<カンテ部門総評>
堀越千秋
●カンテはフラメンコの精髄であるから、これなくしてはギターも踊りもない。ところが皆さんはカンテなくして、踊りやギターの小細工に励んでいる。笑止というより悲惨である。そこへいくとカンテを唄う方々は上手下手は関係なく、本質へと向うインテリジェンスを持っておられる。踊りと同じ自己顕示欲の発露かもしれないが、道の困難さに日々直面するから謙虚である。まことに我が友として一献を傾けたき方々であった。サルー!
ランクはA、a゜、a、a'、B゜、B、B'、b゜としました。
小森晧平
●日本人のカンテ、徐々に良くなってきている。ただやはり評価の高い人たちは声の出し方、お腹を使ったこぶし回し、階段の上り下りがしっかり出来る人になる。カンテは身体全体をつかって唄うことも大切だ。あと、こぶし回しに関しても10種類以上あるのでそれをすべて身につけて頂きたい。
中谷伸一
●カンテを唄うことは、スペイン人の真似をすることだろうか? ヒターノらしい節回しを会得することだろうか? それとも日本人である自分の心情を、スペイン語のレトラ(歌詞)に込めることだろうか? いっそ日本語でカンテを唄うことだろうか? 簡単に答えは出ない。ただ、こうした発表の場の積み重ねが、日本のカンテ愛好家にとって、少しずつでも前進につながることは、まず間違いないだろう。
加部洋
●今年のカンテ部門は大挙20人の出場者で驚かされた。お馴染みの方々も多かった。従って聴く前から、去年以前のことを考えて、勝手な想像をしてしまいがちだった。しかしよく注意して聴いてみると、確実に上達していることが今回分かった。飽くなき向上心が現状を変えることを理解した。

1.田中としろー 君(ティエント)

1.田中としろー 君(ティエント)

●声が良い。すこしかすれた感じがなかなか良い。しかしそれは天然であるから良いのだ。往年の名人ベルナルド・デ・ロス・ロビートスを思わせるところあり。一旦出した声なら引っ込みがつかない。これは唄の宿命、アートの宿命である。むりに正しい音程に修正しようとしないこと。[B](堀越千秋)
●声の出し方、音の流れ、ノリも問題ない。但し、カンテに必要なテクニックが足りない。節の下り方(階段下り)が単純すぎる。こぶし回しにもしっかり取り組んでほしい。(小森晧平)
●技巧を凝らしたり、喉を絞った発声でない自然体な部分がよかった。一方で全体に朗々とした調子が続いたのが残念。より深く、ぐっと間をとった節回しが聴きたい。語尾を伸ばす歌い方の頻出も、少し気になった。(中谷伸一)
●フラメンコに合った良い声質はいつもの通り。それだけでも大きなメリットだが、サリーダから全体的に節回しに自然でないものがあった(一生懸命節を回そうとする努力は分かる)。音程も時々フラット気味になる。しかしタンゴになってからはなかなかの熱唱で、盛り上がった。(加部洋)

2.上野君代 さん(マラゲーニャ)

2.上野君代 さん(マラゲーニャ)

●はじめのジャジャーイ、は力が抜けすぎて弱々しい。スペイン語に自信のない事があらわれてしまっている。声は良いので、もっと堂々と唄うが良い。音程が少し狂うようなところがよい。唄っているうちに合って来る。声が良い。[B°](堀越)
●男っぽい声の出し方、これはスペインには何人かいるが日本には殆どいない。音程の高い部分もしっかり唄えている。ただ残念ながらこぶしが殆ど出てこない。これが出てくればかなりのレベルの高いカンテになる。(小森)
●前半は喉が閉じているようで、やや音程が不安定に聞こえた。後半、発声も伸びやかになり、声量も大きく安定してきたと思う。制限時間5分という短い時間の中で、直前のリハーサルも無しで、最初から全開でいくことは、特にカンテの場合、難しさを感じさせられた。(中谷)
●第一声からインパクトのあるフラメンコな声。節回しも自然で、切々と訴える歌唱が素晴らしかった。今までの上野さんの中で一番良かった。「こんなに上手かったっけ」と思ってしまった。欲を言えば、スピード感、メリハリがあればと思った。(加部)

3.金沢賢二 君(ペテネーラ)

3.金沢賢二 君(ペテネーラ)

