manueta.jpg前回からお伝えしております、ナバラ州、パンプローナのフラメンコ・フェスティバル「フラメンコ・オン・ファイア(Flamenco On Fire)。ナバラ州?馴染みがないかもしれませんが、スペインの北東にあたり、フランスと国境を接しています。気候は南のアンダルシアに比べると夏も過ごしやすく、気温が37度でも汗もかかずにさらりと過ごせました。(写真はマニュエタ通り)

今回が第3回となったこのフェスティバル、公演への観客動員数は5日間で6000人。今回、新しく企画された「バルコニーからのフラメンコ」は5?6000人が集まったということです。フェスティバルへの関心度も年々高まり、今年は昨年よりも50万人多い、200万人もの人がインターネットを通じて、フェスティバルの情報にアクセスしたという数字も出ました。
公演会場は毎回ほぼ満席。ナバラ州のヒターノ協会のコーディネーターのリカルド・ヘルナンデス(Ricardo Hernandez)氏曰く、「文化は権利である。だから、それにアクセスできないままでいる人がいてはいけないんだ」ということで貧困から劇場公演を観る機会のなかった地元の人たちへ、入場券を寄付も行われました。こうして、地元の人々とフェスティバル、そしてフラメンコの距離はぐっと縮まったことでしょう。

Ayuntamento.jpgそして、街自体をフェスティバル色に染めたのが、新企画の「バルコニーからのフラメンコ(Flamenco en Los Balcones)シリーズ」でした。このシリーズは、フェスティバル二日目から4日間連続で、3ヶ所の異なる場所で、昼の12時、12時45分、13時半に始まります。「そんなに続けて行けるの?!」と驚いていたら「大丈夫!ちゃーんと移動して全部聴けるように考えてあるから」と自信たっぷりのフェスティバル関係者。たしかに、地図にしてみるとばっちりのロケーションです。

開催場所は、パンプローナの美しい旧市街地の中の由緒ある建物。まず12時からはマニュエタ通り(Calle Manueta)にある、パンプローナが生んだフラメンコギターの巨匠、サビーカスの生家。ギタリストにとっては聖地のようなものです。(写真右は市庁舎)

2ヶ所めは市庁舎。元は15世紀に作られた建物ですが、18世紀に改築されたものが残っています。バロックとネオクラシックが混在した美しいファサード。ここは有名な牛追い祭り、サンフェルミン祭でお祭りのスタートが宣言される場所としても知られています。

perla.jpg3ヶ所めは、街で一番大きな広場、カスティージョ広場の一角に面する5つ星ホテル、グラン・ホテル・ラ・ペルラ(Gran Hotel La Perla/左写真)のバルコニーからです。1881年創業のこのホテルは、作家ヘミングウェイがサンフェルミン祭の時に常宿にしていたことで有名ですが、その他にもオーソン・ウエルズ、チャーリー・チャップリン、スペインの歴史に名を残した闘牛士たちや王家の人々などセレブの宿として続いています。既にお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、パンプローナは、ヘミングウェイの傑作「日はまた昇る」の舞台です。

los balcones.pngこの三ヶ所は地図でご覧の通りの近さ。そしてなんと、お代は無料!なんと、無料で約30分弱の生フラメンコが聴けてしまうのです。そしてそのラインナップたるや、フラメンコ・ファンには驚きの、そしてフラメンコを知らない人が聴いたら、きっとフラメンコの魅力に気づいてもらえるであろう素晴らしいアーティスト達なのです。フェスティバルでの路上での無料公演は、お金を払ってフラメンコを観に行くほど、まだ興味を持っていない人やフラメンコを全く見たことのない人が目にする可能性のあるイベントです。もちろんフラメンコ限ったことではありません。だからこそ、本来ならクオリティの高いものであって欲しいのです。最初にふれたものが本物、その芸術の粋を伝えるに十分なレベルであれば、素晴らしい芸術との出会いのチャンスになるのです。例えば「フラメンコって、こんなにかっこいいものだったんだ!」そんな風に感じてもらえるはず。しかし、なかなか予算の関係でそういう企画は実現しないもの。それを、このFlamenco On Fireはやってくれました。

JAVIERFERGO_AURRESKU_01.jpgそして、最初の三日間はそれぞれの場所で一回ずつ、バイレ(踊り)のデモンストレーションも。それもバイラオール、マルコ・バルガス(Marco Vargas)。普段、劇場やタブラオに行かなければ観られないアーティストが目の前で踊るのです。数分の短いものでしたが、サックスとの共演でフラメンコという踊りの音楽的要素と自由さを垣間見させてくれました。

