前回に引き続き、カンテ・デ・ラス・ミナス国際フェスティバル(FESTIVAL INTERNACIONAL DE CANTE DE LAS MINAS)です。今年は、先週8月1日からスタート。2年間舞台から離れ、出産を終えて復帰したサラ・バラスがゲスト公演初日を飾り注目を集めました。
昨年のメイン会場での初日は、カンタオール、ピティンゴのコンサート。ゴスペル歌手を交えたり、客席に降りて歌うなど、今までのフラメンコのコンサートでは見たことのない展開にややびっくり。続いてエストレージャ・モレンテ、ファルキート、トマティート、ブランカ・デル・レイ、そしてエル・シガラの公演が続き、あっという間の前半5日間でした。(左写真:エストレージャ・モレンテ/右写真:ピティンゴ)
そして開幕から8日目から、いよいよ各地で予選を勝ち抜いてきたセミファイナリスト達が出場するコンクールの準決勝が始まります。三夜連続で、夜10時からスタート。カンテ、ギター、バイレ、その他楽器部門が入り混じり、バイレの場合は2演目踊るため、終わるのは0時過ぎ。その後、会場広場に設置されたバルで地元のアーティストによるコンサートに足を止めたり、近くのバルに流れたり...4時ごろまで、いや人によってはもっと遅くまでラ・ウニオンの夜は続いていました。他のフェスティバルと違うところは、地元の人と密着していて、特に若い世代がカンテ、ギターをあちこちで披露していること。そして地元のアーティストがその教育に携わっていて、教え子の演奏を見守っていたりするのです。
現地について9日目。やや疲れも溜まってきた準決勝最終日に、疲れを吹き飛ばしてくれるギターとの出会いがありました。フアン・トーレス・ファハルド "フアン・アビチュエラ・ニエト"(JUAN TORRES FAJARDO "JUAN HABICHUELA NIETO")です。
アビチュエラと言えば、グラナダのギターの名門ファミリー。人気グループ"ケタマ(KETAMA)"もこのファミリーの出身で、フアンは彼らの甥にあたります。名前にある"ニエト"はスペイン語で"孫"、つまりギタリスト、フアン・アビチュエラの孫という名前です。コンクールという性質上、出場者は20代が多く、ギターでセミファイナルに残ったのは16歳、20歳、そしてこのフアンが22歳。若いです。しかし、フアンのギターは力強く、濃かったのです。
フラメンコは、テクニック以外に、年月と経験による「熟し」が醸し出すアイレ(空気のようなもの)が人を惹き付ける魅力となります。本来のフラメンコは、家族やご近所の中で自然に身につけられたもの。お手本は、完成形である祖父祖母や父母の年代、つまり自分よりもずっと年配の世代のやることです。確かにフラメンコの世界では、子供だから子供らしく歌えとか踊れというのは、あまり聞いたことがありません。むしろ、若いのに舞台に立つとぐんと老練に見えたり、小さな子供がおじさんぽく歌おうとしていたり。その踏襲の仕方は、歌舞伎の世界に通じるものを感じます。祖父、曾祖父、さらにその先代の芸から学び、それを目指し超えようとする力が、アルテ(芸術)を支えているのでしょう。
その後、フアン・アビチュエラ・ニエトは決勝に進み、ギター部門の最優秀賞ボルドン・ミネーラ賞を受賞。最終日の受賞者公演には、一昨年逝去した同郷グラナダのカンタオール、エンリケ・モレンテの顔が刺繍されたベストを着て舞台に上がりました。ここでも濃かったです。この受賞をきっかけに、さらに活躍の場を広げているようです。これから年を重ねるほどにどのように熟していくか。10年後、20年後の演奏が楽しみなアーティストの1人です。
何度もスペインに行っていても、なかなか聴くチャンスがなかった若きエースの演奏を聴くことができ、注目していきたいアーティストが増えたことは、この旅の大きな収穫でした。日本でもCDやインターネットラジオでいろいろなギターやカンテを聴いて、ふと演奏が耳に止まったら、そのアーティストの名前だけでも調べてみましょう。その出会いから、フラメンコの楽しみがより広がるかもしれません。
(左:午前3時半でも賑わうバルの様子/右:午前4時、会場前の大通り。照明が煌煌と灯っています)