今、セビージャで開催中のフラメンコ最大のフェスティバル「ビエナル」に
小島章司フラメンコ舞踊団の「セレスティーナ」が参加する。
一昨日(9月25日)、一行はセビージャへと旅立ったのだが、その2日前の23日、
新宿村スタジオで行われていたエンサージョを見に行った。
「ラ・セレスティーナ」はハビエル・ラトーレの演出・振付。
小島さん以外の主要なキャストはほとんどスペイン人の踊り手を起用。
ミュージシャンも全員スペイン人なので総勢10数名のスペイン人・アルティスタが出演している。
彼らは全員15日から来日し、ビエナル直前のエンサージョが日本で行われていた。
この作品、初演以来今度で4回目の再演となる。
国内公演が2回、昨年のフェスティバル・デ・ヘレスでも上演され、そして今回のビエナルだ。
小島さんは、4回目の上演を前に総勢十数名のスペイン人を日本に呼び寄せ、
10日間に渡るエンサージョを行ったのだ。
いつものことながら、舞台に向けられる小島さんの甚大な取り組みには頭が下がる。
一体どれほどの時間と経済とエネルギーがこの作品に注ぎ込まれてきたことか。
そうした努力と上演を繰り返していくことで、作品は成長していく。
ほとんどの公演が一度の上演で終わってしまう日本のフラメンコの舞台では、
4度再演というのは希少なことだ。
しかも再演の度に初演に取り組むかのようなエンサージョが行われるのだ。
それが、フラメンコに、舞台に人生のすべてをささげてきた小島章司の変わらぬ姿勢だ。
上演を重ねることの成果は、舞踊団員たちの成長ぶりに何よりも現れていた。
前回(国内の再演時)観た時よりも、皆格段に上手くなっているのだ。
役柄の個性と団員一人一人の個性があいまって踊っている。
フェスティバル・デ・ヘレスへの出演という大きな挑戦が、彼女(彼)たちの血となり肉となったのだろうか。
これまでの彼女たちの集中力とはまったく違う次元で踊っているのがひしひしと伝わってきた。
「ラ・セレスティーナ」のような創作作品では、フラメンコを踊るだけではなく、役柄を演じることも求められるが、そこに素人臭さがまったくなくなっていた。
こうした舞踊団員たちのレベルアップが、作品の完成度に大きく貢献していることはいうまでもない。
通し稽古をディレクイター席からずっと見ていたハビエルは、
最終チェックに余念がなかったが、
着実に作品力がアップしていることを誰より実感しているに違いない。
終始、満足げな笑顔がそこにはあった。
この日は2回の通し稽古が行われたが、
通し稽古の途中、壁一面の鏡をおおっていたほんの2、3センチのカーテンのすき間が気になった小島さんは、
すかさず弟子にそれを直させた。
作品の完成度を追求する小島さんの徹底した美意識を垣間見た瞬間だった。
小島さんは、いつもと変らぬ独特のたおやかなたたずまいで臨んでおられたが、
ひとたび踊り出すとそのテンションは一気に火の玉になる。
70歳を過ぎてなお、
踊り手としての旬を舞い続ける小島さんは、ある意味化け者だ。
もうずいぶん前、「小島章司には哀しみがよく似合う」と、どこかで書いたことがったが、
それは、決して満たされることのない欠乏感が彼を支配していたからだと思う。
だが、ここ数年の小島さんは、
少なくとも舞台ではない日常の小島さんは、とても幸せそうに見える。
一つの道を追求し、まい進してきた者だけに与えられる充足感の中に今小島さんはいるのだと思う。ようやく、ほんとうにようやくそういう境地にたどり着いたのだと思う。
そうした小島さんの心境の変化が、これからの彼の踊りにどんな変化をもたらすのか、
そこにこそ、私の関心はある。
さて、ビエナル本番は9月28 日。会場はマエストラサの大劇場。
帰国されたら、久しぶりに小島さんとゆっくり話をしたいと思っている。