ビエナルの公演では、2年に1度ということもあって普段の演出にプラスアルファしたものや、初上演のもの、通常では実現しないアーティストの組み合わせなど、時々サプライズな場面に出くわすことがあります。
フラメンコを踊るとき「音楽をよく聴きなさい」と言われます。実際、ギター、カンテを聞いて踊ることは大事ですし、普段からいろんな曲種を聴くことは踊るときにとても役立ちます。またフラメンコは本来「音楽」なので聴く楽しみもあります。ところが、もし「聴く」ということができなかったら？
それでもフラメンコを諦めず、30年踊り続けてきたバイラオーラの公演がありました。幼児期に重度の聴覚障害になり「訓練の成果でほとんど問題なく言葉を話すことはできるけど、私の右耳は完全に聞こえなくて、左も機器をつけてわずかに聞こえるほどなの」と言うマリアンヘレス"ニーニャ・デ・ロス・クーポネス"(Mariangeles Nina de los cupones)。（右上写真）フラメンコバイレの基礎を積み、各曲のコンパス感を全身で感じ取ってきた彼女のバイレに興味が沸き、他公演と時間が重なるので断念していましたが、少しだけも見ようと駆けつけました。ここでのサプライズは「手話フラメンコ」。フラメンコは腕や指の動かし方が特徴的ですが、そのフラメンコさを失うことなくカンタオールが歌う歌詞を手話にして取り入れていました。ひょっとしてスペイン語よりわかりやすいかも！？と思ってしまうほど、手話を知らない私でもその動きから意味が伝わってきました。
翌日はグラナダ出身のカンタオーラ、マリナ・エレディア(Marina Heredia)のコンサート。このコンサートでのサプライズは2つ。突然、会場後方からセーラー帽の人々が何やら騒ぎながら登場。舞台に上がると2，30人はいたと思います。カディスのカーニバルで有名な音楽隊です。グラナダ娘とカディス男の掛け合いで賑やかにタンギージョを歌い、演奏しました。そして2つ目は歌手のモニカ・ナランホ(Monica Naranjo)の友情出演。マリナの次のアルバムにコラボレーションすることになったこともあり、"フラメンコのコンサートに出てみない？"と誘ったそうです。
次はアーティストの勇気と挑戦にサプライズだった公演、アンドレス・マリン(Andres Marin)の「TUETANO」。前半の音楽はエレキギター1本。バイラオーラ、コンチャ・バルガス(Concha Vargas)、カンタオーラのマカニータ(Macanita)までもがヘビメタな衣装で欲望と退廃にまみれた人間の世界のダークサイドを醸し出しているようでした。しかし、作品後半に感じたものは「土」。前半のメタリックから、オーガニックな世界へともっていきました。人間から欲望が落ち、肉もなくなり、骨となり、やがて土に帰っていく...原点への回帰に向かっていったという印象を受けました。そう書くと、凝った演出を仕込んだように聞こえるかもしれません。しかし会見でアンドレス・マリンは、共演者のコンチャとマカニータについて「二人には自然に思うようにやってもらった。天然のアーティストだから、何かを演じさせようとはしていない」と二人のアルテへの敬意を表しながら語っていました。そして、この作品にはさらなるサプライズが。なんと、鶏が4匹、舞台上に登場したのです。本物です。これこそ演技指導も演出も要求できない相手。しかも4匹目はアンドレスの頭上に。（右写真）
今回お伝えする最後のサプライズは、スペイン最大級のオーディトリアム、アウディトリオ フィベス（Auditorio FIBES)。パリのオペラ・バスティーユを思わせるような近代的な造りと巨大な面積で3500人収容できる大会場です。まずはその大きさにサプライズ！この会場がほぼ満員になったのが、12日に行われたビエナル公演「Camaron 20 anos(カマロン 20年）」。42歳の若さで1992年に亡くなったカンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラ(Camaron de la Isla)。パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)とのコンビの後、カマロンの死まで共に過ごしたトマティート(Tomatito)とカマロンの息子ルイス・モンヘ(Luis Monge)とで監修したコンサートでした。記者会見には、故カマロン夫人も出席。（左端：トマティート、右から三人目カマロン夫人、右から二人目ルイス・モンヘ）
コンサートの出演者には、カマロンの声を彷彿させるドゥケンデ(Duquende)、レメディオス・アマジャ(Remedioa Amaya)、ラ・スシ(La Susi)のほか、カマロンと同世代のディエゴ・カラスコ(Diego Carrasco)、ライムンド・アマドール(Raimundo Amador)（ディエゴ・アマドールの兄）、そしてアルカンヘル(Arcangel)も超ヒターノのコーラスと共にカマロンへのオマージュを歌い上げました。
会場には86歳になられたアルバ侯爵夫人の姿もあり、彼女が会場を後にした午前1時前まで会場出口は多くの人や報道陣で賑わっていました。
FOTOS 舞台写真：Antonio Acedo / その他：Makiko Sakakura
