バイレ・ソロ総評

高橋英子
●新人公演でスペインでも認められそうな期待の新人が発掘されるのは嬉しいことですね。そして今年から、スペインのラ・ウニオンのコンクールの予選も兼ねることになりましたので、今まさに門は開かれ、明日への期待は一層高まって行きますね。今回バイレ・ソロ部門で中学生の受賞者が出ましてビックリ、頼もしいです。また、ラ・ウニオンのコンクールには同点ということで2人が選出されました。来年が楽しみですね。
 今回も沢山の踊り手さんが挑戦なさいました。近年の技術の向上もさることながら、中には「これはなんだ!」と思わせるような凄みを感じさせる方も多かったです。これはラ・ウニオンのコンクール予選を兼ねているからなのか、特にそういうことでもなく自然な現象なのか、とにかくスペインへ行っても恥かしくないような実力を持っている方も少なからずいらっしゃったのは頼もしいことです。
 新人公演はコンクールではないという壮大なロマンを持つ祭典です。やっぱり参加することに意義があるといえますね。ちょっとソロの場合は膨大な経費が掛かってしまうのは大変ですが、賞などにこだわらず、いっぱい練習して、大きな舞台で一曲に想いを込めて踊るのっていいですね。奨励賞を取るまで頑張りたいと一生懸命努力している方々には、いつか夢が叶う日がやってくればいいなあ、と思います。大事なことは賞を取っても取れなくても、その体験は活かされるということです。人生はそういう体験の積み重ねじゃないですか?ただボンヤリ生きているのは寂しいものです。私もあまり賞には縁がなかったですが、挑戦してみることの積み重ねは自分のフラメンコ人生の為になり、活力になりました。そして色々な思い出を作り、人生を彩りました。
 ちょっと選曲に関してですが、やはり一曲しか踊れないので、選ぶとしたらシリアスな曲になってしまうという傾向があるようですね。いかに踊るかが問題で、曲目などは二の次かもしれませんが、ちょっと残念に思ったのは、ソレア系やシギリージャなどの曲がやたらと多く、アレグリアス系、2拍子系の曲が少なかったことです。アンダルシアのグラシアやサレーロを感じさせる優雅で粋な世界があまりなかったです。皆さんバイレ・ヒターノが好きなんですかね?また、伝統的なフラメンコ曲がだんだん見られなくなったなと感じています。フラメンコはバラエティに富んでいて、フラメンコ曲って沢山あります。新人公演ではもっと色々な曲を色々な個性で踊ってもらえたら嬉しいなと思いました。
最後に一言。今回出場者の印象や演技の感想などを簡単ですが書かせていただきました。一回しか見られないのは残念でした。出場者の皆さんの自主性と舞台での健闘を称え、ここで大きな拍手を送りたい気持ちです。

菊地裕子
●今年のバイレソロ部門は、ラ・ウニオンのカンテ・ラス・ミナス音楽祭の日本予選も兼ねるとあって、昨年より10名多い65名が出場。そのうち3名は奨励賞の既受賞者で今回の奨励賞の対象外になる。選考委員にとっては、ちょっとばかり評価方法がややこしいことになったが、私は例年通りの採点方式でメモを取った。すると、既受賞者以外の【特A】評価がちょうど規定数の7名になっていたので、ほとんど迷うことなく、その方々を奨励賞に推薦し、ラ・ウニオンへは既受賞者の石川慶子さんを推薦した。
 今年のバイレソロで気になったのは、上手な人がひしめいていて、年々レベルが上がっていることを感じさせたにもかかわらず、強い印象を残す人があまり見当たらなかった点だ。コンクール予選の影響だろうか、破綻のない優美な踊りに無難にまとめ上げている感じ。しかも力みもあってか、後半の盛り上がりに欠け、見ているほうが欲求不満のまま終わってしまうケースが多かったと思う。序破急が鮮明でないのだ。しかも今年のバイレソロ部門はソレアだらけ、衣装も黒か赤といった似たようなワンピースだらけ。無難に踊れば埋没してしまう。
 奨励賞は投票による多数決がベースなので、特にバイレソロは舞踊的に平均点の高い人が受賞する傾向がなきにしもあらずかと思う。しかし平均点の高さとバイレの魅力とは全く別ものだ。振付をいかに上手に踊るかではなく、いかにあなたが自主的にバイレを創造していくかを私は見たい。いや、フラメンコが好きな人なら、誰だってそうだと思う。受賞してもしなくても、どっちでもいいじゃないの。新人公演を良き通過点、挑戦の場として、自分のフラメンコを究めていって欲しいと切に願う。いつか、あなたの踊りで人々の心が震える日が来るかもしれない。どうかその日まで、沢山の愛をフラメンコに注いでください。
※評価=【特A】>【A】>【A'】
※菊地が奨励賞に推薦した人=【推薦】

