セビージャのフラメンコフェスティバル、通称ビエナルの姉妹フェスティバル「Septiembre es Flamenco」の公演からご紹介しています。このフェスティバル、巷では「ビエナリータ」という愛称で呼ぶ人もいます。「ータ(ita)」「ート(ito)」というのはスペイン語で使う「縮小辞」のひとつ。南米では、特によく使われます。例えば、ビールなどを「ちょっと一杯」というのを「ウナ コピータ(Una copita)」などと言いますが、ウナは数字の1、コピータはコパ(copa)の縮小辞。サッカーの大会で、コパ・アメリカというのがありますね。あの"コパ"=カップという意味です。(右写真はロペ・デ・ベガ劇場の内部)
さて、その"ビエナリータ"のオープニング公演は、昨年のヒラルディージョ賞の受賞者によるガラ公演(特別公演)、その名も「ガラ・ヒラルディージョ(Gala Giraldillo)」。会場のロペ・デ・ベガ劇場は当然のごとく満席。20時半の開演時間から15分近く遅れてのスタートとなりました。
幕開けは、最優秀作品賞のアンダルシア舞踊団(Giraldillo al Mejor Espectaculo: Imagenes del Ballet Flamenco de Andalucia)の「イマヘネエス(Imagenes)」のオープニングの場面でした。舞踊団の初代監督だったマリオ・マジャへのオマージュを込めた椅子を使ってのパフォーマンス。現在の監督でもあるラファエラ・カラスコはじめ、来日間近の面々がサパテアード、パルア、そして体の動きでリズムを刻んでいきます。最後はカンテとパルマだけに合わせてのラファエラのソロ。伴奏がなくても確実の音楽を感じられる完成されたバイレです。
続いてギター部門の受賞者ミゲル・アンテス・コルテス(Giraldillo al Toque: Miguel Angel Cortes)のギターソロ。グラナダ出身ならでは力強いタッチに加え、繊細なファルセータを奏で、カルメン・リナーレス(Carmen Linares)やアルカンヘル(Arcangel)ら、歌手たちから伴奏にも引く手あまたです。ソロの後、劇場のバルコニーからカンタオーラのエスペランサ・フェルナンデス(Esperanza Fernandez)の歌が加わりました。
続いて、昨年のビエナルでミゲル・アンヘル・コルテスとデュオコンサートをしたギタリストのホセ・マリア・ガジャルド(Jose Maria Galardo del Rey)が舞台上に登場。ちなみに、前出のエスペランサもこのコンサートに出演していました。舞台にはこの二人のギタリストと並んでもう一脚椅子配され、その上にはギターのみが置かれていました。これが、関係者が仕込んでいたサプライズだったようです。二人が演奏し始めた曲は「アマルグーラス(Amarguras)」。この曲については昨年の記事で取り上げております。こちらをどうぞ
マエストロ賞を受賞したラファエル・リケーニ(Giraldillo a la Maestria: Rafael Riqueni)が、ギター演奏のための編曲をした曲です。ちなみに、ホセ・マリア・ガジャルドとラファエル・リケーニは、共に「セビージャ組曲(Suite Sevilla,1993)」をリリースした間柄。死や苦しみがテーマの曲ですが、2台のギターから紡ぎ出される音色はなんとも美しいものでした。弾き終わると、二人は抱き合い、頬にキスをします。これは、親しい間からでの"挨拶"なのですが、通常、男性同士は背中をポンポンと叩き合ったり、ハグします。しかし、アンダルシアは男同士でも頬にキスする感じの挨拶を交わす人が結構います。そして、傍に置いてあるギターに向かって、丁寧に挨拶。ラファエル本人は出演することができなくても、彼の存在を感じさせるもの、彼の音は当日舞台上にある、という意図の演出はこれだったようです。
ヒラルディージョのセビージャ賞(Giraldillo Ciudad de Sevilla)を受賞したのは、二人のカンタオール。故エンリケ・モレンテとフアン・ペーニャ・"エル・レブリハーノ"( Enrique Morente y Juan Pena El Lebrijano)。舞台には、亡きエンリケ・モレンテに代わり、娘のソレア・モレンテ(Solea Morente)が上がり、親子以上に歳の離れた大御所レブリハーノと共演。父の代表曲をデュエットしました。(映像はこちら)続く、レブリハーノのソロでは歌い終わった後に、涙ぐんでいた姿が印象的でした。新人賞のギタリスト、マヌエル・バレンシア(Giraldillo Revelacion: Manuel Valencia)は、レブリハーノに一曲伴奏。その後、素晴らしいソロを聴かせてくれました。
長年、ヘレスのカンタオール達の伴奏を担当してきたマヌエル・バレンシア。フラメンコの基本であるカンテを知り尽くしています。たたみかけるように次々と繰り出される卓越したテクニック。クリアなラスゲアード(ギター伴奏のテクニックのひとつ)。しかしそれだけではフラメンコギターではないのです。フラメンコの真髄への造詣深さがあってこそ、フラメンコならではの感情ののったギターを奏でられるのです。古典に忠実でありながら、持ち前のテクニックを嫌味なく活かす演奏は、老練なファンをもうならせるほど。今後、ソリストとしても聴き続けていきたい、楽しみなギタリストです。
マヌエル・バレンシアの演奏の三曲目が始まると、カンテ賞のアントニオ・レジェス(Giraldillo al Cante: Antonio Reyes)が登場。マヌエルはヘレス・デ・フロンテーラ、アントニオはチクラナ・デ・ラ・フロンテーラ、共に同じカディス県の出身です。地元愛の非常に強いセビージャからすると、"アウェイ"のアーティスト達ですが、アンダルシアというくくりで見ると同郷。受賞者を見直すと、すべてアンダルシア出身。やはりフラメンコのメッカはアンダルシアと言っていいのかもしれませんね。
最後はバイレ賞のファルキート(Giraldillo al Baile: Farruquito)。客席中央の通路から静かに歩いての登場。その一歩一歩が既にソレア(曲種名)を踊っています。祖父であり、セビージャのフラメンコバイレの歴史を作った一人、故ファルーコのダイナミズムを受け継いだ部分と現代を生きるファルキート自身のバイレをどう繋げていくか、アーティストとして"闘い"はずっと続いてきたことでしょう。ファルーコファミリーの三人兄弟の長男であるファルキートは当然、祖父と過ごした時間も一番長かったはず。ファミリアの家長として、地元セビージャでどんなバイレを見せてくれるか、人々の期待も大きかったかと思います。それに応えるべく、力強くもエレガントな踊りを披露してくれました。
最後は、出演者全員が舞台上に上がり、フィン・デ・フィエスタ(=Fin de Fiesta:最後に繰り広げられるお祭りのような場面)。レブリハーノの歌でファルキートが、エスペランサの歌でラファエラ・カラスコがブレリア(曲種名)を踊り、約2時間の公演は幕を閉じました。
初日の発表会見からのダイジェスト版の映像がこちらにあります。
FOTO: ANTONIO ACEDO LA BIENAL / MAKIKO SAKAKURA