●裏声(ファルセーテ)の唄い方、なかなか上手い。かつてこういう唄い方が流行した。主に非ヒターノの歌い手がよくした。アントニオ・チャコンが代表格だ。カンテ・ボニートといわれて、ヒターノの黒い響きとは異なる洗練された音楽美をきかせた。とはいえ、そこには深い知識とアンダルシアの情趣がある。そもそもむかしの唄い手は、ヒターノと非ヒターノに関わらず比較的声が高かった。金沢氏はよくこの美をあらわした。カンテの美、呼吸をよく知っている。独特の気分があり、強弱も自然で良い。ファルセーテの好き嫌いとは別に、カンテの評価はされなくてはならない。[a°](堀越)
●音の節の流れも良い、テクニックもしっかり身についている。日本人男性としてあの高い声に挑戦する人は他に殆んど(1人は居る)いない。吹きぶしもあるし、なめらかな声の出し方も部分的に使いこなしている。あとできればペテネーラ以外の唄をきいてみたい。終りのしめ部分の高いところの節が少し外れたけどそんなに問題ではない。(小森)
●マイテ・マルティンの名盤「ケレンシア」(2000)収録の「GLOSA A LA NINA DE LOS PEINES」の完全コピー。ぺテネーラのマイテ流編曲をレトラの細部まで録音そのままに再現を試み、氏の声質も手伝って、かなり似ていた。氏はギター部門で準奨励賞を獲得しており、これから唄とギター、もしくは両輪での、オリジナル作品発表に期待したい。(中谷)
●歌のセンスがあることは、最初の歌い出しで分かった。情感豊かで音程も良く、何よりもフラメンコのセンティミエントがあることが素晴らしい。発声が更にフラメンコ的になれば言うことなし。最後の一節でちょっと不安定になったのが惜しかった。(加部)

4.山田ナオリ さん(シギリージャ)

4.山田ナオリ さん(シギリージャ)

●サリーダ(出ダシ)のティリティリ...は、無理に先人の癖をマネしないで、自分自身が地面から涌き出すような気分で持ち上げなくてはならない。声は良く出る。声を弱くする所もよろしい。しかしあんまり技術的に工夫するのはよくない。もっと声を張り上げて唄ってみてはどうか。リズムは、シギリージャでも前ノリにしていかねばならない。[B°](堀越)
●迫力のある声、お腹を使って吹きぶしもあり、あとはシンプルな節をもう少し複雑にして、階段上り下りのしっかりとした節回しが出来ればよかった。(小森)
●アグヘータ一族がよく唄う「Mal fin tenga」のシギリージャ。気合いは十分に感じたが、喉で絞って作られたような声が惜しかった。そのせいか音域と声量の幅が限られ、爆発的なパンチ力も不足気味だった。(中谷)
●サリーダで音が不安定なところがあったが、そんなことはどうでもいいくらいヒターナっぽい歌いっぷりが良かった。後半のドラマティックな展開で盛り上がり、更に良くなった。今後に期待したい。(加部)

5.松橋早苗 さん(マラゲーニャ・イ・アバンドラオ)

5.松橋早苗 さん(マラゲーニャ・イ・アバンドラオ)

●「デ・トゥ・ペロ...」のデ、「ポル・ラ...」のポル、「カナリオ」のカ、つまり唄い出しの一声が弱い。これらは、様子を見ながら唄う人の特長で、確信の不足である。慣れること。自信をもつこと。ノリは尻ノリ(後のり)で悪い。マラゲーニャはとかく初心の人が唄いたがる曲だが、日本的情緒で、リズムを待ちながら唄うと違う曲になってしまう。[B](堀越)
●節の流れがゆっくり過ぎる。しかしテンポを速くする必要はない、あくまでも節の階段上り下りの速さのこと。あと、波こぶなど部分的には良い節回しができているが、キーが少し低いため低い部分の音程に問題有り。(小森)
●スペイン語の発音がかなり日本語的で、「tu frente...」あたりから、ようやくエル・カナリオのマラゲーニャだと気付いた次第。やはり発音の勉強は必須。各単語の意味まで徹底的に調べて、一語に細かなニュアンスを込めてほしい。(中谷)
●音程良く、情感込めた歌い方だったが、発声や節回しにフラメンコ的な自然さが無かった。発音もカタカナスペイン語的だった。しかし、ハレオや最後の立ち振る舞いなどステージングはフラメンコだった。(加部)

