ruedaultimo.jpg今年のフェスティバル期間は、特に風邪が大流行。日本でも同じ時期、インフルエンザが猛威を振るっていたようですね。マスクをするとか、咳やくしゃみの時にハンカチで口元を押さえるというのが励行されているのは日本だけ。劇場内でも容赦なく大きな音で咳が飛び交っていました。気温の急に下がった夜もあり、免疫力の低下の隙をつかれたか、私も不覚にも大風邪。夜になると高熱が出るし、喉もやられて声も出なくなり、残念ながらフェスティバル後半は厳しいものとなりました。公演記事にも着手できなかったので、これから徐々に振り返りながらピックアップして掲載していきたいと思っています。

今年のフェスティバルの統計報告によりますと、フェスティバルが主催したアクティビティー数は176(公演やクラス、展示会など)で、参加者は37,900人とのこと。それぞれのイベントは平均して95%の客足をとったようです。
前半、後半に分かれて6カ所のスタジオで行われた、アーティストたちによるクラスは、全部で43クラス。のべ1,026人、45ヶ国からの参加があり、割合のトップは、日本の12.48%。続いて、カナダ9.65%、フランス8.28%、ドイツ7.89%、アメリカ7.22%。ご当地のスペインは、9位で4.29%なので、いかに海外からの参加者が多いかがうかがえます。記者会見では、市長のマメン・サンチェス氏が「世界中の人たちが、休暇をやりくりして、この15日間ここにフラメンコを学びに来てくれ、そして、学んだことを自国に帰って教えてくれるのは、喜ばしい。」として、「これはただのフェスティバルではなく、文化を体験する機会になってきた。」とおっしゃっていました。(写真上:フェスティバルの最終報告記者会見の様子。中央がヘレス市長)

では、遅れを取り戻すべく、大劇場ビジャマルタの公演から振り返っていきます。
JAVIERFERGO_VOCES_01_copy.jpgサラ・バラス公演は、9月に日本でも公演された「ボセス(Voces)」。前回記事はこちら。今回は日本公演版と違って、サックス奏者とのコラボがなかったのですが、2時間を超える公演。サラは、ヘレスと同じ県内のカディスのサンフェルナンド市出身。地元で母、コンチャのアカデミアで踊り始め、ヘレスのマヌエル・モラオ(Manuel Morao)のカンパニーにもいたので、ヘレスも地元のようなもの。公演の最後には、マヌエル・モラオへの謝辞を述べていたそうです。公演の映像はこちら

JAVIERFERGO_REVERSIBLE_01_copy.jpg今、男性中堅どころで一番のっているように思われるマヌエル・リニャン(Manuel Linan)の公演「レベルシブレ(Reversible)」=リバーシブル。と言うと、表裏両方使えるものというイメージがありますが、ここでは「以前の状態に戻せる」つまり、リバース可能という意味です。そして、以前の状態とは、子どもの頃のこと。ニーチェの格言にある「真の男のなかには
ひとりの子供が隠れている。この子供が遊びたがるのだ。」がテーマ。時間を遡って子ども時代に戻って、その時、したかった遊び、その頃の衝動を思い出して作られたそうです。

JAVIERFERGO_REVERSIBLE_04_copy.jpgオープニングから、今やマヌエルの十八番となったバタ・デ・コラ(裾の長いスカート)とマントンでのバイレに、会場は大いに盛り上がり、好スタートを切りました。バイラオール、ホセ・マルドナード(Jose Maldonado)との息の合ったロープを使ったバイレ、ミラブラス?カンティーニャス?アレグリアス(長調の明るい曲種)の場面では、バイラオーラのルシア・アルバレス"ラ・ピニョーナ"(Lucia Alvares La Pinona)とのペアでのバイレ。二人の間にバイラオールのエル・トロンボ(El Trombo)も入り、子どものように赤い花を取り合いっこ。(カーネーションのように見えましたが、バラだったのかも)。そして、途中から二人の服装が入れ替わって登場という趣向もあり、どの場面にも、"真の男"の遊び心が垣間見えました。最後は、マヌエルがソレア(曲種名)を最初に登場した時と同じ、黒のバタとマントンで踊って締めくくりました。スピード感もあり、テンポよい展開の公演。映像はこちら