そのプログラムを場所ごとに見ていきましょう。
まず1ヶ所目のサビーカスの生家ではギタリスト中心。スクリーンショット 2016-09-03 19.52.12.png初日にコンサートをしたディエゴ・デル・モラオ(Diego del Morao)、今回ワークショップや最終日の公演の伴奏でもヒターノのギターを存分に聴かせてくれたヘロニモ・マジャ(Jeronimo Maya)、グラナダのギターの名門アビチュエラ・ファミリーの一員でフアン・アビチュエラの甥にあたるカンタオール、ぺぺ・ルイス・カルモナと若手ながらカンテの伴奏で評価の高いギタリストのカルロス・デ・ハコバ(Pepe Luis Carmona y Carlos de Jacoba)そして最終日は、グラナダの大御所、ぺぺ・アビチュエラ(Pepe Habichuela)が登場しました。タラント、ソレア、アレグリアス、ブレリアス(それぞれフラメンコの曲種名)の演奏。こんな間近で、スペインの青空のもと、しかも無料で聴けるなんて!本当に贅沢なひと時でした。

市庁舎のバルコニーからはこちら→(写真クリックで拡大します)スクリーンショット 2016-09-03 19.52.23.png

ヘロニモ・マジャとホセ・ボリーナ(歌)(Jeronimo Maya y Jose Porrina)、バルセロナのカンタオーラでアントニオ・カナーレスの作品で活躍、後にはパコ・デ・ルシアのグループにも参加してソロとしても人気のモンセ・コルテス(歌)とエドゥアルド・コルテス(ギター)(Montse Cortes y Eduardo Cortes)、渋い声でファンの多いグアディアーナは、歌手ラモン・エル・ポルトゲスの兄弟。バダホス出身で16歳でマドリードのタブラオでデビューして以来のベテランです。ギターはヘロニモ・マジャ(Guadiana y Jeronimo Maya)そして最終日は、ペペ・ルイス・カルモナとカルロス・デ・ハコバが再登場(Pepe Luis Carmona y Carlos de la Jacoba)

ホテル・ペルラのバルコニーからはこちら→(写真クリックで拡大します)スクリーンショット 2016-09-03 19.52.33.png

この場所で初日だったモンセ・コルテスの公演時、かなり陽射しがきつかったようで、翌日以降のアーティスト達はギターが熱で傷むのではと懸念されたくらいです。広場に集まった観客も、あまりの暑さに日陰に思いきり集中したようです。あとでご紹介する映像でもその暑さが眩しいほど伝わってきます。幸いにも翌日以降はうっすらと雲が出て、初日ほどの暑さではありませんでしたが、アーティスト達はほぼ直射日光を浴びながらもいいカンテを聴かせてくれました。
JAVIERFERGO_ARCANGEL-PERLA_02.jpg二日目は、左写真のアルカンヘルとダニ・デ・モロン(Arcangel y Dani de Moron)。人気の二人だけあって、平日ながら多くの人が集まりました。アンコールに応え、ファンダンゴ・デ・ウエルバを歌うと広場の観客の中から口ずさむ人も。まるでここはアンダルシア!?という感じでした。
次の日は、前の日の夜、感動的なコンサートをしたアルバ・モリーナとホセリート・アセド(Alba Molina y Joselito Acedo)。朝5時過ぎに会場を出た時、まだアルバはそこでおしゃべりをしていたはず。そして翌日の13時半にはこのコンサート!本当にフラメンコ達はタフです。次の日のことより「今」を思いきり生きてるんですね。
ペルラの最終日はグアディアーナとヘロニモ・マジャ(Guadiana y Jeronimo Maya)のコンビ。日曜日なだけに、最終日はどこも多くの人でいっぱい。最後の会場となったカスティージョ広場には、フェスティバルに出演するアーティスト達も昼間のフリー時間と重なったこともあり、続々とグアディアーナを聴きに集まってきて、パンプローナにアンダルシアがやってきたような賑わいがありました。

それぞれの日のダイジェスト映像は下記からご覧いただけます。今回のフェスティバルは、映像や写真のアップがとてもタイムリーで、しかもカメラマンはヘレスのフェスティバルの公式カメラマンを招いての体制。「北でやるから慣れてない」なんて言わせない意気込みが感じられました。

それぞれ2分半弱の映像です。百聞は一見にしかず。ネットならではの映像での紹介です。是非、ご覧になって現地の熱気を感じてください。
写真:ハビエル・フェルゴc Flamenco On Fire /Javier Fergo & Makiko Sakakura
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