6.ノリコ マルティン さん(ソレア)

6.ノリコ マルティン さん(ソレア)

●ギターの伴奏がシギリージャで始まったみたいでハテナと思った。声は良い。但し、少し発音に変な癖がある。口をしっかり開いて発音した方が良い。長年唄っている人でも、自分なりの癖で通してしまっている人は多い。どことなくムーディーになって当人は満足かもしれないが。ちょっと日本風な湿り気のあるソレア。もっと張り切ってドライに唄うべし。ハーフなのに、と思って聞いていたが、実は僕はこの人をマドリードでよく知っていて、マルティンは夫君の姓なのであった。日本民謡を唄うと実に名手である。あの元気をソレアに![B°](堀越)
●良い節のソレアを唄われた。特に2唄が素晴らしい。その良い唄をレベルの高い声の出し方節回しのテクニックでスペインっぽい唄としてきかされた。できれば2唄の締め部分をもう少し勉強してほしい。将来非常に期待できるカンタオーラ。(小森)
●当人の熱演をよそに、筆者には何を唄っているのか、ほとんど聞き取れなかった。発声がこもり気味で、語尾が不明瞭のまま伸ばしてビブラートがかかるからだ(しかしこれはマイクのせいもある)。呆気にとられているうちに終わってしまった。(中谷)
●持って生れたハスキーボイスが魅力的で、節回しに独特の味わいがあり、エストレージャ・モレンテのようでもあり、インディア・マルティネスのようでもあった。テンポが上がって更に良くなった。将来に期待大。(加部)

7.鳥居貴子 さん(ティエント)

7.鳥居貴子 さん(ティエント)

●声は良い。リズムの尻が重い。これは自律的なリズムが心の中になく、他(ギター)に頼って聞きながら唄うからである。極端な話、唄い手は、ギターの音を遠く参考程度に小耳に入れておけば良い。そのかわり内なるリズムに従って唄うのだ。するとズレているようだが、ピタリと合うのだ。そうしないと、こういうコンパスのある曲は尻が重くなってきて、聞く方は眠くなる。[B](堀越)
●節回しが単純すぎかも...。あとキーをもう少し上にあげないとこの曲の魅力が出せない。声の出し方、はり上げる部分とおさえる部分はうまくいっていた。とりあえずもっと複雑な節回しにしてもらいたい。(小森)
●カラッと乾いたサリーダが爽快だった。古い定番レトラを次々と唄ってくれ、いかにもティエントのムードが出ていた。唄う詩の世界と本人の雰囲気が合っている気がする。現地のペーニャで唄ったらオジさんたちに受けそうな人で、アフィシオナーダのカンテとして魅力的。(中谷)
●音程も節回しもよく、息の強弱の出し入れも堂に入っている。経験の豊かさを感じる。唯一気になるのが発音で、それが良くなれば、かなりのレベルに行くのではないだろうか。(加部)

8.諏佐真代 さん(グアヒーラ)

8.諏佐真代 さん(グアヒーラ)

●声が可愛い。美しい声だ。メロディーラインが狂ってもそのまま押し通すこと。メロディーラインが狂うのは、歌詞(スペイン語)に自信がないからだろう。[B°](堀越)
●この唄は最高に難しいグアヒーラ。かなりのテクニックを身につけてないと唄えない。声の階段上り下りはほぼ完璧、難しい節回しは8割以上できている。あとは声自体、迫力が更に追加されれば、問題無し。(小森)
●楽しげな透明感のある声で、グアヒーラの雰囲気を演出。歌っている際、両手、または片手がリズムを取っていない時、フラフラ宙をさまよう点が気になった。また、レトラが聞き取りづらく、筆者にはほとんど意味がとれなかった。(中谷)
●まず感じたのは節回しの素晴らしさだった。なかなか出来ることではない。グアヒーラの良い意味での"軽さ"も出ていた。しかし、難しい曲に一生懸命挑戦しているという印象があり、つまりそれはまだ曲を完全に自分のものにしていないということなのだと思う。更なる精進を。(加部)

9.中山えみ子 さん(アレグリアス)

9.中山えみ子 さん(アレグリアス)

