーティストが揃いました。素晴らしいバロック様式の教会の内部に出演者たちもこの場で演奏できることに心躍らせている様子。舞台上で各自が挨拶となり、歌手ハイメ・エレディア(Jaime Heredia)は、「アイ!」と一声を投じ、感触を確かめ、ギタリストのリカルド・モレノ(Rycardo Moreno)は「自分の演奏のレパートリーはバロックとは程遠いけれど、こんなファンタスティックな場所で弾けるなんて嬉しい」。歌手のラ・トバラ(La Tobala)は「感性が目覚める場所」、ヘスス・ゲレーロ(Jesus Gerrero)は「ビエナルには何度も参加しているけど、ソロとして公演できるのがとても嬉しい」、歌手のイスキエル・ベニティス(Izquiel Benitiz)は「ここで歌う日のために、すごく練習してるんだよ」とひときわ初々しい笑みを浮かべながら言っていました。吹奏楽器アーティストのディエゴ・ビジェガ(Diego Villega)は「情報に溢れた慌ただしい現代の日常の中で、こんなに静かで落ち着く場所は貴重。とてもポジティブなエネルギーを感じる」とも。そして、会見の最後には、ビエナル・ディレクター、クリストバル・オルテガ(Cristobal Ortega)の提案で「みんなで音響を試してみよう」となった途端、すぐさま心地よいブレリアのコンパス(フラメンコ独特のリズム)のパルマ(手拍子でリズムをとること)が舞台上で発生。歌手一人ずつがブレリアの一節ずつを歌い回すという"歌う会見"で和気あいあいな雰囲気でのお開きとなりました。
今回のビエナルのオープニング公演は、大劇場のマエストランサ劇場。当初予定されていたギターのコンサートが中止となり、「女たちの戦争(La Guerra de las mujeres)」が新たにプログラムされました。この作品は、メリダの国際演劇フェスティバルで今年の8月に上演されていた作品。ギリシャの古典喜劇で、アテナイとスパルタの戦争を終わらせるために、エストレージャ・モレンテ(Estrella Morente)演じる主人公のリューシストラテー(Lisistrata)が中心となって女性たちがセックス・ボイコットを起こすというもの。日本ではタイトルが「女の平和」と訳されてます。公演全体を通して素晴らしかったのが、何と言ってもエストレージャ・モレンテの歌!まるで録音を聴いているかのような完璧な声、さらには多くのセリフ、演技も入り、もはやミュージカル女優のようなマルチタレントぶりでした。さらにはその美しい容姿も手伝って、何をやっても、すべての仕草がドラマティックに見えます。これぞ、スターたる貫禄です。クレオニケ役の妹のソレア・モレンテ(Solea Morente)は、姉とは全く違うタイプの容姿、声ですが、これもまた何とも美しく、ギリシャ神話の世界にぴったり。
作品の中で女装趣味者と役人の二役を演じたのは、アントニオ・カナーレス(Antonio Canales)。女装場面ではコミカルなメイクと踊り、役人の時は、カナーレスらしい力強い男性的な踊りで観客の期待に応えました。敵国スパルタの女性代表役はアイーダ・ゴメス(Aida Gomez)。スペイン国立舞踊団を史上最年少で率いたことのあるアイーダ。ハラハラするほどセクシーな踊りでバイラオール、マリアノ・ベルナル(Mariano Bernal)とのペアでも持ち味を発揮。カナーレスやエストレージャとの掛け合いも表情豊かに演じ、こちらもかなりの女優ぶり。
戦う男性陣役の中には、今までも記事で取り上げたことのあるバイラオール、エドゥアルド・ゲレーロ(Eduardo Guerrero)がおり、ソロパートも披露。観客から大きな拍手が湧きました。色鮮やかな衣装に、大きな舞台セット、そしてミュージシャンは舞台の手前下、オーケストラボックス位置からの演奏という配置。時折、出演者もその舞台下から階段を上がって舞台に登場するなど、全体的にフラメンコ・ミュージカルと呼べそうな作品でした。
写真:無クレジットのものはcBienal de Sevilla Oficial & Makiko Sakakura
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