<バイレ・ソロ総評>

菊地裕子
●今年のバイレソロ部門は近年では少なめの55人という出場者数だった。その中でも今年は、何度も挑戦している演者の鍛錬や精進、洗練の結果が目を引いた。新人公演をひとつの指標として成長していく若きアーティストを見るのは、毎年、本当に心が躍る。
 逆に、気になったのは、ブラソが概ねないがしろにされていること、パルマやカホンに頼って足音がほとんど聞こえない人が多いことだった。そういえば、マントンやバタ・デ・コーラも今年はなかったような。まあ、マントンやバタ・デ・コーラがなくとも、フラメンコは成立する。しかし、ブラソは身体にくっついた雄弁な語り手だし、足音に至っては、これがちゃんとできないとフラメンコとは言えないぐらいのものだ。パルマやカホンがいけないのではない。ほとんどの足音を打楽器に打ち消してもらってよしとする姿勢はどうなのよと言いたい。何でもかんでもシンプルが良いとは言わないが、基本はシンプルなところにある。ここがしっかりしていないと、あれこれくっつけても砂上の楼閣に過ぎない。飾らないところで、まずはしっかりと鍛錬、精進することが肝要だろう。
 また、舞踊的に優れていても、カンテをちゃんと聞いて踊っている方が少ないのにはがっかりした。これは1年や2年でどうこうなる問題ではない。バイレの方は、カンテとパルマを日常的に身体にしみ込ませる努力をすぐにでも始めないと、自分からコンパスやセンティードがにじみ出るなんてことは不可能だ。素晴らしいフラメンコに「オレ!」と言える感覚がなくて、オレ!な踊りが踊れるわけはない。(何だか、今年はやけに厳しいことばかり書いているけど、遺言たるたわごとだと思って笑って読み飛ばしていただきたい。書ける時に書いておかないと、そのうち何でも「いいよ、いいよ」って言っちゃうかもしれないしね、うん)
 昨年同様、評価はA以上のみの記載とした。奨励賞の選考に当たっては、7名記載の決まりがあったため、特A5名とA2名を推薦した。正直、受賞する・しないは、決して実力だけに左右されるわけではないと思う。私がA以上と評価した方々の中には、構成の工夫次第でぐっと変わりそうな方も少なくない。一方で、一皮むけるために何年とかかる人もいる。さらには、受賞してから伸び悩む人もいる。新人公演は、出場者の成長の一過程を見せてもらうだけの場なのだ。そう心得、今後とも興味と期待を持って見守って行きたいと思う。全ての出場者の血と汗と涙と精神の葛藤に、オレ!
※評価=[特A]>[A]>[A'] 
※菊地が奨励賞に推薦した7名=[推薦]

堀越千秋
●本年は特に、型にはまった、習ったばかりの踊りばかりが多くて、全てを見るのに相当の努力を要した。未熟なだけなら練習を積むことで良くなるが、根性がくたばっていてお稽古に通っているから満足、というのなら、我々年金生活者には酷な時間である。年金と言っても月に1万8千円である。こんなのを福祉と言うのか。福島の避難民を棄てておいてオリンピック招致のお祭りに愚民の気をそらそうとする、今夜はあと数時間で日本のファシズムが定まる前夜である。先日のマヌエル・アグヘタのカンテみたいに、そんな欺瞞を吹き飛ばすかのごとき踊りを踊って欲しいのに。
 そう。皆さん、アグヘタ聞いて頂きましたよね?失礼ながら、貴女のうしろで唄っているのだけがカンテじゃありませんよ。カンテを聞け!カンテを感じろ!というのは、こういうカンテのことです。踊りを前提としてカンテを聞くから、貴女たちの踊りはいつまで経ってもスポーツなのです。
 自分を美しく見せたい、体を動かすのが好き、だから踊るなら、フラメンコはそれに適していません。全く別の文化なのです。どんな文化か?カンテの中だけにそれを見い出すことが出来ます。体が踊らないように縛って、カンテだけをバッハのマタイ受難曲のように聞いて下さい。そんな聞き方に耐えられるカンテが果たしていくつあるか?マヌエル・アグヘタは、ほとんど現在唯一といってよい、その人であります。
 ランクはA、a゜、a、a'、B゜、B、B'、b゜としました。

