地中海を挟んだアフリカ大陸への港町、アルへシーラスをほっつき歩いていると、珍しくCD店に出くわした。薄暗い店内には意外にもフラメンコが充実している。そこで見つけた一枚の傑作が、今回ご紹介するカプージョ・デ・ヘレス「フロール・イ・カネラ」(2007)だ。

 前作の「エステ・ソイ・ジョ」(2000)は今ひとつパッとしなかったが、これは一聴後すぐ、へヴィーローテーションの一角となった。あの変幻自在のカプージョのライヴを真空パックしたような熱気が、ビシビシと伝わってくる。スタジオ録音だが、ほとんど一発録りのような気配なのだ。
 ルンバ2曲、ブレリア3曲、タンゴ2曲、ファンダンゴ1曲、ソレア・ポル・ブレリア1曲という、まさしく万人受けの構成の全9曲。だが、シギリージャやソレアのような渋い曲が無くても、脂が乗り切ったカプージョ節は、タンゴ、ルンバ、ブレリアでこそ、逆に真価を発揮すると筆者は思う。「ペルドン」「ラ・クルパ」のようなトラバレングア(早口言葉)的な高速繰り返しフレーズの面白みは、長い舌がクルクルと回るカプージョしか出せない。しかも作詞がほぼすべて本人というからふるっている。
「悪いのは俺じゃない/俺のせいじゃない/お前が悪い」(ラ・クルパ)
「パンは嫌いだ/チーズも嫌いだ/好きなものは/お前のキスなんだ」(パン・イ・ケソ)
 こうしたフラメンコらしい直情的熱さを見せる一方で、ファンダンゴ(ア・ミス・ニーニャス)で語る、極めてナイーヴな詩的センス。この両極端を行き来するバランス感覚が絶妙なのだ。
 ギターはマヌエル・カラスコ"ヘリート"、ディエゴ・アマジャ、ニーニョ・ヘロ、特別ゲストに見事なサパテアードで絡む、天才バイラオールのホアキン・グリロ、という超豪華メンバーが脇を固める。なぜこんな名盤が大ヒットしないのか? レーベルが大手でない(FLAMENCO EN EL FORO)から? ちなみにアクースティカでも今は扱っていません。加部さん、西脇さん、また入れてください! 売れますよ!
 その後、所用でヘレスに立ち寄り、大手スーパー「CARREFOUR」で安売りシェリー、「レアル・テソロ」を見つけた。フルボトル(750ml)1本で3.75ユーロ(約380円)。しかも冷気が吹き出る加工肉売り場コーナーの前に置いてあったので、冷えている! 低予算の取材旅行で泊まる安宿には、部屋に冷蔵庫など無く、したがって冷えた酒は大変貴重なのだ。
 久しぶりに夜の取材が無いこの日、カプージョをかけ、リナーレスのペーニャで貰ったカタビノ(シェリーグラス)に、薄黄金色に輝くレアル・テソロを注いだ。最高の時間の始まりであった。

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
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