西脇美絵子
●バイレ・ソロ部門は毎年実力者揃いでしのぎを削る激戦が繰り広げられますが、今年は例年にもまして出場者のレベルが伯仲していました。但し、突出した人は少なく、下の方の人たちのレベルが上がっていました。結果としてますます選考は難しいものとなりました。
 「惜しくも!賞を逃した」人が大勢いました。誤解を恐れずに言うなら、受賞者と「惜しかった人」の間に明確なラインなどないといっていいでしょう。受賞した方も、されなかった方も、そのことは心に留めて頂いていいと思います。
 みな、同じようにうまい。これが3日間見ての率直な印象です。でも、「皆同じように」ではダメなのです。面白くないです。技術は当然必要です。でもその先にあるなにか
を掴んでほしいと思います。
 そんな中、奨励賞対象外でウニオンのコンクール予選として出場した3人の方々の踊り手には心を打たれました。
 なお、絶対奨励賞!と感じた人は「◎スペシャル」、奨励賞と思った人は「◎」 奨励賞のボーダー上にいると思った人は「◯」、もう少しでボーダー上と感じた人は「小◯」の印を最後につけました。上記の3人も奨励賞対象外ではありますが、同じものさしで印しました。

バイレ・ソロ部門 8月23日(土)第2日

写真:©大森有起

11.加来幸子(アレグリアス)

加来幸子(フラメンコ/バイレ/アレグリアス)

●容姿が綺麗で華やかなので舞台でよく映えますので、ブラッソを研究してもっと深くマルカールできるようになるといいですね。フラメンコの楽しさがわかって来て、それを踊って実感してみたい!そんな雰囲気でした。明るいブレリアの部分はよく感じが出ていたと思います。(高橋英子)
●堅実なアレグリアス。しっかりと踊っているけれども、内包するエネルギーが小さく、アピールする力が弱い。おそらく、自分のやることにだけ注力して、そこまで気が回らないのでは。アレグリアスはもっと余裕を持って踊って欲しい曲種。踊り手として力をつけ、涼しい顔で踊ってください。(菊地裕子)

●技術的にはまだ稚拙な部分が目立つが、初々しく溌剌と踊っているのがいい。後ろの音に一生懸命ついていっている感じなので、多少テンポを落としたほうが良かったかもしれない。気持ちも重心ももっと下へ。(西脇美絵子)

12.久保田晴菜(タラント)

久保田晴菜(フラメンコ/バイレ/タラント)

●目がパチッ、クリッとしてチャーミング。サパテアードの音も良くて、全体的に強い安定性があって芯のある踊りだったと思います。ただ、振付がポーズの結集みたいでした。それをきれいにやっているけれど、ブラッソが少なく、流れるようなうねりが無く、芸術性が乏しくなってしまった感じがしました。(高橋)
●スタイリッシュなタラント。身体の動きが美しく、よく鍛えられていると感じる。だが、どうもバックと呼応していない。カンテと無関係に踊っているように見えてしまう。振付をちゃんと踊ることはベースであって、それを自分で消化し、バックとの関わりでどう舞台を作り上げていくかがキモ。ここからです!【A'】(菊地)

●形はできているのだが、気が落ちていないので軽い踊りになっている。上に伸びる力と大地に根を下ろす力、この相反する2つの力の拮抗が弱い。振りはこなしているが、それだけではフラメンコ舞踊にならない。フラメンコ舞踊としての立ち姿、重心の取り方を研究してください。(西脇)

13.服部亜希子(ソレア)