西脇美絵子
●今年はいつもより20人も出場者が少なかった。そのせいか突出した人は少なく、奨励賞のボーダー上に大勢がひしめき合う例年に比べると、全体のレベルは幾分低かったように思う。私が絶対奨励賞!と思った人は2人、奨励賞と思った人は2人、奨励賞のボーダー上にいると思った人は4人。この8人の中から7人を奨励賞に推した。因みに去年はここまでに17人いた。そして、あと少しで奨励賞のボーダー上と感じた人は17名と続く。上記の人たちは、各コメントの最後に、◎スペシャル、◎、○、小○の記号を付した。
 全体を通して気になったのは、踊り始めのテンションが低い人が多いこと。最初は過剰な緊張で力が入りすぎたり、硬くなってしまう人が本当に多い。多くの人が、後半になって調子をあげてくるのだ。ある意味それは自然なことでもあると思うが、観客の心をつかむには、踊り始めの一瞬、最初の30秒がとても大事。一発目からガツンと入っていけるポテンシャルを目指してほしい。
 また、今年も連続出場者が大勢いたが、受賞の有無に関わらず、成長の跡を感じた人が多かったのは嬉しいことだ。一方、立ち止まっているように感じた人も見受けられたが、それを自覚している人は、やみくもに技術を磨こうとするのではなく、練習方法、フラメンコへのアプローチの仕方そのものを捉えなおしてみてほしい。私は技術を軽んじる者ではないが、それは踊るための前提のようなもの。フラメンコ舞踊は、舞踊テクニックだけでは踊れない。根本を見つめ直すことが重要と思います。
 最後に、今年はバックの音楽陣にスペイン人アルティスタを起用する人が非常に多かった。バイレ練習生にとって、スペイン人との共演は夢の一つだと思う。そこで学ぶこともたくさんあるだろう。ただ、彼らの、あのド迫力のパワーを受け止められるものを持っていないと、踊りがとても希薄に見えてしまうことは、覚えておいた方がいいと思う。スペイン人と共演してよい結果を出すには、彼らのレベルに呼応できる(少なくともついていける)それ相応のフラメンコ力と、コミュニケーション能力がなければ実現できないことは言うまでもありません。
 新人公演の3日間は、私自身も襟を正して過ごす3日間です。皆さんの情熱に応えうる選考ができたか、合評が書けたか...。選考についても、それ以外のことも、私自身の考え方を出来るだけ具体的に書いたつもりです。ご意見のある方はどうぞ遠慮なく、コメント欄に書いてください。私への質問やご意見については、必ずお返事します。
 

1.須磨カオリ(シギリージャ)

須磨カオリ(シギリージャ)

●よく踊れているが、唄振りがやや慌て気味で、唄と今ひとつ合致していない。足も急いで軽くなっている印象。踊りの形や振付の順番だけに気をとらわれずに済むよう、もっと踊り込んで余裕を持って踊ろう!(菊地裕子)
●踊りの要諦は踊らぬことにあり。なのに、一生懸命踊りすぎて、お習字の余白まで全部塗りつぶしてしまった。紙の白さがないと、黒い字は見えません。貴女だけじゃない。実は、日本フラメンコ(プロアマ問わず)みんなそう。だって、シギリージャ?本当?これ?唄える?先生の振りをそのまま習って踊ってもフラメンコじゃない。フラメンコはまずカンテだってこと!庶民は本質を避けて、常に脇道を探すのは何故だろう?シギリージャを踊りたいなら、まず先生と一緒にシギリージャを唄いなさい。[B'](堀越千秋)
●サリーダなしの歌始まりに、踊りのテンションがついてかない。全体に軽く流して踊っている感じで、内から溢れるエネルギーが弱い。それなりにフォルムはまとまっているし、リズム感もある。特に後半、自律的にリズムを打ち出そうとしているのが感じられる部分があり、よかった。もっと基礎訓練を!(西脇美絵子)

2.多田れい子(タラント)

多田れい子(タラント)

●出の緊張感がとても良かった。少しきれい過ぎるところもあるが、身体表現が素晴らしい。タンゴになってからのノリも悪くない。昨年より成長した印象だけど、あともう少しペソが欲しい。そして自分の中にもっとドラマを!想像力を駆使して創造する![A](菊地)
●ややうまい。が決められたものを習ってやっているだけの感あり。[B](堀越)
●振りを追いかけている。形をまとめることにほとんどの意識が向けられているように見えた。歌を感じていないので、メリハリやノリが出てこない。初めは緊張していたのでしょう。後半は生き生きとした感じが出てきてよかったです。(西脇)

