11年間続けてきた新人公演応援団合評、既にお伝えした通り、昨年をもって終了することになりましたが、アドくいただいていた読者の皆さんから、たくさんのご意見、激励のメッセージをいただきました。
反響の大きいコンテンツであったことは自覚しておりましたが、改めて、多くの皆さまから支持いただていた企画であったことを、今なおかみしめる日々です。
そんな中、新人公演応援団應援團團インのお一人である堀越千秋さんから、カンテ部門の講評が届きましたので、ここで発表させていただきます。


「2016年度新人公演のカンテについて   堀越千秋 」

アクースティカ名物の応援団が終了してしまったので、かつての余韻で、僕の勝手な放言を書いてみた。
カンテはフラメンコの本質であり、中核である。カンテを好み、愛し、そして遂に自ら歌っちゃう、という人々は、それだけでもうフラメンコの中核に届いているのである。 
踊りの方々がカンテに通じていない、ろくに聴いていないとういう昔からの傾向はますます強まっている。彼女らは、それを指摘されてさえなお目は空中を右往左往するばかりで、一向にカンテを謙虚に聞こうとはしない。何故なのか? 憲法無視で日本国を誤まろうとする安倍の、その出鱈目な気風を受け継いでいるとしか思われない。安倍はフラメンコをさえ誤らんとしている。
さて、カンテを愛好する人々は、頭が良い。趣味が良い。声を力強く出そうとする点において、まず清廉潔白である。率直である。他人の悪口を言う暇がない。悪口を言った後に声を出せば一聴歴然、全ては赤っ恥の天ツバである。カンテは難しいのである。踊りはまだ形だけでもバレエの上手い人などは一応それらしく見せることも、まあ、出来る。しかし唄は"0.1秒もダマセません"  そういうものを、恥をしのんで千人余の大聴衆を相手にして、数分間口を開いてノドチンコから内臓を御開陳するというのだから、こんなストリップは全世界にありません。その勇気をまず讃えたい。
各講評の最後に記したマークは、僕なりの総合的評価。ABCの順です。小文字は大文字に満たない。それぞれに丸、なし、ダッシュ、の順です。
1.斉藤綾子 マラゲーニャ
良い声だ。しかし各節のおしまいが遅くなる。つまり、自家憧着というか、ウットリと牛のように自声を反スウし、確認し、酔うているのである。マラゲーニャというのは、こんなにネットリと感傷的は曲ではない。日本的な勝手は妄想によるマラゲーニャだなぁ。B゜(もっと古い本物を聴きなさい。かんてとウイスキーは古いほどよい。)
2.竹内恵理子 ブレリア
声も気っぷも至極良い。ブレリアは一番むずかしいのである。音符のひとつずつに歌詞をひとつずつ入れようとしているのが悪い。原稿用紙じゃないのだから。例えば彼女は「カミーノ・デ・ヘーレ」と言っている。正しくは「カミーノ・デ・ヘレー」です。唄とは、まず語りなのだから、普通に話すように発音しなくてはならないのです。言葉をもっと前につめて唄わねばなるまい。B
3.板本麻見 マルティネーテ
たしかにマルティネーテは重厚な曲ではあるが、そんなに「重い!」と構えなくていい。声と声との間をとりすぎ。もっと軽快に唄うつもりで良い。それが重く聴こえるようにするのが長年のアルテであって、はじめから重く構えてもダメ。とはいえ、彼女のアフィシオンは高く買うべきだろう。B゜
4.奥本めぐみ ペテネーラ
この人の声とホットさにぴったりのよい選曲だったと思う。情熱的に、燃え立つところなど、実に燃え上がって、よろしかった。加えて今や日本の珠玉ともいうべきエンリケ坂井のギターの音の深さよ。タンノウした。 a゜
5.ダニエル・リコ ミラブラス
ネイティブスピーカーなのだろうが、音程がフラフラしたり、コンパスが滞ったりしたが、どこか微笑ましい徳がある。 B゜
6.占部智恵 アレグリアス
赤いドレスも勇ましく、さっそうたる元気でたのしい唄い出し。声になにかこちらをうっとり、のんびりさせる艶と大きさがあり、聞いていて心地よい。ギターの刻むリズムにたよらない自律的な躍動感があって、それこそがカンテのむずかしさなのだが、見事であった。踊りたくなった。 a
7.遠藤郷子 ソレア
冒頭のアーイ、の尻が変に下がるのは日本人独特の癖。滞る。もっとスイスイと楽に唄えばいい。まっすぐ行けばいいのに、考え過ぎでつい脇の不幸な男をつかまえちゃう...みたいな(失礼。僕の妄想です)グチャグチャ感がある。その分この人には唄が必要なのかも。B
8.岡村佳代子 ソレア・デ・アルカラ
前の人と同様、アーイの尻が日本人的に下がる。スペインに難アリ。但し、コンパスに遅れないところは良い。 B゜
9.勝羽ユキ ケ・ノ・ダリア・ジョ
良い声と気っぷの良さ。迫力もあり、スペイン語にゆとりもあり、安心してコプラの面白さをたのしめた。昔、彼女にそっくりのセビージャ女がいたが、今その名を思い出さない。まさか生まれ変わりじゃありませんよね? a
10.定直慎一郎 ソレア
声を持っているので、わざわざ力んだり、さびた声を作って出す必要はない。ソレア本体のシンプルな旋律をそのまま本堂のぞうきんがけのようにまっすぐに平坦に唄えば良いのに、色々な装飾音が、まだ気になると見え、それが邪魔をしている。 B
11.松橋早苗 カーニャ・イ・ポロ
小気味良いリズムだが、音程がフラフラする。楽しい唄を期待したい。 B゜
12.川村麻利子 アレグリアス
美しい声。まだ一音に一詞をのせようという意識がある。各節の終わりの音程が下がる(日本人の癖)。自立的リズム感が良い。一生懸命に唄う姿に訴求力があり、可愛い。a'
13.大西保孝 アレグリアス
滞らずスイスイと唄うのがよろしい。抑揚もなく塩味が足らない、ようでもあるが、変な解釈で自分勝手な味付けをするよりは余程良いものである。楽しく唄ったのが何より。B゜
14.熊谷善博 シギリージャ
思い入れたっぷりのカンテ・ホンド、シギリージャである。ゆっくりすぎるくらいの間の取り方によって、むしろその思い入れが過剰にならずに、良いバランスを得た。冒頭の「ティリリアーイ」は、最も難しいところであるが、尻尾のところが日本人的に下がってしまうのが欠点であったが。 a'
15.廣重有加 ソレア
こちらも思い入れたっぷりのソレア。ソレアという曲はカンテ・ホンドではあるが、どのみちたかが歌なのだから、もっと普通に唄えばいいだけのことだ。唄うことに居着くことなかれ。もっと歌詞(スペイン語というもの)をわがものとして、たたみかけるように前につめるようにして、唄うべし。装飾音と幹のメロディーをごっちゃにしているため、フラフラして聞える。B゜

16.許有廷 タランタ・イ・レバンティーカ
思い切りの良い出だしだった。ここにためらいや考え過ぎがないのが良い。声もよく出ている。テクニカルには上手くなっているのだが、興味と改善をそこに集中してしまうと、ツルッとした表面研磨で当人だけが満足してしまうのでは...?とやや気がかり。 a'
※関連記事
同じく応援團員の菊池裕子さんが、ご自身のブログに新人公演について書かれていますので、ご紹介します。
「21016年新人公演"私設"施設應援團員のつぶやき」

http://www.casa-nana.net/

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