フラメンコが生まれ育ったスペイン、アンダルシア地方の中でもセビージャ、グラナダと並んでカンテ、バイレ、ギター共に独特の味が際立つ土地、へレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)。そこで毎年2月後半から3月にかけて2週間にわたって開催されるフラメンコフェスティバルが今年も開幕しました。
公式プログラムだけで53公演。それと並行して43のバイレクラス、フラメンコセンターでのパルマクラスが開かれます。さらにはペーニャ(愛好家たちが運営するフラメンコの催しのできる会場)やバルなどでもコンサートが企画され、普段は静かなこの町も、この二週間は人とフラメンコで溢れています。(左写真:アントニオ・マレーナとマリア・デル・マール・モレノ)
"フラメンコフェスティバル"と名のつくものは、スペインをはじめ、世界各地で開催されている今日この頃ですが、やはりフラメンコの本場のひとつ、へレスに来たからには、思い切りフラメンコを感じさせてくれること、そしてここでしか味わえない地元のアーティストが地元で思い切り本領発揮してくれる公演が堪能できることを期待します。
まずそれを叶えてくれたのが、へレスのカンタオール、アントニオ・マレーナ(Antonio Malena)の公演「De la raiz」。地元のアーティスト16人が舞台に登場。たっぷりとへレスのカンテを聞かせてくれ、バイレには、アントニオのカンテを心から愛するバイラオーラ、マリア・デル・マール・モレノ(Maria del Mar Moreno)がゲスト出演しました。(写真左:マテオ・ソレア(Mateo Solea),ノノ・デ・ペリキン(Nono de Peliquin)、アントニオ・マレーナ、ドミンゴ・ルビチ(Domingo Rubichi))
その翌日は、地元へレスのギタリスト、ラモン・トゥルヒージョ(Ramon Trujillo)のコンサート。(右写真)渋く、力強いフラメンコギターの醍醐味を存分に味わえ、さらに以前ホアキン・コルテスの(Joaquin Cortes)舞踊団で歌っており、その後スペインの超人気歌手アレハンドロ・サンス(Alejandro Sanz)に抜擢され、ソロ歌手デビューしたコルドバ出身の歌手リア(Lya)がゲストに登場しました。
地元続きでは、前述の「De la raiz」に出演していたカンタオール、ダビ・カルピオ(David Carpio)のソロコンサートもありました。マイクなしの生音で聴けるアルカサルの中にある会場でのコンサートシリーズは、このフェスティバルのお楽しみの一つです。(写真左:ダビ・カルピオ、エル・チチャロ(El Chicharo)、カルロス・グリロ(Carlos Grilo)、マヌエル・バレンシア(Manuel Valencia))
セビージャのカンタオールで今年83歳になるマルケス"エル・サパテーロ"(Marquez el Zapatero)とモロン・デ・ラ・フロンテーラのアントニオ・ルイス"エル・カルピンテーロ"(Antonio Ruiz El Carpintero)の大ベテランの二人が同時に舞台に上がり、交互に歌っていく対話形式のコンサートもありました。スペイン語に覚えのある方はお気づきかもしれませんが、この二人の芸名は"靴職人"と"大工"。生活の中から生まれたカンテフラメンコの歌手らしいネーミングです。サパテーロより18歳年下のカルピンテーロが「私が先に歌うよ。まー、私の方がちょっと若いんでね...」と始め、「今日はちょっと風邪気味で、調子がいまいちなんだ」と言っていたサパテーロも曲を追うごとに調子回復。最後は自らしきって、立ち上がってのカンテの掛け合い。カンテの原点を見るようでした。(写真左からマルケス"エル・サパテーロ"、ダニ・メンデス(Dani Mendez)、アントニオ・ルイス"エル・カルピンテーロ")
ランカピーノ・チコ(Rancapino Chico)も、父、ランカピーノが客席から見守る中、ソロコンサートで熱唱。面立ちがうっすらとお父様似です。
大劇場のビジャマルタ劇場では、フェスティバル3日目のアンダルシア舞踊団のバイラオーラ、パトリシア・ゲレーロ(Patricia Guerrero)がビエナルに引き続き、精彩を放っていました。グラナダ出身の彼女が踊るタンゴにはグラナダのタンゴならでは重みとセクシーさが感じられ、23歳という若さながら、きっちりと伝統を受け継ぐ踊りっぷりは見事なものでした。
27日のイザベル・バジョン(Isabel Bayon)の公演では、ギターにヘスス・トーレス(Jesus Torres)、ファルーコファミリーが絶大な信頼を寄せるフアン・レケーナ(Juan Requena)。パーカッションはマヌエラ・カラスコの弟のホセ・カラスコ(Jose Carrasco)。カンテには地元へレスのダビ・ラゴス(David Lagos)とロンドロ(Londro)でバックをきっちりと固め、どの曲種も直球勝負で踊ってくれました。グアヒーラ(キューバ起源の曲種)を踊る場面では、モテモテのいい女がバックのミュージシャン一人一人を袖にしていき、最後、夫君のヘススにたどり着いたところで「OK!」なキスをするという愛嬌のある演出もちらり。あれこれ考えずシンプルに音楽とバイレを楽しめる一夜となりました。
さてこれから中盤戦。
フラメンコな夜がさらに繰り広げられることに期待!です。
(写真左:ロンドロ、ホセ・カラスコ、ヘスス・トーレス、フアン・レケーナ、ダビ・ラゴスに囲まれて踊るイサベル・バジョン)
パソコン環境上、スペイン語表記の箇所で適切なアクセント記号が表示されておりません。ご了承ください。
Fotos: Festival de Jerez/Javier Fergo