3.重藤優子(タラント)

重藤優子(タラント)

●野性味のあるヒターナ風味の振付。やりたいことが明確なのはgood。ただ、そのためにはもっとメリハリを利かせないと、表現の輪郭がぼやけてしまう。大舞台でのソロは緩急の見せ方もとても大事。心で描いていることが幻で終わらないよう、細部にまで神経を配って。(菊地)
●くるッと回って見栄を決めるという、いわゆるフラメンコ踊りのキメ、を決めるには力を抜かなきゃいけない。なのに力が入ってる。踊るのが楽しそう。去る時よろし。[B](堀越)
●力強く勢いのあるタラント。メリハリはまだ弱いがキレはある。どういうフラメンコが踊りたいのかが見えてくる。ただ、やや直線的で、空気が単純。これで見せたいなら、もっとフラメンコを踊る体をしっかり作らなければ。もうひとつ身体ができてくると、格段に表現力、説得力が増すと思う。[小○](西脇)

4.小林浩子(ガロティン)

小林浩子(ガロティン)

●身体はそこそこできているけれど、振付で精一杯なのか、何を踊りたいのかが見えてこない。時々、思い切りの良さが出て良い感じ。もっともっと踊り込んで、音楽と唄と相まって楽しむだけの心の余裕を持ってください。(菊地)
●退屈。当人はしごくまじめにやってるのに、何故なのかなァ。帽子が落ちて随分焦ってたけど、帽子なんてどうでもいいわけだよ。普通にマルカールするような動きが良い。[B'](堀越)
●コルドベスをかぶらなくても、音を消しても、静止画写真でこのバイレを見ても、ガロティンを踊っているのが、きっとわかる。そんなことをこちらに思わせるほど、この曲種の曲調、個性をよく身体で表現していた。技術的に表現力があるというよりも、この曲種に対するイメージがとてもしっかり自分の中にあったのだと思う。これ、スッゴク大事なことです。でも、あとは技術をしっかりみがいてください。(西脇)

5.ヴォダルツ・クララ(ソレア・ポル・ブレリア)

ヴォダルツ・クララ(ソレア・ポル・ブレリア)

●舞踊手として恵まれた肢体の持ち主。長袖に包まれた長いブラソの美しさ、さらに袖の先で軟らかく動く白いマノがとても印象的。最近、ブラソがきれいな人は少ないので、うれしくなった。そしてコンパスが心地よい。まだ強い個性には欠けるが、今後が非常に楽しみ![A](菊地)
●スタイル良い。バレエっぽい。ずっと両腕をピンと伸ばして万才!をしていた。フラメンコの踊りでは、決して両腕をピンと伸ばすことはありえない。これを僕は百回言ってもう口が酸っぱいのだが、言われる方ははじめてかもしれないね。よおく、昔の人のビデオとか見てごらん。今の人たちのを見てもダメ。今はすでにフラメンコ独特の良さは失われて、ナウい、バレエちっくな、間違った動きばかりだから。バレエっぽい動きやいわゆる舞踊はうまい。それがややバタ臭い響きのカンテと合ってはいた。しかし、「フラメンコ」を研究して欲しい。[B°](堀越)
●よけいなことを考えないで、集中して踊っていたように見えた。まっすぐな心意気が感じられて好感度大。新人らしい初々しさの中に、華がありセンスもある。美しく踊ったが、踊りはまだ直線的。体幹をしっかり鍛えて、腹周りで空気を動かせるようになると、表現力は格段に増すはず。これからが楽しみな逸材。[小○](西脇)

6.大西美江(アレグリアス)

大西美江(アレグリアス)

●全力で踊っているのはgood。しかしパートの踊り分けがまだ浅い。全体の構成を考え、空気感を見せる、歯切れの良さを見せるなど、振付の意図を極めるべし。表現力をつけるには、もちろん身体訓練も欠かせません。やりたいことがやれるように、精進!(菊地)
●舞台を広々と使った。楽しそうであった。アレグリアスでは大切なこと。[B°](堀越)
●そつなく踊っているのだが、まだ振りを追いかけている段階。身体もそれなりにできているし、形にもなっている、よく動いてもいる。だが、スコンとこちらの胸に落ちてくるものがない。平均点の良さでは人は感動しない。ひとつひとつをもっとていねいに踊りこもう。振りの必然性を踊るんだという意思を、もっと強く持とう。最後のブレリアはノリ感があってよかった。[小○](西脇)