服部亜希子(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●出だしのステキなソレア。唄はよく間をつかんで踊れていたと思います。ちょっと地味ですが、しっかり聞こえてくる芯のあるサパテアードで強さはあります。ブレリアの部分で、マルカールやレマーテ、自然でない引っ込みの方などがちょっと残念でした。マルカールをもっと感じてやることなど大切です。(高橋)
●フラメンカなソレア。全体に強さが足りない。好きなパソを踊ることに満足していませんか?もっと自分のものとして膨らませていかないと、大劇場ではちっぽけにしか見えません。どんなにシンプルなパソでも一つひとつを極め、まずは確実に思いを伝えられるように。そこから膨らませていって。(菊地)

●踊り心は伝わってくるのだが、それを身体でも魂のほとばしりとしても十分に表現できていない。身体も動きもまずまずなのだが、どこかこなしているように見えてしまう。すべてが小さくまとまってしまう。あなたの感情は、エネルギーはどこに向かっているのだろうか? 一番感じたいものが見えてこない。(西脇)

14.松本千晶(ソレア・ポル・ブレリア)

松本千晶(フラメンコ/バイレ/ソレア・ポル・ブレリア)

●かなりの余裕で次から次へとパソを確実にフラメンカに熟し、凄味ある迫真の演技でした。スペイン人にも対抗できる力があります。自分の世界を持っていて細かな欠点などは気にならないです。圧倒されました。(高橋)
●キレのあるソレア・ポル・ブレリア。力を感じる踊り手。重さがあり、エネルギーの溜め方も素晴らしく、メリハリがきいている。中盤までワクワクと見入っていたのだけど、盛り上がりが期待ほどではなく、あれっという感じ。スタートダッシュで力を使い果たした?持久力をつけて再挑戦!【A】(菊地)

●身体もできている、リズムにも乗っている、フォルムも綺麗だ。なのに、大きなうねりを作り出せていない。もっと内側からエネルギーを溢れさせてほしい。体内エネルギーの増幅装置を自身で見つけ出してほしい。身体にキレがあり、とても美しい瞬間がところどころある。あとひと押し! [◯](西脇)

15.末松三和(ファルーカ)

末松三和(フラメンコ/バイレ/ファルーカ)

●迫力ありました。衣装もヘアーも振付も音楽も良かったと思います。オリジナル性があって退屈しないです。ブラッソなども男性的にするなど工夫していた感じです。容姿が綺麗ですが、睨みが鋭すぎるくらいでした。技術も高度で素晴らしかったです。あぁ、衣装はスカートが目立ち腹巻みたいだったのでちょっと工夫が必要かな?(高橋)
●短いスカートでのファルーカ。この演目はユニークで面白かった!見入っていたので「感動!」という以外、ほとんどメモがない。目が離せなかったのだ。エスコビージャも素敵だったし、意外性の連続で何しろ飽きさせない。やや地味に映るのは、エネルギーの放出が抑え気味だったからか。ともあれ素晴らしい才能。今後にさらに期待!【特A】【推薦】(菊地)

●今年の私の一番はこの人。ファルーカ本来の直線的な動きを、振付的にも、バイレ自体も強調されており、かつ、奇をてらうことなく新しい。特に振付者の記載はなかったが、誰の作品なのだろう? 完全に末松さんのファルーカに再構築されていた。気が充実しており、切れ味鋭く鋭角的なバイレ。加えてタメあり、押しの強さもあった。やや動きの硬さを感じる部分があったが、良い緊張感がもたらす心地良さが勝った。高いクリエイティビティとファルーカの様式美がひとつになった秀作だったと思う。[◎スペシャル](西脇)

16.阪上のり子(ロメーラ)

阪上のり子(フラメンコ/バイレ/ロメーラ)

●本人は楽しそうに踊っていましたが、それを見る人に共有してもらえるようになって欲しいです。シレンシオなどで綺麗なポーズもあったけど、ブラッソが動いてない感じでした。一つ一つの振りをスローモーションで踊るような丁寧な練習も大切かもしれません。全体的な技術アップなどいろいろ考えてこれからも頑張ってください。(高橋)
●全体に、まだこなれていない感じのロメーラ。唄振りはカンテを聴いているとは思えないほど力の変化がなく、その後のパソも動きにやや雑な点が目立った。振付は一応取れているが、そこから生まれてくるはずのエネルギーの還流がない。まず、個々のパソの身体のポジショニングと力のベクトルを精査すべし。(菊地)

