ヘレスの自宅の本棚には
フラメンコ雑誌『パセオフラメンコ』のバックナンバーが
ずらっと並んでいる。
26歳で留学してからの数年間、
ハポネサ(日本人女性)留学記
『今日も元気にフラメンコ』
という連載を書かせてもらっていた。
そのバックナンバーを手にとって読んでみる。
うわっ、懐かしい。
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繰り返すが、
当時はインターネットが
まだ普及していなかったので、
400字詰め原稿用紙に書き
郵送で日本へ送っていた時代だ。
あの頃のことを今思い出して書くよりも
この記事を書き写した方が臨場感があるので
そのまま載せることにする。
以下、
1996年4月号より
第一回『スペインへ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3年前からフラメンコ長期留学を考え続けていた。
そして、ついにその時が迫る。
スペイン出発2週間前。
当日までにやることは山ほどある。
大使館でビザを申請、
滞在費用送金のために新しく銀行に口座を開く、
親しい友人たちに、手紙や電話。
試験前のような心境で、
慌ててスペイン語の教科書を握り直す。
今更詰め込んだってたかが知れていることは、
学生時代に何度も経験しているはずなのに。
日本食を買いあさる。
干ししいたけ、ゆであずき、きな粉、昆布、山椒、白玉粉、など。
(白玉団子なんて、日本でも年に一度も食べないぞ!)
だって、
もしかして必要になるかもしれないから・・・・・。
そして、
その『かも』が大量の荷物となった。
ダンボール3箱(日本食材と日本語の本)を、
SAL便で送るために郵便局へ。
「全部で40キログラム。4万6千円です」
「そ、そんなにするのお!」
あっちで買った方が安いかもと躊躇する。
しかし、郵便局が閉まるまであと30分。
今日送らなければ、もう送れない。
「えーい、送っちゃえ!」
出発前々日、
父と妹、家族3人で草津温泉へ1泊旅行。
父と旅行なんて久しぶり。
温泉に入れてよかったが
実は改めてする話もない。
夜、ホテルのテレビで映画『ボディーガード』を
3人とも無言で見た後にすぐ寝た。
父には以前、
私の留学の決意を語る長い長い手紙を書いている。
だからお互いにその夜に話すことは特にない。
ただ草津に行って泊まった
というだけの家族旅行だった。
出発前夜はほとんど徹夜。
すでに持ち物は揃っている。
なのに、
何かが足りない気がしてスーツケースにしまい込めず、
散らかしたまま。
「そうだ!爪切りも持って行こう」
・・・・・バカ。
明け方、やっと蓋を閉じて
ケースを持ち上げてみる。
重い。
ちょっと重量オーバーかな?
出発当日の朝、
妹が会社を休んで送ってくれる。感謝。
受付カウンターで
「スーツケース32キログラム。
12キロオーバーですので追加料金がかかりますけど?」
ああ、やっぱり。
ケースの中にはぎゅうぎゅうに詰めた服の間に
みりんの瓶が埋まっている。
取り出す?
ケース広げる?
空港で?
恥ずかしい・・・・。
できない。
だから仕方なくこう言った。
「払います」
結局7キログラムおまけしてもらい
5キロオーバーで2万3千円の出費。
何のために500円でも安い航空券をと
探し回ったのだろうか。
送料だけでSAL便と合わせて6万9千円。
私の航空券は9万円なり・・・・。
そして、出国直前。
たった一人の(表現が大袈裟になる)
妹と別れる時間が来た。
ムードに流されやすい私は
3秒で涙ボロボロになってしまった。
この先、不安なものだから止まらない。
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ついに、
スペインへ飛び立つ。
昨日の徹夜のおかげでよく眠れる。
機内食にも気付かず眠る。
だから、14時間はあっという間だった。
夜の9時マドリッド着。
機内でさんざん寝たので元気元気。
宿に荷物を置いただけで、
さっそく夜中にお出かけ。
カンタオール、ランカピーノを聴きに行く。
でも、はりきって行ったわりには、
12時過ぎると時差ぼけに襲われた。
夢遊病者のようになって宿に戻った。
その晩は、
ぐっすりと寝て朝の6時に目覚めた。
そして、やっと気付いた。
ここはもうスペインだ!
まあ、落ち着け、
とりあえず朝食にパンでも買おう。
ん?ちょっと待て、
そうだパン屋もスペイン人じゃないか!
頭の中はこれからの生活への不安だらけ。
とまどい、迷いで飽和状態。
一人暮らしの経験もない私は、
家を出たというだけで完璧なホームシック。
食べたいパン一つ買うことにさえ動揺している。
こんな状態で、
はたしてフラメンコに集中する
こころの余裕ができるのか。
ああ、
めんたいこが食べたい・・・・・。

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
先行きが見えない...
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