<ギター部門総評>
若林雅人
●今年は例年より少ない6人の出演者でしたが、全体のレベルが高く、それぞれの個性を楽しませていただきました。興味深かったのは、終演後の挨拶とギターを手に舞台袖へと去ってゆく姿が、演奏内容と似たイメージだったこと。フラメンコを「フラメンコ道」と考えるのはいささか窮屈な話かもしれないが、やはり、その人の姿勢や立ち振るまいが音をつくるのでしょう。演奏するように生活しましょう。

中谷伸一
●今年は全体的に大人しく、昔のフィギュアスケートでいう規定演技のようだった。ノリとコンパスをビビッドに打ち出し、なりふり構わず観客席まで巻き込む気概がほしい。みな一様にある程度のテクニックはある。ただその先は? 私たちが惹かれるフラメンコ特有の、カッコ良さと色気、粋、渋さは? これらを含んだ「魅せる音」を、テクニックの研鑽と共に追求してほしい。それが結果的にオリジナリティにもつながるはずだ。

東仲一矩
●今回は全体的に高い水準をキープしていたように思われます。殆んど甲乙を決めることが出来ない演奏結果でした。自分の決めた方向性(音楽性や哲学)が一番如実に表現出来る世界のように思えます。年ごとに演奏者のオリジナルを創造しようという姿が感じられ、楽しく思います。今後もますます独自の世界をギターという楽器を通して発信して欲しい。一本のギターの内に「踊り」も「唄」も内包した表現を期待します。

加部洋
●6人という例年になく少ない出場者だったが、レベルは一定の高さに保たれていて、それが当たり前になったギター部門。実力的にも伯仲しており、選考は難しかった。しかし上手いかもしれないが、無難で優等生的な印象でもあった。型に収まりきらない凄みや野生味が欲しかった。


 

1.中川浩之 君(グラナイーナ)

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●幕が上がり終わる前からスタート。バチバチと豪快に弦を鳴らす姿勢にやる気を感じる。ただグラナイーナの演奏としては、もうひと呼吸の「ため」や「おおらかさ」があった方が雰囲気がでたと思う。一番最初の演奏者で大変緊張したと思うが、弾ききりましたね。(若林雅人)

●古色蒼然としたグラナイーナ。各テクニックは無難に安定しているゆえに、わずかに使ったピカードがかすれ気味で、筆者には気になった。リブレなグラナイーナの曲調の特性だとしても、演奏自体のノリとコンパスがあまり感じられず、各フレーズの連続性が途切れがちだったのが残念。グラナイーナの耽美的ムードに引きずられず、前への強い推進力を維持するのは、プロでも難しいとは思うのだが。(中谷伸一)

●導入部分の突込み感は私の好みです。全体に走り気味で、元来グラナイーナの持ち味である「ねばりの味」がうすく、空気を揺らすこの曲特有の味が感じられなかった。一番バッターということもあったかも。(東仲一矩)

●伝統スタイルのグラナイーナ。余裕を持ったテクニックの範囲で弾いていたのは良かった。が、弾き急ぎが一番気になった。リブレ曲に不可欠のタメが足りなかった。ひと節弾き終わった後のタメ。嫌らしいくらいにタップリ溜めて丁度いいかも。4連のトレモロは美しかった。(加部洋)

2.渡辺イワオ 君(ソレア)

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●ギターのボディーに右ほほをつけて弾く姿が印象的。音の中に自分が入れたのではないだろうか。アイデアあふれる演奏で、美しいフレーズに癒された。とくにトレモロの部分は丁寧で気持ち良い。筆者の好みとしては、もう少しゴルペを打って輪郭を出してあげた方が全体がしまったと思う。(若林)

●音量も十分、渋く正統派のイントロで始まった自作曲のソレア。中盤の聴かせ所で繰り返された高音域の押弦の微妙な不明瞭さが非常に惜しい。後半から一気にギアチェンジ。だが演奏の劇的なスピードアップぶりが少し唐突で、ラストは慌しくすら感じてしまった。もっと緩やかな曲構成で勝負したほうが、氏の独特で強い音世界が生きる気がする。多彩な要素を盛り込んだ結果、本来の実力が十二分に出きらなかった印象。(中谷)

●豊かな音楽性を感じました。裏付けされたテクニックで試みた和音構成もしっかり表現され、私自身自然に感じました。アルサプアが得意だと思うのですが、そこへ持って行く"間"を考えればもっと生きてくると思います。(東仲)

●昨年と同様ソレアに挑戦。個々のテクニックを含めて昨年より更に完成度の高い演奏で、申し分なかった。問題はソレアに聞こえたかどうかの、ただその一点。調性の自由な飛躍-モダンスタイルを志す演奏家ならば、自由な転調やテンションコードの使用により高い緊張感を生み出す方法を採るのは当然だ。問題は聴き手の許容範囲がどこまでソレアと認めるかである。今回の演奏は筆者の許容範囲を超えていた。(加部)

3.木村直哲 君(ブレリア)

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●うまい。ブレリアのコンパスが自然で、誠に気持ち良い。ひとりでこのノリを出せるのは見事。フラメンコならではの「ピリッ!」とした瞬間や、切れのある音も良かった。最初からずっと安定したコンパス感だったが、最後なってちょっとゴチャついて乱れたのが惜しい。(若林)