●技術的には物足りないのだが、エネルギーが客席に向かって出ており、阪上さん自身のバイレになっているので見ていて楽しい。踊り心は十分すぎるほどある。それは素晴らしいことだ。でも抑制も必要。さらに、その大きな踊り心を受け止められる体を作ろう。(西脇)

17.浅野直子(ソレア)

浅野直子(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●サパテアードはしっかり踏んでいましたが、まだ全体的に弱々しく安定していません。一つ一つの振りを大切に気持ちを込めて踊っていましたが息切れしてしまう部分もあったように見えました。ブレリアなどの決め技が決まりません。これからも地道に技術アップを目指し頑張ってください。(高橋)
●いいものはあるが、その振付を踊るには身体の芯に力が足りない。ソレアをちゃんと踊ろうと思ったら、強さと重さは必須だと思う。それを支える芯がないと、何を踊っても表面的になってしまう。体幹を鍛えること!動くエネルギーは身体の芯から発すること!大舞台ほど余計に大事なことです。(菊地)

●スタートから気合充分、いきなり高い集中力で空気を変えた。自律的にリズムを打ち出そうという姿勢が感じられるのもいい。フラメンコの大事な部分をつかんでいる人のように思う。こういう人こそ、もう少しフォルムに心を配って欲しい。(西脇)

18.津幡友紀(ソレア)

津幡友紀(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●うまくエスコビージャの音頭を取り、確実なサパテアードで、レマーテもしっかりしていてよかったです。初めから表情が入り過ぎている感はありましたが、「こうなのよ!」と訴え掛けるような大げさでもある表現を、思いっきりやっていてフラメンカな存在感ありました。(高橋)
●メリハリのあるソレア。動きによってエネルギーの凝縮、流れがわかる。いい踊り手だなあ。(と、昨年も同じようなことを書いている!)だが今回は、コレ!という個性が薄かった。多くの上級者がぶつかる壁だが、彼女の場合は昨年のことを考えると乗り越えられると思う。自分のこだわりを念頭に入れ、練り直しを。【A】(菊地)

●エネルギーの放出力がすごい! 重心が重いのにサパテアードが軽やか。ケンカっぱやくて鉄火肌なヒターナが踊っているみたいだ。しかもそれが超自然。思い込みやあこがれからではなく彼女の個性がそのまま出ているのだろう。せっかくパンチのあるバイレなのに、肝心のマルカールが流れてしまうのがなんとも残念。[小◯](西脇)

19.重藤優子(ソレア)

重藤優子(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●いい雰囲気もあり、上体ブラッソなど悪くはありませんが、もう少しねっちりと深くマルカールできるとよくなると思いました。サパテアードももうちょっとしっかり強く打てるように頑張ってください。エスコビージャからの流れが、どうもまとまっていない感じがしましたが、板付きの終わり方はステキでよかったです。(高橋)
●柔らかさと強さがバランスよく同居したソレア。ただフラメンコの要であるコンパス感が弱い。コンパス感だけは振付をいくら習得しても養われるものではないが、例えばフィエスタのCDを四六時中聴いていると、3年後ぐらいには随分変わってくる。気の長い話だけど、異文化なのだから仕方ないのだ。ファイト!(菊地)

●重量感あるソレア。フォルムも美しい。丁寧に、基本に忠実に踊りこまれているように見える。が、時に集中が途切れるのか、体力不足なのか、どたばたしてしまう。[◯](西脇)

20.柴崎沙里(ソレア)

柴崎沙里(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●出だしの迫力あるジャマーダ。唄振りの包み込むようなブラッソ。全体をしっかりマンダールして流れを作りだし、自分の世界に陶酔する。そんな感じでとても良かったです。シンプルな振りはもう少しフラメンカに演じられたらもっとよかったなぁ~とも思いますが、これだけ踊れれば申し分ないと思います。(高橋)
●いい雰囲気を持ったソレア。しっかり踊っていて、欠点は特に見当たらない。上手な踊り手だ。けれども彼女もまた上級者の壁に直面しているのか、突出した個性がうかがえない。それは人と違ったことをするということではなく、自分がフラメンコの中で最も好きな部分、得意な部分に磨きをかけて自ずと出てくるものだと思う。あと一息!【A】(菊地)

