IMG_6100.JPG前回に引き続き、フラメンコ・オン・ファイヤーの特集。今回は、毎夜23時半からホテル内に作られた特設ステージでのコンサート「シクロ・ノクトゥルノ(Ciclo Nocturno:夜のコンサートシリーズ)」についてお伝えします。フェスティバル初日については第1回目で書きましたので、2日目以降からです。(写真は夜のパンプローナ、カスティージョ広場)

そもそも23時半から公演とは、日本では考えられませんよね?これぞスペイン時間です。夏の時期、日没は20時以降。昼間の暑い時間は路上には人影もまばら。涼しくなった夕方から老若男女問わず、活発に活動を始めます。夕飯も22時前後ということが多い土地柄なので、軽く食事してから来るには良い時間です。また、この真夜中のコンサートはホテル内の開催ですし、ここに泊まっていなくてもその他のホテルも徒歩圏にあるので、外部から来た人は帰り道の足を心配しなくて済みます。また、夜中になっても通りは明るいので、地元の人たちも徒歩、タクシー、車とそれぞれ問題なく行き来しているようでした。

会場はホテルの一階。予約されたテーブルと自由席がそれぞれあり、会場内にはバルが開かれ、飲み物やおつまみも頼めます。そのような状況なので、開演時間は23時半ぴったり、というわけにはいきませんね。これもスペイン時間です。同席となった人たちと軽くおしゃべりし、飲み物を頼んで...としているうちに、プレゼンターが登場しコンサートを紹介。そして、ようやくスタートです。

JAVIERFERGO_CARRASCO_02.jpg初日はヘレス色に染まったコンサート会場。翌日もまたもやヘレスです。「Diego Carrasco & La Carrasco Family」。前夜のミュージシャンにディエゴ・カラスコが加わった第一部。ディエゴとマロコの歌でバラード調の曲から始まり、やがてお馴染みのディエゴ・ワールドへ。客席で1テーブルを占めていたグラナダのアビチュエラファミリーを讃えたり、語りかけるような歌と若手のマロコとの掛け合いでヘレスのスイング感で会場を満たしました。私はファルキートやアルカンヘルと同じテーブルにいたのですが、何度も彼らに舞台から投げキッスをしたり、合図を送ったりしていたディエゴ・カラスコ。とうとう二人を舞台に呼び、アルカンヘルの歌、ファルキートのバイレもコンサートの一部になってしまいました。お客さん達は、得した気分で大喜び。その様子は、下記でご紹介している映像で少しご覧いただけます。(写真は舞台に呼ばれて歌ったアルカンヘル)

JAVIERFERGO_CARRASCO_06.jpg2部には、同じくヘレスからのトマシートが登場。これぞフラメンコラップ!そしてグラシア(スペイン語で愛嬌)溢れる踊りと絶妙なリズムを差し込むサパテアード。「Sobrevivire!(生き延びるぞ!)」の連呼を挟みながらのパフォーマンス。細く細く痩せた身体のどこにそんなエネルギーが潜んでいるのか?というほどのパワーでした。トマシートを観ていると、歌舞伎役者の中村勘三郎さんが言われていた「型がある人間が型を破るのが型破り」という言葉が浮かんできます。ソレア(フラメンコの中でも重厚な曲種)を歌い踊るトマシートは決してバロディーではなく「型破り」。そして、「Asi soy yo!(これが俺なんだ!)」と言いながら繰り出す動き。舞台上で生のレモンにかじりつき、酸っぱさすら歌と踊りにしてしまう面白さでした。(上写真は左からディエゴ、トマシート、マロコ)

ディエゴ・カラスコ+カラスコ・ファミリー( Diego Carrasco & Carrasco Family )
パーカッション:アネ・カラスコ(Ane Carrasco)ギター:クーロ・カラスコ( Curro Carrasco)ベース:フアン・グランデ(Juan Grande)
歌:マロコ・ソト( Maloko Soto)
歌:ディエゴ・カラスコ(Diego Carrasco)
歌:トマシート(Tomasito)

JAVIERFERGO_ALBAMOLINA_02.jpg続く三日目は、アルバ・モリーナのコンサート。その直前の劇場公演が予定時間を過ぎて終わったため、コンサート開始は30分遅れの夜中の0時となりました。タイトルは「CANTA A LOLE Y MANUEL:ローレ&マヌエルを歌う」。ローレ&マヌエル(スペイン語では、ローレ・イ・マヌエルと呼びます)は、アルバの両親、ローレ・モントージャとマヌエル・モリーナ。二人は、今も多くのアーティストに愛されている名曲の数々を生み出して一世を風靡した前衛的なフラメンコを歌ったペア。フラメンコ界の吟遊詩人とも言われるマヌエル・モリーナが曲を作り、ギターを弾き、ローレが心に訴えかけるような切ない独特の声で歌っていました。
JAVIERFERGO_ALBAMOLINA_01.jpgペアは1993年に離婚を機に解消し、それぞれが単独で活動していましたが、残念ながらマヌエル・モリーナは昨年(2015年)5月に亡くなりました。その悲しみもまだ癒えない中、あえて、両親のレパートリーを歌うのは勇気が必要だったとのこと。コンサート中にも、父を思い出して涙を流す場面がありました。「どの曲を選ぶか、大変だったの。どれも大好きで自分にとって宝石みたいなもの。そして、皆さんが聴きたいと思ってくれている曲も入れたかったし。」父が自分のために作ってくれた曲も含め13曲、いやそれ以上あったかもしれません。母親譲りの声で一曲一曲をいとおしむように丁寧に歌い上げるアルバの姿に、まるでそこに両親のローレ・イ・マヌエルが蘇ったかのような錯覚を起こすほどの素晴らしいコンサートでした。改めて、ローレ・イ・マヌエルのアルバムを最初から聴きたくなった、そんな人も多かったと思います。舞台上のアルバは、歌いながら悲しみの傷を癒す。そんなことも言っていました。死という別れは辛く避けがたいものでも、最後の最後まで自分を愛し続けてくれた相手だからこそ、共に過ごした日々の想い出は心を癒すものとなるのでしょう。