7.黒木珠美(ソレア)

黒木珠美(ソレア)

●身体はよく動くし、踊り込んでもいる。しかし、リズム的にオシャレな振付が今ひとつしっくりこない。ギターとは一緒にやっていても、唄とピタッとこない感じ。今回、ソレアを選んだのは偉い。ぜひ、カンテを感じて踊るということを突き詰める契機にして欲しい。動けない時には動かない、そういう踊りもあると思います。(菊地)
●大きな花のような良さがある。体固い。特にはじめは固かった。高そうな(失礼)美しい青緑色の光る衣裳。ラストの数秒よろし。大切な数秒である。[B°](堀越)
●踊り始めの立ち姿、重量感あり美しい。最初から気合が充実していて高いポテンシャル、心地よい緊張感で最後まで踊りきった。詰め込み過ぎない振付をたっぷりと踊って、スカにならない内実、気迫があり、プラテアオの歌をよく受け止めていたと感じた。もう一つ表現力が出てくると、伝わるものが格段に大きくなるはず。大きく化ける予感。[○](西脇)

8.土井わかな(ソレア・ポル・ブレリア)

土井わかな(ソレア・ポル・ブレリア)

●小柄だがエネルギー全開。よく動くが、動きにペソがないので振付が流れ、チマチマして見える。等身大の踊りというのは、決して普段の動きをするということではなく、舞台には舞台の、フラメンコにはフラメンコの空気感というものがあり、それを踊り手は自分で創造しなくては。倍ぐらい大きく重い身体を想像して踊ってみて。動かしがたいものを動かすように。(菊地)
●お人形みたいで可愛い。一生懸命で若々しい。キビキビよく動く。しかし動きの意味が分かればもっとよくなると思う。[B°](堀越)
●緊張が裏目にでちゃったのかな? 力が入りすぎて動きがピョコピョコしてしまい、子供っぽい印象のバイレになってしまった。振りを追いかけるのではなく自発的に踊ろうとする意志は見えるのだが、それをしっかりしたバイレで表現できていない。力の抜きどころを身に付け、緊張を見方にして踊るメンタルの強さを!(西脇)

9.佐藤幸子(ソレア)

佐藤幸子(ソレア)

●思い切りよく踊っているが、力が入りすぎて全体に一本調子な印象になってしまった。そのため踊りの型だけが目立ち、心地よさが生まれなかった。私は型を否定しないが、型を追うだけでは型を生み出した人を超えられないし、見ている人にも感慨は生まれない。型は自分だけのもの。たとえ自分が生み出した型であっても、常にぶち破って新たに創造する気構えが必要だと思います。頑張れ!(菊地)
●足はよろしいようだ。所々動きが途切れて、ジタバタしたかんじになる。全体的な動きがない。決めが遅れる。[B'](堀越)
●昨年よりも確実に進歩しているのが感じられてうれしかった。まだ動きにカクカクしたところがあるが、想いの強さと身体の表現力のずれはかなり縮まってきた。踊りたいフラメンコはかなりはっきりいていると思うが、自分の思い込みに間違いはないか、好きなスペイン人のバイレを、じっくり観察してみてほしい。あとは、リズムに身体で反応できる反射神経を鍛えてみてはどうだろうか? あまり思いこみのないヌメロを踊りこんでみるのもいいかもしれない。(西脇)

10.池田理恵(ソレア・ポル・ブレリア)

池田理恵(ソレア・ポル・ブレリア)