●身体を揺らしながらボディをゴルペして、ノリを生み出そうとするブレリア。パルマ無しで、一人で勝負する姿勢が潔い。トマティート的アイレで突っ走り、方向性が明確だった。各フレーズの区切りが曖昧で弱く、つながって聴こえるので、メリハリをつければグルーヴ感が一層増すはず。ギターの音量自体も、さらに大きくする努力を! 今はPAを通してもスペイン人との差は歴然。彼らの音はデカイ。頑張って欲しい。(中谷)

●スピード感あふれる演奏とそれに裏付けされたテクニック。今回初めてのバックなし(パルマ禁止)で、コンパス感が揺れることなく自身のリズムで演奏されました。今後、スペイン人が持っている情緒を音に乗せていくのを楽しみにしています。(東仲)

●良かった。カッコ良かった。しかし良かった場合、余り言うことがなかったりもするものだ。アイレ、コンパス感を含めて今のスペインの香りがした。しかし、構成がもっとドラマティックだったら、更に良いブレリアになっていたと思う。(加部)

4.大山勇実 君(サパテアード)

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●美しく愛らしい演奏。スペインの風と香りを感じる。立体感がありアルペジオのフレーズも音も魅力的で聴いていて笑顔になってくる。こういう格調高いフラメンコギターは素敵だ。後味さわやか。いいねぇ。(若林)

●流れるようなアルペジオで始まる、いまどき珍しい選曲、サパテアード。かつてはサビーカスやパコが得意としたパロを丁寧に弾いた。現代フラメンコギターの観点から見ると、同一・類似フレーズの反復・強調が多く、やや単調に聴こえてしまう。テクニック的には特に大きな難点は見当たらない。ただ、21世紀の新人公演で弾くならば、若き氏ならではのオリジナリティを、もっと明確に聴衆へ訴えかける必要があるのでは?(中谷)

●ラファエル・リケーニを聴いているような印象です。技術的に裏付けられた演奏、音楽性も素晴らしいものでした。今後はフラメンコ・ギターが持っている「黒い音」をモチーフにトライして欲しい。(東仲)

●ギターテクニックの巧拙がもろに出てしまうサパテアードを選曲した勇敢さに、まず敬意。重厚な音色は楽器の選択もあるだろうが、何よりもテクニックの安定感から来るものだろう。最初は緊張感からか固くなっていたようだが、次第に曲に強弱・緩急のメリハリが出てきて、なかなか音楽的なサパテアードだった。(加部)

5.藤嶋良博 君(ブレリア)

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●ヘレス大好きなんですねぇ。細かいところまで丁寧にコピーしていて好印象。ただコンパスが表面的に感じられて、残念ながら血が騒がない。ヘレスのあのワクワク感はからだの内側からリズムを出さないと、こちらに届かないと思う。惜しいなぁ。(若林)

●昨年逝去したモライート・チーコのファルセータを前面に出した、ヘレス風味のブレリア。モライート・ファンの筆者としては懐かしく感じたが、コンパスが時々曖昧になる点や、演奏のノリ、一音のキレとボリュームに、残念ながら物足りなさを感じてしまった。現代ギタリストの有名ファルセータを使うと、両者の差が聴き手の中ではっきり見えてしまう。やるならば完璧以上に弾ききる覚悟で挑まないと、損な結果になるだろう。(中谷)

●まず人柄を感じる演奏でした。新幹線で観る風景と各駅停車に乗って観る風景が、同じ景色でも感じるものが違ってくるように、オーソドックスなスタイルの場合、フレーズとフレーズとの間合い、ファルセータの単音、コンパスの一拍々々に説得力が必要だと思います。全体に息切れ気味で、聴く側は失速感を感じました。(東仲)

●ヘレスの伝統スタイルの楽しいフレーズや泣かせるファルセータを集めたブレリア。"間"の取り方もブレリアのエッセンスをよく理解している感じで良かった。更に磨きをかけて"凄み"が出るまでにして欲しい。(加部)

6.岸元輝哉 君(ファルーカ)

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●ごっつい低音。その親指のだす音が魅力的。中間部の静かなパートは、音がコロコロと美しく、その間合いも良かった。ただピカードは丁寧に弾こう。自分の音があることはすばらしい事です。さらに磨きをかけましょう。(若林)

●またも時代を感じさせる曲、ファルーカ。昨年同様に、あっという間に終わってしまった印象だ。おそらく問題は曲の展開・構成にある。定番フレーズとテクニックを見せ、さあ、ファルーカの激情がほとばしる――という前に終局を迎えてしまうからだ。クールな端整さも重要だが、フラメンコ最大の特徴
"熱さ"を、特に氏の場合は、敢えて過剰気味にフィーチャーしてもいいのでは。一瞬でも燃え上がる演奏が聴きたい。(中谷)

●この曲のが持っているセンティミエントは感じられました。トレモロ部分は良かったのですが、後半に少々乱れが出たように思われました。この曲を日本人が弾く場合、往々にして「湿気」を帯びたファルセータになるのですが、乾いた感じで弾いていたのは良かったと思いました。(東仲)

●サビーカスの有名なファルーカ。ピカードのテクニックで"抜け"が大分あったのが残念だった。"間"の取り方の解釈だが、少し自由に間を取り過ぎていたように思う。ちなみに原曲のサビーカスはほとんどコンパス通りに弾いている。(加部)

 

 

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