●全出場者の中でも、際立って身体性、舞踊性に長けている人と思う。前回出場した時は、それが逆に邪魔をしてフラメンコに見えないようなところがあったが、今回は飛躍的な進歩。エネルギーの出し方、緩急のつけ方などフラメンコとしての身体の動かし方、技術をシッカリ身につけていた。欲をいうなら、もう少し直線的な動き(シンプルな身体の使い方)を心がけてもいいかも。[◎](西脇)

21.鈴木真衣(ソレア)

鈴木真衣(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●まだちょっとおとなしい踊りです。上体の使い方を立体的にする努力をすること、一つ一つの振りをハッキリやってメリハリを付けて行くこととか、エスコビージャの時は基本的には上体をスッと伸ばして、安定感あるサパテアードができるように練習することなど提案します。技術アップを目指して頑張って練習してください。(高橋)
●雰囲気を感じるソレア。舞踊センスも悪くない。しかし、曲全体の流れの中で、もっと表現を膨らませて欲しいと思うところが多々。例えば、人は緊張したら息が浅くなるし、ホッとすれば息を吐く、深い呼吸は集中を生むというように、呼吸と心身は無関係ではない。一度、呼吸を意識してカンテを聴いてみて。そしてカンテのように踊ってみて。(菊地)

●気合充分。自身がイメージするフラメンコに向かって踊ろうとする気概を感じる。ただ、いかんせん力の入り過ぎで踊りが固まってしまうような印象。力の抜き方、抜きどころを研究してください。[小◯](西脇)

22.土井わかな(タラント)

土井わかな(フラメンコ/バイレ/タラント)

●肝心なところをつかんで懸命に踊っていて良かったです。チャーミングでフラメンカなところもありますね。タラントの部分はちょっと弱々しいですが、タンゴの部分から軽快にリズムに乗れて、楽しそうで良かったです。歌に合わせた引っ込みも粋でした。(高橋)
●力を感じるタラント。よく踊れているが、色々と工夫が足りない。エスコビージャはありきたりだし、流れとしても盛り上がりに欠けた。力量はある。個々のパソの表現力を上げるために、もっと流れを意識してみるといいと思う。足りないところを精査して、あとは精進あるのみ。(菊地)

●昨年よりも落ち着いて踊っていたのが、まず、良かったです。彼女のバイレを見ていると、求心性を感じる部分もあるし、自律的にリズムに参加しようとする姿勢も感じるので、フラメンコの核心に向かって踊ろうとしている気概は伝わってくる。ただ、舞踊の部分が稚拙なので説得力が出てこない。あなたは客席に向かってどう立てば自分が一番美しく見えるか、研究したことがありますか? ワキがいつも落ちて、しかも正面に構えがちでもあるので、踊りが平面的になっていることに気づいていますか? 思い込みやイメージでフラメンコを追い求めるのではなく、一つ一つ具体的に、問題を克服していきましょう。美しく踊ることがフラメンコ舞踊の本懐ではありませんが、やはり舞踊であり身体表現なのです。(西脇)

23.佐藤奈々子(タラント)

佐藤奈々子(フラメンコ/バイレ/タラント)

●落ち着いてしっかり踊っていたと思いますが、上体が前屈みがちだったり、マノが平面的で回りきってないのが目立ちました。全体的なテクニックをもう一度見直し、タンゴはブラッソを活かしたマルカール(基本的なこと)をもっと勉強してみるといいのではないかと思います。(高橋)
●身体の使い方が美しいタラント。けれども、彼女も途中で失速した。エスコビージャで上がっていくはずのテンションが上がらない。ゆえに盛り上がりに至らずに尻すぼみになってしまった。今回、このケースがいかに多かったか。足りない部分は修練するしかない。あと、呼吸を深くして。息が浅いと身体が動かなくなります。(菊地)

●技術力以上の表現力を感じました。これはどういうことかというと、同じようにうまく無難に踊る人が多い中で、あなた印が印象に残るということです。これって基本的に良いことです。でもこのタイプの人は、"好印象"で終わってしまいがちなんですね。人のいい男性が「いい人」でおわってしまうのと似ているかも。でも、私印はある意味フラメンコの重要な要素でもあるし、見る方をホクホクさせてくれたりするので、それを良しとする世界観もありかもしれません。あとはあなたがフラメンコに何を求めるのかです。(西脇)