●前半はテンポ良く、小気味良いフラメンカな踊りで魅せた。非常に期待したが、後半、盛り上がりに欠け、平板な印象に。ソレア・ポル・ブレリアは曲調がほとんど変わらないので、時々そういうことがあるけれど、これは振付の問題か、はたまた体力の問題か? 惜しい。要研究![A'](菊地)
●沢山練習している感じ。その結果、力まない良い踊りになった。ソレア・ポル・ブレリアの匂いがちゃんとする。地味だがツボをはずさない、気持ちよさがある。余分な動きも少なく、なかなか分ってる!腕は決して伸び切らない--Bien!ラスト力が尽きたか。[a](堀越)
●踊る身体はかなりできていて、フォルムもノリもよい。タメは足りないがキレもある。踊りとしてはよく踊っていると思う。だが、渦を巻いて溢れ出るエネルギーには至っていない。かなり高いレベルで踊っているのに残念! そつなくキレイに踊っても、人の心は動かない。フラメンコは事件!でなくちゃ。ドカンとこちらを揺さぶる何かがほしい。エネルギーをどうため込んでどう放出するか、工夫してください。[小○](西脇)

11.鈴木真衣(シギリージャ)

鈴木真衣(シギリージャ)

●大変強いカンテに対して、今年は踊りの強さが足りない。強さといっても足をガンガン打つといった意味ではなく、必要なのは精神的な強さ。耐える強さ。シギリージャで、しかも唄が素晴らしいと、観客はそれに聴き入り、感じている。それに頷きながらも、さらにそこを超えていくのがバイレソロの神髄だけど、観客を感動に巻き込む感情の爆発は、それ以前の耐える強さがあってこそ。そして感情は唄と無関係には出て来ないはず。あと一歩、頑張れー!(菊地)
●踊ろうとするコラヘみたいなものはある。しかし、リズムを他(ギターなど)にまかせて、それに合わせようとしている。リズムは自発的に、貴女が一瞬早く出る指揮者でなくてはならぬ。うごきの少ないゆっくりのラストは良い。[B](堀越)
●丁寧に踊っていて、よくまとまっている。たっぷりと間をおく振付だが、その中身が薄いと感じるのはなぜか? 力を入れるだけではダメ。形だけ綺麗でもダメ。そこに踊りとしての表現がなければ。単に思いを込めただけでは、観客には伝わらない。思いを身体で表して初めて表現になる。その技を身につけてほしい。エスコビージャの部分は、表現の工夫の跡が感じられて良かった。[小○](西脇)

12.堀越かおり(ソレア)

堀越かおり(ソレア)

●うーん、と唸ってしまうほど踊りの上手さを感じさせる。どこを取ってもフラメンコ、に見える。つまりビジュアルはそうなのだけど、心に迫ってくる何かが決定的に足りない。それは何かというと、唄とギターとの共感・共鳴ですね。踊りと関係なく、カンテを沢山聴くこと。ミュージシャンたちとフィエスタに興じること。それが一番、有効では。[A](菊地)
●余裕があって上手い。柔らかい。あっさりした印象だが、良い。足が良い。体の"気"が落ちていてよろしい。が、全体の印象は弱い。[a'](堀越)
●気合十分、力がある。カンテのド迫力をよく受け止めて踊っていたのが良い。基本的な技術もまずまずできている。だが、こちらの心を大きく揺さぶるにはいたっていない。ガツーンとフラメンコを踊る準備はできていると思う。花開くまであと一歩、開眼前夜という感じだ。ガンバレ! [小○](西脇)

13.沖真悠子(ソレア)

沖真悠子(ソレア)

●身体はできているが、見せる振付を繋いだ印象で、何を言いたいか、文脈がよく見えない。たとえばコンビニでもスーパーでも陳列棚に漫然と商品が並んでいるわけではなく、売りたい物、売れる物を意識して並べる場所が考えられているように、何をしたいか、何を見せたいか、何が言いたいか、いや最も大事なことは何を感じているかだけど、それを自分で鮮明にすることが大事。自分の中を探って!(菊地)
●緊張のせいか、"気"が上がっている。同じ振りでも、気が落ちていれば良く見えるものだ。体がやわらかいのがアダになっている節もあり。[B](堀越)
●フラメンコっぽく踊っているのだが、身体も技術も甘い。器用に形にしてはいるが、芯がないのですべての動きが流れてしまう。単に振りをなぞっているように見える。今一度なぜ自分はフラメンコを踊るのか、捉え直してほしい。感覚的にはフラメンコをつかみつつあると思う。初心に戻って基礎をみっちりやってみてはどうか。(西脇)

14.大岩奈青(アレグリアス)

大岩奈青(アレグリアス)