●声が強くて良い。ただし歌い出しの一瞬の声が弱い。日本人は必らず第1音が弱く、第2音から普通の強さになる。周囲に気がねする生活習慣の影響かもしれない。スペイン語を正しく発音しないと別の違う唄に聞こえてしまう。自信を持って。テンポが遅れていくのは、他の人と同じ理由(リズムをギターに頼る)による。あんまり技巧的に工夫しないこと。声は強い張りのあるまま唄い通しなさい。[B](堀越)
●このアレグリは音域が広いため低い部分が唄いづらい状態なので、もう少しキーを上げた方がいいかも。あと、こぶしを使ってる部分もあるが、もっとお腹を使ってこぶしを増やした方が...。(小森)
●ジャパニーズ・ポップスのような歌だった。声量もあり、声質も素直なのだが、レトラの意味が放置され、声の伸びゆくままに遠くへ行ってしまうので、ほとんどカンテらしく聞こえない。一旦徹底コピーから始めてはどうだろう?(中谷)
●少し鼻声だったが、独特のふっくらした声質が魅力的だ。音程もいいし、小気味よく回る節回しもいい。更にもっとフラメンコな表現の領域に分け入ってほしい。(加部)

10.鈴木高子 さん(マラゲーニャ)

10.鈴木高子 さん(マラゲーニャ)

●声を持っている。マラゲーニャに過剰な感情を入れすぎてはならない。歌謡曲的要素をもつ曲だが、成り立ちは違う。音程が狂うところがあるが、気にせず押し通すべし。あちこちの意見をきく必要なし。ベルディアーレスの部分は実に気持ち良さそうであった。ああやって全曲、自信を持って歌うべきだ。歌詞のスペイン語を怖れずにもっと慣れたら、俄然自由になると思う。[B](堀越)
●しっかりとお腹を使った節回しが出来ている。ただこぶし回しがやや少ない。特に締め部分にもっと入れてもらいたい。あと部分的に階段上りの節をしっかりと...。(小森)
●前半のマラゲーニャは、しびれるほど素晴らしかった。二人の愛の行方を唄うレトラも切実で哀しく、しかし情熱的で、知らずと引きこまれた。特に「cada dia yo a ti te quiero mas(日々あなたへの愛が深まっていく)」の部分には、思わずオレ!だった。ケ・アルテ!(中谷)
●今年もやってくれました。お歳のことは言いたくないが、少しもかすれない太い堂々たる声量は特別!マラゲーニャを自分のものにしている。ベルディアーレスになってから更に良くなり、最後は聴衆に明らかに届いた迫真の歌唱だった。(加部)

19.小林ゆうこ さん(ブレリア)

19.小林ゆうこ さん(ブレリア)

●声は大変良い。リズムが時折はずれる。スペイン語の変さが、即、唄の変さ、につながるものだ。口を大きく開いて、せめて歌詞のスペイン語だけは完璧にしたら、自在さは増す。[a'](堀越)
●ふつうに唄われるブレリアとは全く異なってるので評価が難しいかも...。とにかく非常に難しい節回し、音の流れもある程度出来ていた。一唄のノリが少し遅れた部分もあったが全体的にこぶしを使った節の流れはとりあえず確認できた。(小森)
●カンシオン風ブレリア。わかりやすいテンポに、メロディアスな歌謡曲風で、ドライ過ぎない情感もうまくつかんだ快演。音程の微妙な狂いが時折耳についたのだけが残念。それ以外は、持ち味は十分出ているように聞こえた。(中谷)
●ピティンゴのヒットしたカンシオン・ポル・ブレリア。緊張していたためか全体に力みがあり、力の入れどころ、抜きどころのメリハリが足りなかった。一番ドラマティックな転調部分は疲れのためか声が前に出なかった。しかし、哀感ある独特の声質が魅力的だ。(加部)

20.永井正由美 さん(ソレア)

20.永井正由美 さん(ソレア)

●声はいい。音程が狂うのは、メリスマ、装飾音にとらわれすぎるからだ。まず、まっすぐにメリスマなしで、唄の骨格だけを唄いなさい。だんだん自然にメリスマはついてくるだろう。魚本体より先にヒレの部分ばかりマネしてもダメである。[B'](堀越)
●声の出し方は良いし、吹きぶしとか良い部分もある。ただし音程が外れる部分が多い。あと、こぶしが必要な節にもっと気をつかってほしい。特に節が高い2唄には絶対に必要。(小森)
●誠実さと強さが滲む声。一方、最初の音程の狂いが気になった。なるべく語尾を伸ばさず、一語一語スパッと終わらせては。短かく小声だった冒頭サリーダ「ア~イ」は、音程調整と声慣らしとして、十分活用したほうがいいと思う。(中谷)
●伝統の香りをたっぷり感じさせるソレア。気持ちのタメも伝わってきた。音程が時々若干下がったが、よく聴くと可愛い声で、魅力がある。もう少しキーを上げたら迫真のカンテになるのではないだろうか。(加部)

