11月20日、スペイン国立バレエ団全国ツアーの最後を飾るオーチャードでの公演を見た。
この日上演された「アレント」と「サグアン」の2作品。どちらも日本初演の新作で、今回の公演の目玉と言える演目だ。
中でも「アレント」は、バレエ団の芸術監督アントニオ・ナハーロ自身が振り行けたもので、
一昨年の来日公演でその手腕を見せつけたアントニオ・ナハーロ芸術監督のその真価を確かめたいと、私は期待を膨らませ狙いを定めていた。
そして迎えた昨日、「アレント」は、予想をはるかに超える傑作だった。
ナハーロは、この作品でスペイン舞踊の新たなページを切り開いたといっても過言ではないだろう。


FullSizeRender (6).jpgまずは、オープニング、
天井に大きな布を飾り付けた装置の中、
一糸乱れぬダンサーたちのスタイリッシュな動きで、
ステージは一瞬にして「アレント」の世界へ。
6つのシーンそれぞれに、
観客の注意をひきつける美術、衣装、小道具。
照明がさらにそれらを際立たせ、
鍛え抜かれたダンサーたちの肉体が
この上なく美しく、そして奔放に舞う。
そこに映し出された世界は、まさに究極の美だ。
なんて美しいのだろう......。
ただそれだけで、涙が止まらない。
見る者を恍惚の世界へと導く完成度の高さ。
だが、
その完成度の奥にある内実の豊かさが、
この作品の意味を、私にしっかりと伝えてくれた。
まず特筆すべきことは、音楽のすばらしさだ。
長い間ナハーロと組んで仕事をしている作曲家のフェルナンド・エゴスクエのオリジナル曲は、
現代的で洗練された楽曲でありながら品格があり、
美しいメロディと際立つリズムを兼ね備ええた
クラシコの美的世界にとてもマッチした楽曲になっている。
クラシコはここ何十年か永い眠りについていた。
名作の再演以外に、際立ったものがなかったのだ。
その大きな原因は、音楽の不在にあるといっていいだろう。
スペイン色の強いクラシック曲で踊られるクラシコだが、
その手の音楽の進化がまったくといてよいほど見られなかった。
時に、ジャズやポップスに乗せて踊るというような試みもあったが、
ユニークではあっても、クラシコのために作られたものでない曲を多少アレンjして持ってきた程度では、おのずとその限界があった。
さらに、踊り手たちの描く洗練されたライン、斬新な動きの数々。
クラシコの技術をしっかりと継承しながら、そこには現在進行形のダンスがある。
コンテンポラリーダンスやストリートダンスなど他ジャンルダンスの影響を受けた動きもたくさん組み込まれていたが、その一方でスペイン舞踊自体の変革も大胆に行われている。
こんなパリージョの使い方があったのか!
それはまるでパリージョ自体が踊り手の体の一部となって舞っているようだった。
ナハーロは、インタビューでもクラシコという言葉を使わず、ダンサ・エスティリサーダという単語を用いていた。
その深い意味が、「アレント」を観てストンと腑に落ちた。
彼の創作のイメージは、もはやクラシコ=古典というカテゴリーには収まらないのだ。
そこには、現代の命が吹き込まれているのだから。
クラシコは、クラシコでありながら、今生きるダンスとなったのだ。
ナハーロのこの仕事によって
スペイン舞踊の可能性はドラスティックに拡大した。
スペイン舞踊は、きっとこれから、再びファンを増やしていくことだろう。
そして、ナハーロは間違いなくスペイン舞踊にその名を刻むアルティスタになるだろう。
※この公演は22日まで上演
公演の詳細情報はこちら。
〔お詫びと訂正〕
11月24 日に記事をアップした時点で以下の誤りがありました。
25日、以下のとおり訂正いたしました。大変失礼いたしました。
①第1段落5行目  「昨年」→「一昨年」
②第7段落2行目
「前作『アレント』の作曲者でもある」→「長い間ナハーロと組んで仕事をしている作曲家の」
③最後から2段落1行目
「ダンサ・エスパニュ」→「ダンサ・エスティリサーダ」

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