●なんだろう、ホッとするんだな、この人は。とても自然で、それほど難しいことはしていないのだけど、しっかりフラメンコの感興があり、今年はメリハリもあって、実に良かった! あとは大舞台での見せ方? でもその前に、もっと呼吸を深くして自分の感覚を身体の隅々まで研ぎすますこと。感じているものを大きく膨らますこと。大きく、大きく、大きくなぁれ![A](菊地)
●大岩の如し。遅れる。ハァハァしている。まんべんなく動かなくてもよい。大岩のような良さ、にもっていけるはずだ。[B](堀越)
●やや大味だが、ダイナミックで清々しいバイレ。昨年よりも押し出しが強く、フラメンコを踊る心意気が伝わってきて楽しかった。さらに、細部を磨いて、身体も鍛えて、フラメンコの密度を高めてほしい。フラメンコに向いていると感じさせるキャラクター、個性が出ていた。来年を楽しみにしています。[小○](西脇)

15.井田真紀(シギリージャ)

井田真紀(シギリージャ)

●素晴らしい! ペソがあり、強さがあり、キレと緩急がある。シギリージャは唄とギターだけで深く黒い世界に誘われるが、そこに杭を打ち込むごとく踊りで自分の印を刻んでいくことができるのは、かなりの上級者だけだと思う。今後、その印をさらに自分だけのものに深めていかれますよう。[特A][推薦](菊地)
●悪くない。緊迫感がある。動きがシャープでドライで、ドライすぎて水気に乏しい。せめて氷くらいの湿りが欲しい。西洋人の漢字はやたらハネていたりする。その「らしさ」の強調により、アートとしての潤おいがなくなってドライに見えるのだろう。フラメンコの踊りの魅力のひとつはたしかにあの緊迫感にあるのだが、それは本来のテーマではない。一瞬そのようにキメて見せておいて、次の瞬間には甘さや女らしさやうるおいやら脱力やらを見せるところにこそ本来のバイレの魅力があるのに、バシッ!ときめることに全力を注いでしまっている。この手の人は、「プロ」にも多い。技は良いのだが、アートとしては未熟なのだ。[a'](堀越)
●この1年の間に大きな階段を一段も二段も登りましたね。内に向かうエネルギーと外に放出するエネルギーの拮抗が素晴らしい。エネルギーがいい形で体内をめぐり放出させているので、緩急があり、タメも効いている。サパテアードの音もしっかり出ていた。フラメンコへの取り組みの密度の濃さを感じた。踊りははじめのところで、ヒヤリとした部分が見受けられたが、みごとに克服。強いポテンシャルで踊りきった。[◎](西脇)

16. 横畠由美子(ファルーカ)

横畠由美子(ファルーカ)

●まだ振付でいっぱい一杯なのか、全体に動きが軽く、エスコビージャにも説得力がない。スタイリッシュな振付を好きだからこそ踊っているという気概は伝わる。まずは軸がぶれないよう、筋力をつけて重心のバランスを!(菊地)
●固い。動きに自信がない分固くなるのだろう。遅れる。肩に力が入っている。お能みたいに見える。[b](堀越)
●踊る意思が感じられたのは素晴らしい。だが、身体がそれについて行かない。まずは基本をしっかり。余計な力が入りっぱなしなので動きがポキポキに。サパテアード始まりだったが、小気味よさが足りない。細かい音が潰れてしまっていた。基礎をじっくり!(西脇)

17. 下山明子(ソレア)

下山明子(ソレア)

●一生懸命踊っているが、動きが硬くタメがないので、感情表現をしても中身が感じられず、振付の順番をなぞっているように見える。身体がまだ自在に動かない時には、無理に感情を出そうとせず、ただ内側を感じているほうがいい。そしてフラメンコの基本的な身体の動きを徹底的に!(菊地)
●未熟。何を踊りたいのか、見えない。一切は未熟に帰する。もっと練習を![B'](堀越)
●最初の立ち姿はきれいだったのだが、踊り始めると軸も重心も安定せず、すべての動きが軽くて緩い。ちょこちょこちゃっちゃと踊っている感じ。サパテアードももっとしっかり打とう。まず、基本的な身体づくりを。そこを手抜きすると砂上の楼閣にしかならない。ところどころ、音楽に乗って踊っているので、音楽的センスはいいのかもしれない。ひとつずつ着実に実力を積み上げていこう。(西脇)

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