24.小島智子(シギリージャ)

小島智子(フラメンコ/バイレ/シギリージャ)

●久々のパリ―ジョ。快い響きが新鮮でした。衣装が伝統的でなくてモダンなカンジでした。とてもステキで見入ってしまいました。安定したそつない踊りで最後もよく堪えてしっかり見せ、立派でした!よかったです。(高橋)
●カスタネットを使ったシギリージャ。今回は小物を使った踊りが少なかったので、やけに目立った。カスタネットの響きは好ましく、もっと聴きたいほどだったが、身体の動きが柔らかく、踊りに関してはどうもシギリージャの雰囲気が出てこない。ソレアのほうが良かったかも。ともあれフラメンコのカスタネット、ぜひとも追求してください。(菊地)

●出場者の中で唯一パリージョを付けて踊った小島さん。パリージョで踊るということはクリアしなければならない要素(しかも大きな)がひとつ増えるわけで、大変なことです。まずはその果敢な挑戦にオレ! しかも繰り出されるリズムはとても心地よかった。しっかり使いこなしていました。パリージョの難しさに足を引っ張られることなく踊りきった実力。これまたオレ!です。ぜひ次回もパリージョで挑戦してほしい。もう一歩です。[◯](西脇)

25.杉原敦子(グアヒーラ)

杉原敦子(フラメンコ/バイレ/グアヒーラ)

●何といいますか、ちまちまっとした感じ、心和む優しさのある踊りでした。自然に淡々と踊っていて、わざとらしい大胆さが無くて良かったです。サパテアードはちょっと物足りない、そんな感じもしすし、もっと躍動的に身体を動かし、気持ちをもっと宇宙に向けて押し出してもいいと思いました。(高橋)
●まだ振付をなぞっている段階のグアヒーラ。粋さとか洒落っ気とか、グアヒーラにあらまほしきものを云々する状態にあらず。気になったのは、アバニコを回すたびに肘まで動いちゃうこと。これは手首で回してください。アバニコを使う時には、名人と言われる人のDVDなどを見て要研究。精進精進。(菊地)

●今年は重い曲種の連続で、グアヒーラのサリーダが聞こえた時にはなんだかほっとした。杉原さんの真っ直ぐな心意気は清々しい風を引きよせてもくれた。ただ、技術的にはすべてがこれからという感じだ。しっかりした軸、スムーズな重心移動、そういった踊る体の基本を身につけてください。(西脇)

26.関祐三子(シギリージャ)

関祐三子(フラメンコ/バイレ/シギリージャ)

●上体の動きがステキで手の先にまで気が配られていました。安心して見られる確実なテクニックを持っていて、とても沈着で気迫ある踊りで良かったです。振付も凝っていて特殊なので見応えありました。やり過ぎでくどいところがないのも良かったです。(高橋)
●かっちりしたシギリージャ。踊り手としての身体は仕上がっていて、舞踊センスもある。上手だなあと思う。だが、振付ありきで踊っているように感じる。主体としての踊り手の情感が伝わってこない。これでは人形だ。あなた自身を開いてくれないと、観客も心を開きません。フラメンコはここからです。【A'】(菊地)

●ぐっと腰の入った堂々たるシギリージャ。同じ舞踊団出身で先輩格の中田佳代子さんを彷彿とさせる圧倒的な存在感で踊った。緊張感も高かったのだろう、力み過ぎと感じる部分もあったが、踊りのスケール感、重量感は発揮され続けていた。過信することなくまっとうな自信を味方につければ、自然と余計な力は抜け、よりインパクトの有る踊り手になるだろう。[◎](西脇)

27.大野環(ソレア)

大野環(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●安定した技術があり、しっかりパソも熟していました。ただ、全体的に振付、パソの選び方がオリジナルで、時にはソレアのイメージとあまり合わない感じだったりして、うまく効果がでてないようで、わたしはそれが気になってしまいました。個人的な趣味の違いでしょうか?すいません。もう一度拝見したいところです。(高橋)
●ピリッとして心に響くソレア。メリハリがきいていて、本人に自分のソレアのイメージがしっかりとあるのがわかる。細かいところではダメ出しもあるけど、多くの人が失速しがちだった今回、最後までやりきった感があった数少ないうちのひとり。今後、この達成感をベースに、もっとハードルを上げてくれることを期待しつつ。【特A】【推薦】(菊地)