21.岡村佳代子 さん(ソレア)

21.岡村佳代子 さん(ソレア)

●もっとシンプルに歌うべき。カンテ、特にソレアなんか、誰が唄っても、良くて当たり前なのだ。唄とは良きものだ。心からその唄を唄いたくて声を出すのだから悪いわけはないのだ。じゃなぜ良くないのか?心からの、腹の底からの吐露を、頭がブレーキをかけて、アレコレしようと企むからだ。ここは強くしよう、ここは弱くしよう、そうしないと賞はもらえない、とか。全部頭だ。人間の小さな頭ほど惨めなものはない。人類の英知のはずのあの原発の惨状を見れば分るだろうに!この人声はいい。ソレアの音程が下がる部分、この人も狂う。全日本人(プロアマ問わず)が同じ所で狂う。僕は白ける。当人は癖で分らない。何故?僕の知る限り、日本では三人しか正しく唄える人はいない。不注意!(一般論です。失礼)[a'](堀越)
●迫力はあるが節のテクニックが足りない。高い音程に取り組むことはとても良い。節の階段上り下りも出来ているが、やはりこぶしが必要な節が何カ所もあるので、そこをしっかりとやってほしい。将来性が期待できる唄い方ではある。(小森)
●全体的に破綻もなくまとまったソレアだが、今回多くの人に共通の「喉から出る声」になっている。「喉声」の最大の弱点は、声量を全開にした時に、金切り声で叫んでいるような印象になってしまうこと。腹からならドスも効いて、ハウリングも低めに抑えられる。(中谷)
●内に秘めた情熱を切々と歌ったソレア。マックスで声を出した時に、返って味のある声質になる。節回しが「ミ」に戻る時の処理が不安定な時があったが、並々ならぬカンテへのアフィシオンが伝わってきた。(加部)

22.福田加弥子 さん(カンティーニャス)

22.福田加弥子 さん(カンティーニャス)

●声がいい。目を開いて唄うところもいい。目を開くといろんなものが見えちゃうので、気の弱い僕やカマロンは、目を閉じたり下を向いたりして唄う。フェルナンダは目を開くが、ベルナンダはサングラスをかけていたりする。声を弱くするところで、コンパスもゆっくりしてしまうのは不可。メロディーを合わせようとして気をとられすぎるな。それは歌詞の発音が悪いから自然に出る狂いなので、もっと自信をもって正しい詞を言えたら、自然に治る。歌詞というのは、意味のある語りなのだ、と思い出してほしい。愛してます。ほら、ドキッとしたでしょ?歌詞ってそういうもんなんだよ、言葉だよ。[a'](堀越)
●声質は良いがやはり節回しのテクニックが足りない部分的に波こぶしもあったが全体的にもっとこぶしが必要。あと、いちばん高い音(シ)をドまで上げた方が低い節の部分がもっと良くなると思う。(小森)
●この人も作った「喉声」と感じてしまった。自分の歌を録音して、尊敬するスペインのカンタオーラとよく聴き比べてほしい。何よりも伝達力が全く違うはずだ。自分の声を「フラメンコ風」に作ることは、ナチュラルな美しさを捨ててしまうことだ。(中谷)
●音程よく、カンティーニャの"軽い"味わいをよく出していた。節のメリハリもかなり意識されていた。転調のある難しい部分で音程が不安定になったりしたが、全体的には安心して聴いていられた。(加部)

23.佐々木紀子 さん(アレグリアス)

23.佐々木紀子 さん(アレグリアス)

