昨夜は小島章司舞踊団の「セレスティーナ」がここセビージャのマエストランサ劇場で公演されました。その様子は各メディアの報道をご覧いただくとして...それに先立って行われた記者会見。あいにくの大雨ながら、穏やかな表情の小島先生がこの作品を共に作ったハビエル・ラトーレ(Javier Latorre)氏と来場されました。(右写真:チクエロ、ハビエル・ラトーレ、小島章司)
音楽担当のチクエロ(Chicuelo)も加わっての会見。以前から形にしたかった作品があったものの、一人の力ではすべてはできないということでチクエロに相談したところ、ハビエル・ラトーレを紹介され、そこからこの作品が生まれてきたそうです。日本での公演、そして昨年のへレス・フェスティバルと回を重ねるごとに熟してきた作品。舞踊団員+スペイン人舞踊手、そしてミュージシャンはスペインでも活躍しているアーティストで固めています。
その会見場で、突然「どこに行っても日本人がいっぱいいるけど、日本人はどうしてそんなにフラメンコが好きなんですか?」という質問が。劇場やバルでよく聞かれることではあるのですが、まさか記者が集まる会見場でいまだにこういう質問が、しかも小島先生ほどの方に!?と正直びっくりしたのですが、さすが先生。素晴らしいお答えをなさいました。丁寧に御自分がフラメンコに魅せられた経緯をお話になり、そして最後に「自分の場合はこうでしたけど、"日本人(全体)"となると私からその答えを申し上げることはできません。」と。外国人から見ると日本人は見分けやすいですし(とはいえ東洋人=日本人とカウントされている可能性大ですが)、それゆえ目立ってたくさんいるように思われるのでしょうが、実はフランス、ドイツ、メキシコ、アメリカ...いろんな国の人がフラメンコを観に、習いに来ているのです。そして、各個人でフラメンコとの出会いや関わり方は違うもの。もちろん、国の事情や文化によって似た傾向はあるかもしれませんし、本場スペインと他の国では明らかな違いはあるでしょう。また、日本はヨーロッパの他国よりも遠く、言語も違うという困難があるので、昔は相当の情熱と意欲がなければスペインに来ることはできなかったはずです。その努力の姿に「日本人はどうしてそこまでフラメンコが好きなのか?」と思われた時代はあったことでしょう。この現代において、今回の小島先生のお答えはとてもエレガントで素敵でした。
さて、ビエナルで楽しみにしてたのが「カンテ(歌)」がたくさん聴けること。バイラオーラのぺパ・モンテス(Pepa Montes)は会見で「私はバイラオーラ。私はフラメンカ。意図的ではなく、歌を聴き、ギター聴いて沸き起こる自分の感情に従って踊るだけよ。」と言っていました。そうやって踊り手にインスピレーションを与えられる素晴らしいカンテが歌える歌手の歌をじっくり聞けるソロコンサートが幾つかありました
その中でも、ペドロ・エル・グラナイーノ(Pedro el Granaino)、ラファエル・デ・ウトレラ(Rafael de Utrera)、そしてホセ・バレンシア(Jose Valenci)。いずれも踊りの舞台で歌っていますが、ソロとしても人気、実力共にあるカンタオール達です。
ペドロ・エル・グラナイーノ(左写真)は、主にファルキートのファミリアの公演の踊り伴唱をしています。以前フランスのフェスティバルで「熱いカンタオール」としてご紹介したことがありました。カンタオールの故カマロン・デ・ラ・イスラ系の声を持っています。真摯で、言葉の一つ一つに魂の籠った歌い方からは、歌詞は分からなくても何かが伝わってくる、そんな注目のカンタオールです。後日、単独インタビューで詳しくお伝えいたします。
ラファエル・デ・ウトレラはクリスティーナ・オヨス(Cristina Hoyos)舞踊団やパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)のメンバーとして活躍してきました。最近では、ピアニストのドランテスやギタリストのビセンテ・アミーゴのツアーで来日もしています。もちろん、ソロとしてもキャリアも長いのですが、マイクなしの生声ソロコンサートという形では初めて聴きました。やはりソロとなると、曲ごとにあるときはふわりと、そしてある時は力強く、思いのままに気持ちを載せているかのようで、特に悲しみを帯びたように響くときの歌声が印象的でした。(写真右)
以前、フラメンコ・ウォーカーで紹介したホセ・バレンシア(写真左)のコンサートはサンタクララ修道院のパティオで行われました。踊り手たちの保険と言われるほど、踊りを引き出すカンテとどんな場面でも対応できるレパートリーの深さは、5歳の時から大先輩たちの中で鍛えられ、学んできた底力です。舞台上での立ち振る舞いも、十数年前に初めて見た頃とはずいぶん変わり、フラメンコの風格を湛えてきたアーティストです。今回のコンサートは、5月に出した初アルバム「ソロ・フラメンコ(Solo Flamenco)」と同じタイトル。以前はファルキート、最近ではホアキン・グリロ(Joaquin Grilo)との共演が多く、迫力のある歌手という印象が強いかもしれませんが、ベレン・マジャ(Belen Maya),パストーラ・ガルバン(Pastora Galvan)などの女性舞踊手やハビエル・バロン(Javier Baron)、アンドレス・マリン(Andres Marin)など、あらゆるタイプの踊り手の舞台に出演しています。あれだけの声量をコントロールし、しかも一音の中での絶妙な声の変化によって歌うメロディーラインをじっくり聞けるのは、ソロコンサートならではの楽しみです。私自身、フラメンコ体力(耐力?)が今ほどなかったときは、声量の大きい歌手の声を聞き分けることができませんでしたが、いろいろと聞いているうちに、その声の中にニュアンスがある声、ずっと聴いていても疲れない声の発見がありました。
一ヶ月続いたビエナル。その中で新しい出会いや再発見がいくつかありました。今後も少しずつご紹介していきたいと思います。(右写真:ゲスト出演したホアキン・グリロとホセ・バレンシア)
FOTOS 舞台写真:Antonio Acedo / その他:Makiko Sakakura