●今年も繰り返し挑戦を続けている人が大勢いたが、その成長の大きさで感動させてくれたのがこの人。昨年まで目立っていた体の癖が見事にとれ、見違えるほどのバイレになっていた。彼女独特のコラへも健在だ。説得力のあるソレアだった。この方向性でさらに突き進んでいってください。(西脇)

28.川田久美子(アレグリアス)

川田久美子(フラメンコ/バイレ/アレグリアス)

●まだ全体的にテクニックも表現力もまだまだなのですが、「わたしが踊ってますよ、見てくださ~い!」といった感じで余裕もって楽しんで踊っていたところが良かったです。心意気は良くて、振付も凝っていてそれなりの面白さはあったと思います。(高橋)
●昨年と同じ演目でアレグリアス。その意欲は○。伸びやかさはあるのだが、ごくフツーのアレグリアスに留まっている。エスコビージャも面白みがない。今回、アレグリアスで出場した人に共通して言いたいのは、これは明るく元気に踊ればいいだけの曲じゃないってこと。もっと頭を自由にして、楽しんで踊って。(菊地)

●身体も技術も基本はできているのだと思う。アレグリアス的な溌剌さだけでなく、佇まいにどこかポエジーを感じる。今後は更に表現を深め、単にリズムに乗るのではなく、自律的にリズムを打ち出してほしい。[小◯](西脇)

29.月城宏美(ソレア)

月城宏美(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●ステキな容姿で、エレガントで美しいのにマノ、ブラッソはじめ、全体的な技術テクニックが乏しいのが残念でした。先ずは手首をくるくる回すことから始めて上達を目指してくださいね。(高橋)
●大きなソレア。深いものを要求する素敵な振付だ。これを踊るには、身体に相当な厳しさが必要になる。粘度の高い空気の中で踊ったら、手も足も簡単には動かせない。動かしがたいものを動かすように肚から踊らないと、深さは生まれてこない。まだ身体が追いついていない状態だ。足で身体がブレるのは体幹の問題。修練を積んで再挑戦を。(菊地)

●重心の移動がスムーズで軸がしっかりしている。やや動きが流れてしまうのが気になるがフォルムも美しい。つまり、技術的にはほぼ出来上がっているのだ。でも、その身体から熱いエネルギーが出てこない。なぜ? 恵まれた肢体が宝の持ち腐れ状態だ。研究の要あり。[◯](西脇)

30.細川由香(ソレア)

細川由香(フラメンコ/バイレ/ソレア)

●真摯な気持ちが伝わってくるソレアで良かったです。自分なりに振りを遂行してきれいではありますが、上体の使い方などが気になります。押し出して溜めこむには開いて縮める、吸って吐く、そんな呼吸動作みたいなことをじわじわっとスローモーションでやってみるといいかもしれません。(高橋)
●しっとりしたソレア。唄振りが美しい。美しいが、何となく湿度がある。エスコビージャは格好いいし、表現力もある。けれども、フラメンコとしては何か物足りない。力強さが感じられないのだ。しっとりと美しいだけでは、フラメンコの魅力には届かない。エネルギーを凝縮して吐き出す瞬間を、どこかに。【A'】(菊地)

●舞踊性高く、フォルムがきれい。特に美しいブラソが印象的だった。踊り手としての華もあり、しなやかなテイストはうまく表現している。だが、このタイプの人にはよくあることだが、フラメンコ度が低い。舞踊性がただ美しさだけに働いているのではダメ。フラメンコとしての身体の使い方を身につけなければ。[◯](西脇)

31.瀬崎慶太(タラント)

瀬崎慶太(フラメンコ/バイレ/タラント)

●自分なりによく考えてアイディアをもってやっているようにみえます。ちょっとなよなよしているのが残念で強く逞しい男らしさをつけていくとよくなると思いました。実力アップを目指して頑張ってください。(高橋)
●オレは男だぜ!っていうタラント。昨年の緩いソレアとは裏腹に、ガンガンと決めて見せにかかった。その心意気は断然買う。キレもかなりいい感じになった。ペソは今ひとつだけど、大変に成長したと思う。今後は、コンパス感をもっともっと養うこと。男性のバイレの魅力はほぼそこにあるのだから。(菊地)