●日本の夏、吉例ササキノリコである。やっと太々しい声を出してくれた。力も入って、堂々としていた。余裕を感じさせてくれた。ただし、まだモダンな転調、ナウいメロディー、華麗に見てもらいたい技巧、などがチラチラ見える。お手本がモデルノ、なせいなのか、コラージュゆえなのか。もっとシンプルに、真ッすぐに。古いカンテを、そのまま、といっても貴女らしくなっちゃうんだから、ドカンと唄って欲しい。アレコレひねりを入れないとむこう受けしない、と思っているのは貴女の弱さです。本当は強いのに。[a°](堀越)
●声と唄のノリは良い。ただしこの唄には絶対に必要なこぶし(波こぶし)回しが行われてない。あと高い音程の部分が一部ずれた。ドの♯は確かに高い音程だが、しっかりと身につけて唄わなければならない。(小森)
●豊かな声量を披露したアレグリアス。その得意技のせいか、一本調子になるきらいがあった。新人公演のマイクは十分音を拾うので、囁くようにも唄ってほしい。つながり気味のレトラも、歯切れよくコンパスに乗せてほしい。(中谷)
●上手くなりましたね。佐々木さんのカンテは何度も聴いてきたけれど、今回が一番良かった。すでに風格さえも出てきている。飽くなき向上心でステップを上げた良い例だと思う。(加部)

24.大森暢子 さん(グラナイーナ)

24.大森暢子 さん(グラナイーナ)

●美しい声!美しい美しい。何と美しい声であろうか。感動した。途中音程が下りすぎたりもあったようだが。歌として美しい。それがカンテかどうか、とか、グラナイーナとしてどうか、とか、知ったかぶりの通は知らないくせに言うであろう。そういう人々は、いつも外側の形ばかり気にして文句を言うものだ。気にするな。本質の分らぬ人はそういうものである。マヌエル・アグヘタは都ハルミのファンである。本質だけを見るから天才なのだ。この人にはソレアやシギリージャも唄ってみて欲しい。但しやみくもにレパートリーを増やすことはない。フラメンコは、それで食べていくものではなく、それゆえに死ぬものだから。[a°](堀越)
●節回しOK。特に階段下り(半音下がりなど)もしっかり出来ている。テクニック的にはほぼ完璧だが、ただシンプルな感じの唄い方なので、それさえ直せたら良いカンテになると思う。ちなみにリブレ系に絶対に必要な節のしめ部分(こぶしでしめる)も出来てたみたいだ。(小森)
●リブレ(自由リズム)なカンテは難しい。滑り出しは順調だったが、徐々に音程の乱れが増え、冗長感が忍び込んできた。制限時間5分全部を使わなくてもいいかもしれない。盲目の唄い手、ニーニャ・デ・ラ・プエブラは3分40秒でも十分醍醐味を感じさせる。(中谷)
●サリーダから節回しを正確の辿ろうとしているところに好感を持った。時々音程が不安定になったのが残念だった。私の好みとしては、もう少しテンポアップして発声の強弱のメリハリを付けて欲しかった。(加部)

25.土井康子 さん(アレグリアス)

25.土井康子 さん(アレグリアス)

●太々しい声!いい。歌いたくて仕方ない、という、アフィシオンがあふれている。いかにも楽しそうだ。スペイン語のもつれがそのまま音程やリズムの狂いになっている。練習不足だ。ただし、スペイン語をよく知らないまま沢山練習すると、自分の癖をそのまま固めてしまうことになりかねない。どうしたら良いのでしょう?スペイン語をやるしかあるまい。庶民は常に本道をそれて脇道を探すが、二階から見たら一目瞭然だ。にしてもたのもしい声である。[a](堀越)
●迫力とノリに関しては問題ないが、音程にやや問題あり。特に音程の高い部分がズレている。そしてこの唄には特に絶対必要なこぶし回し部分がいっぱいあるのに、殆んど使われていない。あと節の階段下りにも、もう少し気を使ってほしい。ちなみに日本人としては少い投げ節が部分的にあったのはいい。(小森)
●曲によりこれほど変わるのか、と瞠目した氏のアレグリアス。去年のソレアでの消化不良分を吹き飛ばす熱演だった。音程の不安定さは若干気に掛かるが、それを帳消しにするパワーと、怒涛の勢いは頂点まで達したと思う。師匠のエンリケ氏の伴奏もノリに乗っていた。オレ!(中谷)
●ド迫力の声量!ペルラ・デ・カディスやカマロンのアレグリアが歌われた。ただ後半、声をマックスに張り上げたところで、音が届かなかったのが残念。しかし、説き伏せるような説得力があった。(加部)

26.齊藤綾子 さん(マラゲーニャ)

26.齊藤綾子 さん(マラゲーニャ)