JAVIERFERGO_MENDEZ_01_copy.jpgこういう作品のあとは、エネルギーが充電されて、次の真夜中12時からのコンサートに行く足取りも軽くなります。
数年前までは定番だった、ボデガ・ゴンザレス・ビアスのシェリー酒樽の香り漂う会場での、真夜中のコンサートが今年は復活しました。ただ、以前はあったベネンシアドール(シェリー酒を樽から注ぐ技術者)による、シェリー酒サービスがなくなっていたのは、昔を知る者としてはやや寂しい感はありました。その分、飲み物や食べ物を買えるバーカウンターは広くなり、日本と比べるとかなりリーズナブルなお値段でワインや生ハムを楽しみながら、コンサートが聴ける会場です。

ここでは、今年は男性カンタオール3人がソロ・コンサートを行いました。
最初は、ヘスス・メンデス(Jesus Mendez)。ヘレスの素晴らしいギタリスト、マヌエル・パリージャ(Manuel Parilla)とマヌエル・バレンシア(Manuel Valencia)を従えての公演。映像はこちらをクリック!(写真上は、ヘススとマヌエル・パリージャ)

JAVIERFERGO_VALENCIA_01.jpg次が、マヌエル・リニャン公演と同じ夜のホセ・バレンシア(Jose Valencia)のコンサートです。「21世紀のカンタオールは、ただバックで歌うだけではなくて、舞台で重要な役割を果たすようになってきた」と言うホセ。ロルカ戯曲で役を演じながらの歌唱をした「アレルヤ・エロティカ」、エバ・ジェルバブエナの舞台では一対一の場面も多く、芸達者で非常に存在感のあるカンタオールです。記者会見では「音楽を聴くときに、あれこれ自問する必要はない。感じるままに聴けば良い」と。というわけで、この日は極力メモをとらないようにして、じっくりと迫力のカンテに聴き入りました。

JAVIERFERGO_VALENCIA_03.jpg昨年リリースしたアルバム「ディレクト(Directo)」と同様、プレゴン(Pregon)でスタート。プレゴンとは、もともと物売りが大勢の人に聞こえるように大声で商品の宣伝口上をすることです。それがいつしか歌のようになっていきました。なので、もちろん無伴奏、アカペラとなります。そのほかにも、イベント開催の挨拶のこともプレゴンというので、コンサートオープニングにはぴったりなのかも。このスタイルで始めるカンテコンサートは結構あります。ギターには、アルバムのライブ収録時と同じく、フアン・レケーナ(Juan Requena)とマヌエル・パリージャ(Manuel Parilla)。映像はこちら

JAVIERFERGO_REYES_02_copy.jpgボデガでのコンサートの最後は、アントニオ・レジェス(Antonio Reyes)。ヘレスにほど近いチクラナ・デ・ラ・フロンテーラ出身。往年の名カンタオール、ハリート(Jarrito)やパンセキート(Pansequito)というカンタオールのファミリアに生まれました。前述のホセ・バレンシアが2012年のビエナル(2年に1回セビージャで行われる最大のフラメンコフェスティバル)のカンテ・ヒラルディージョ賞でしたが、アントニオ・レジェスが次の回、2014年に同賞を受賞しています。コンサートは、昨年ライブ録音をリリースしたアルバム「ディレクト・エン・エル・シルクロ・フラメンコ・デ・マドリード(Directo en el circulo flamenco de Madrid)」の全曲を披露。これも奇しくもホセ・バレンシアと同じでした。ギターは、地元ヘレスのディエゴ・デル・モラオ(Diego del Morao)。トラディショナルな歌詞のソレアに始まり、アレグリアスへと続きます。これもトラディショナルで多くのカンタオールが歌っている歌詞。同じ歌詞でも歌う人によって、微妙に表現や吸引力が違うので、聴き比べるのも面白いものです。全体としてガンガン飛ばすのではなく、緩やかでしっとりと"聴くカンテ"を楽しめました。映像はこちら

写真:ハビエル・フェルゴc Festival de Jerez/Javier Fergo
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