男女のデュオグループと言うと、洋楽では兄妹のカーペンターズ、邦楽では夫婦のチェリッシュやヒデとロザンナ。最近ではどうでしょう?男女混合の複数名のグループやスペシャルコラボ的なデュオはあっても、男女二人だけのデュオというと何が浮かびますか?
フラメンコ界で男女デュオ、と言えば、ローレ・イ・マヌエル(Lole Y Manuel)。フラメンコファンなら、誰もが知っているこの二人。可愛らしいルックスと独特な甘い声のローレ・モントージャと吟遊詩人的なヒターノのマヌエル・モリーナの語るようなギター。ローレ・イ・マヌエルの歌った曲の数々は、分かりやすい歌詞とメロディーラインが印象的で「新しいフラメンコ」としても注目を浴び、フラメンコ以外の歌手がカバーしたり、今でも歌われているヒット曲が数多く、フラメンコ界だけでなく、スペインでも広く知られる伝説的なデュオです。
二人は元夫婦。二人の間に生まれた娘さん、アルバ・モリーナはソロ歌手として活躍中です。二人は1972年から離婚する1993年までの21年間、ローレ・イ・マヌエルとして活動。その後は別々にアーティストとして活動を続けましたが、2015年にマヌエルは死去。離婚のダメージに加え、死という永遠の別れがあまりにも早くやってきてしまい。その後はローレにとって辛い日々が続いていたようです。
2年前のフラメンコ・オン・ファイヤーでは、娘のアルバ・モリーナが両親のレパートリーを歌うコンサートがありました。(過去記事はこちら)父が亡くなった翌年ということもあって、丁寧に歌い上げた感動的なコンサートで、公演後に想いが募り涙ぐむ場面があったことを今でも鮮明に覚えています。
そのレパートリーを、今年はローレの歌声で聴けるということで、あの独特の声を楽しみに、往年のローレ・イ・マヌエルファンで会場は満席。思わず一緒に口ずさむ人から、さすがのスペイン人も黙っていられないほどの大はしゃぎをするお客さんまでいて、客席ではちょっとヒヤッとする場面もありました。
コンサートのタイトルは「Recuerdos」= "想い出"の複数形。たくさんあるレパートリーの中から選んだ曲で、「お客さんが「あ、この歌覚えてる。」と思ってくれると嬉しいし、自分にとっても想い出のある曲ばかり。歌って当時を思い出したいわ」ということでつけたタイトル。自分の得意なアラブ語の歌もまじえて、フアン・カルモナ(Juan Carmona)とマヌエル・デ・ラ・ルスのギターとパコ・ベガ(Paco Vega)のパーカッションで。
コンサートのスタートは「Dime」から。代表曲の一つだけに、会場からは早くもどよめきが。続いて「Primero El Hombre Poeta」と、マヌエル・デ・ラ・ルスのギターで歌い続けました。6曲目は、大ヒット曲の「Todo es de color」。下記の映像は以前、マヌエルと歌っていた頃のものです。
そして、カルロス・サウラの映画「フラメンコ」の中でも歌っていた「Erase Una Mariposa Blanca」をフアン・カルモナのギターで。さらに「Nuevo dia」「Romero verde」とブレリアが続いてフィナーレ。アンコールでは、神様の存在を歌った「Tu presencia」を。
フラメンコのカンテ(歌)のコンサートでは、普通「ブレリアを歌います」とか「次はアレグリアス」というように、曲名ではなく曲種で言います。そして、歌詞や伴奏はその時の気分やギタリストによって即興の部分が多いものです。しかし、ローレ・イ・マヌエルの曲は、それぞれの曲にタイトルがあり、歌詞も決まっているので、曲名での紹介となるわけです。そして、聞く方も覚えやすいと思います。
記者会見の時の明るい表情とは違って、少し不安げな感じでのスタートでしたが、力強く語りかけるような歌声は健在。それぞれの曲と出会った当時のことを思い出した聴衆が多かったことでしょう。コンサートの様子はこちらから。
恐らく一般的にイメージされている「フラメンコ」とは違う感じがするかもしれませんが、それぞれの曲はフラメンコの曲種、そしてコンパス(フラメンコ独特のリズムとアクセント)に乗っているもの。何より、マヌエルのギターの音色は、ヒターノのそれそのもの。
スペインの人気歌手、アレハンドロ・サンスもカバーしていますので、まずはそこから入ってみるという手もあるかもしれません。Youtube映像はこちらから。
写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FLAMENCO ON FIRE
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