●美しい声。マラゲーニャを唄いたい気持ち、分かります。別の言い方をすると、マラゲーニャに逃げ込んでる、とも言える。コンパスで文句はいわれないし、情緒も日本人的に理解しやすい。しかも美しい!もっとたたみかけるように唄うべき。美しい声に「居着いて」いる。「何事も居着くはわろし」と宮本武蔵の「五輪書」に描いてある。つまり、カンテに居着くとは、自分の声に聞き惚れがちに、その効果を確かめつつ、失敗のないのを確認しつつ唄うこと。どうなるか?遅れます。いくらマラゲーニャが自由コンパスだと言っても、遅れてはいけない。[a](堀越)
●節の流れはとても良い。特に音程の流れ、階段を半音使った上り下りもしっかりできている。あと、もう少し吹きこぶしを入れる、そして節の締め部分にすべてこぶしを入れることが大事。また声が綺麗っぽいのでもう少しハジけた声にした方がいいかも。(小森)
●この方も去年とは劇的に変わって驚かされた一人。一直線だった唄い口に陰影が差し、緩急がついたマラゲーニャは、後半に進むにつれてよくなっていく。伸びのある地声を、徐々に解放してゆくさまが見え、自身をコントロールする精神性に感銘を受けた。オレ!(中谷)
●音程良く、節回しもマラゲーニャの微妙な味わいを実に正確に出しているのに驚いた。しかし何か足りないものがある。発声か?そこをクリアできれば、ガラリと変わるのではないだろうか。(加部)

27.北脇英子 さん(アレグリアス)

27.北脇英子 さん(アレグリアス)

●サリーダのアイの狂いを、あえて直さずに出し切ったのがいい。気っぷの良さ。スペイン語のハ、の音で息をぬきすぎるな、休むな。正しくスペイン語を、口を開けて発音せねばならない。もっとシンプルにシンプルに、技巧を一切やめて、古風に!総じて皆さんは、お手本が新しすぎて、アクロバチックで失敗している。庶民は本質を避けるものだ。どうか本道を!ラストの声は伸ばしすぎ。この一点で、アレグリアスはイキさを失った。[a](堀越)
●日本人としてテクニックはかなり身についている。ただサリーダ部分、あと他の部分も一部音程がズレてたので冷静に対処すれば良くなるだろう。そしてやはり声がもう少しハジけた方がいいと思う。(小森)
●ビブラートをかける唄い方が頻出し、残念ながらそれが非常に聴きづらい。常に語尾が震えて伸びていくので、それに飲み込まれてほとんどレトラが聴き取れないのは、大きな問題だろう。声には芯が見えるので、それを生かしたい。(中谷)
●エストレージャ・モレンテのアレグリア。北脇さんはこの曲に何度か挑戦しているが、今回が一番良かった。音程の不安定さは時々あったが、勢いで歌い切って、全体が纏まっていた。アレグリアの華やかさが出ていた。(加部)

28.定直慎一郎 君(ソレア)

28.定直慎一郎 君(ソレア)

●声を持っている。ソレアを唄いたいんだなァ、という思いが伝わってくる。あとは何百回も唄うことだ。サリーダがへんだった。音程も怪しいが、それはスペイン語の怪しさとつながっているのかもしれない。日本語だって、例えば、わたし、というところ、わたーし、じゃ変だし、わーたし、でも変でしょ。[B](堀越)
●カンテとしての声はとてもいい。ノリ的にも問題はないが、やはりお腹をつかったこぶしが足りない。あと、節の階段上り下りにもう少し気を使ってほしい。高い音程に取り組んだことはとても良いことだけど、部分的に節が少しずれていた。テクニックをつければ良いカンタオールになるだろう。(小森)
●唄い込んだ分厚い声が大きな特徴。声量もある。風貌も独特で押し出しもいい。ソレアの粘りが唄い口と節回しに希薄な点が惜しい。短く、直線的なのである。タンゴやルンバ、アレグリアスといったパロの方が、声質に合う気がした。(中谷)
●フラメンコに向いた良い声の持ち主だ。定直君は今までギター部門でお馴染みだったが、ギターよりカンテのほうがいいと思う(失礼!)。まだまだ「のびしろ」が沢山ある。更なる精進を!(加部)

アクースティカ倶楽部

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アクースティカ倶楽部は、仲間とともにフラメンコの「楽しさ」を追求する、フラメンコ好きのためのコミュニティです。