●立ち姿はきれいなのだが軸がまだ弱い。エスコビージャで遅れがちになるのは、力みすぎているからだろう。一つ一つの動きに丁寧に思いをのせているように見えるが、それが あまりに予定調和的というか表現のテイストが古臭いので、どこか不自然なのだ。表現力の種は持っている人だと思う。精神的に一皮むけることもこの人には必要かもしれない。(西脇)

32.重盛薫子(ソレア・ポル・ブレリア)

重盛薫子(フラメンコ/バイレ/ソレア・ポル・ブレリア)

●もうこれだけ踊れれば申し分ないっていう感じです。自分がこう踊りたいという世界がハッキリしていていいです。時々アイロッソなマルカールも表情もステキです。ちょっとくどいところも振りの中にあったかな?でもそんなことは気になりません。最後の引っ込みも感動的でステキでした。素晴らしかったです。(高橋)
●内側の充実を感じさせるソレア・ポル・ブレリア。思いが伝わってくる踊り。非常に好ましいのだけど、背中がやや甘い。上半身は感情の増幅装置だから、背中に踊る意識がないと、表現が非常に狭まる。肩甲骨の間をもっと意識して欲しい。そして今後は、ぜひ自分らしさを掘り下げること。たまには、はっちゃけて。【A'】(菊地)

●下へ向かう強いエネルギーを感じさせながら、切れ味よく踊った。鉄火肌な踊りっぷりが見ていて気持ちいい。ただ、パワーは有るのに、全体に一本調子になってしまうのが惜しい。きめ細やかな踊りこみがもう一歩必要。[◯](西脇)

33.出口知子(ソレア・ポル・ブレリア)

出口知子(フラメンコ/バイレ/ソレア・ポル・ブレリア)

●ちょっとひ弱なイメージではありますが、モダンな振りをバックアーチストのアイレに融合してうまく踊っていました。ですからサパテアードはもうちょっとしっかりと!ブレリアは綺麗でしたがちょっとフワフワしてしまったです。パソに追われてちょっと乗り過ぎの感ありで、少し抑えるのもフラメンカに見せるコツでしょう。(高橋)
●身体にまだソレア・ポル・ブレリアの振付がしみ込んでいないのか、振り回されている印象。ワンピースのフレコがそれを増幅させるような感じになった。まず、気になったのはブラソの形。自由に動かすのは、基本のポジションを抑えてからにして欲しい。そしてパソの一つひとつを丁寧に踊りきること。勢いで持っていってもアラは見えます。(菊地)

●基本的な動きはできていると思うのだが、普段踊っているテンポよりも上がってしまったのではないだろうか。全体に動きがツメツメでせわしない感じ。速さで身体が動ききれないからバイレが小さくなってしまう。テンポを少し落として、丁寧に踊ったほうが良さが出たと思う。今年はスペイン人のバックがいつもにもまして多かったが、彼らの半端無いパワー、テンションを受けとめる技量がないと煽られているようにしか見えないので要注意。(西脇)

34.永野暢子(タラント)

永野暢子(フラメンコ/バイレ/タラント)

●ずんぐりした感じの踊りでした。白い衣装に包まれていたのに重たいイメージでした。もっと流れのあるブラッソが見たかったですね。身体を使って深く、丸くマルカールする練習をしてください。ステキな容姿なのにもったいないです。頑張ってください。(高橋)
●やりたいことが絞りきれていないのか、漫然とした印象のタラント。あと、背筋が弱いのか、背中に隙があり、ブエルタが美しくない。まずは身体を鍛え、曲全体の構成をしっかり頭に入れて、どの場面では心身がどのようにあれば望ましいか、シミュレーションしてみること。大事なのは積み重ねです。頑張れ!(菊地)

●踊り心が素晴らしい。自分が踊りたいフラメンコのイメージを明確に持っている人だと思う。だが、それを一度忘れて、基本に戻ってみてはどうか。フラメンコ的なタメや抜きの感覚は直感的に掴んでいるように見えるが、全てがまだ甘い。(西脇)

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
先行きが見えない...
壁を感じている...