歌:アルバ・モリーナ(Alba Molina)
ギター:ホセ・アセド(Jose Acedo)

JAVIERFERGO_BELENMAYA_02.jpg4日目の夜は、バイレ(踊り)公演、ベレン・マジャの登場でした。20年前、カルロス・サウラが映画「フラメンコ」の制作にあたって、フラメンコ次世代の担い手としての象徴として選んだベレン。クラシックから前衛的な作品までこなす、超実力派のバイラオーラです。両親ともに有名な踊り手ですが、母、カルメン・モーラを少女時代に亡くし、父、マリオ・マジャも2008年に他界しました。二人のDNAを受け継ぎながらも、彼女自身の世界を創りあげている根底には、その研究熱心さと確固たるポリシー。そして、感受性が強いながらも、感情に流されずに自分の道を歩んでいける彼女の逞しさがあるように思います。
JAVIERFERGO_BELENMAYA_03.jpg今回は会場がタブラオ的な設営だったこともあり、当初予定されていた作品から変更し、オーセンティックなフラメンコのバイレを繋げる公演となりました。。カンテとギターはヘレスから。二人のカンタオール、イスキエル・ベニテス(Ezequiel Benitez)、フアニジョーロ( Juan Manuel Carpio"Juanilloro")そしてギターは、フアン・ディエゴ(Juan Diego Mateos)。一曲目のグアヒーラでは、カンテも素晴らしく、ベレンのコケティッシュな魅力溢れるオープニングとなりました。また得意のバタ・デ・コラ(裾の長いドレス)も見事なアレグリアスやパンタロン姿に着替えて、椅子に座っての踊りでは、往年のフラメンコファンに父、マリオ・マジャを思い出させました。

踊り:ベレン・マジャ(Belen Maya)
歌:イスキエル・ベニテス(Ezequiel Benitez)、
歌:ファニジョーロ( Juan Manuel Carpio"Juanilloro")
ギター:フアン・ディエゴ(Juan Diego Mateos)

JAVIERFERGO_SACROMONTE_01.jpg最終日の夜。フェスティバルの最後を飾った公演は「サクロモンテ Sacromonte」。グラナダからのアーティスト達にギターのヘロニモ・マジャが加わりました。今回のフェスティバルは、グラナダのギタリスト、故フアン・アビチュエラへのオマージュというコンセプトもあったので、最後はグラナダでの締めとなったのでしょう。
バイレにフアン・アンドレス・マジャ、イヴァン・バルガス、そしてアルバ・エレディア。オープニングは三人揃っての踊り。まるで、グラナダのタブラオのようです。フアンは以前とずいぶん雰囲気が変わっており、短髪に普段着のような姿。「この公演は、バイレはマリオ・マジャへ(前日のベレン・マジャの父)、ギターはフアン・アビチュエラに捧げます」とグループを代表して挨拶。ソロのタラントでは、一足入魂的に一つ一つのサパテアードをきちっと打つ姿が印象的。イヴァンは普段は涼やかな優しい顔立ちですが、踊り出すとすごい入り込み方で、時には噛みつきそうな迫力、そしてアレグリアスでは愛嬌たっぷりに踊りました。
JAVIERFERGO_SACROMONTE_08.jpgこの公演で一番の注目と拍手を集めたのは、バイラオーラのアルバ・エレディア。細身ながら鋼のような強さを感じさせる身体。伴奏なしのシーン、腕の動きだけでもソレアのメロディーが流れているようは表現力。まるで巫女のような神がかったものを感じさせるのです。正直、まだ知名度は高くなかったアルバですが、翌日は彼女のバイレの話で持ちきりでした。「カルメン・アマジャを彷彿させたな」と思っていたら、やはりそう思っていた人が多くいたようです。若手ながら超正統派。バイレ・フラメンコの伝統を守ってくれる頼もしいバイラオーラです。映像が最後の1分しかなくて残念ですが、そのワイルドさを少しでもご覧ください。

踊り:フアン・アンドレス・マジャ(Juan Andres Maya)
イヴァン・バルガス(Ivan Vargas)
アルバ・エレディア(Alba Heredia)
歌:アンパロ・エレディア(Amparo Heredia)
フアン・アンヘル・ティラード(Juan Angel Tirado)
ギター:ヘロニモ・マジャ(Jeronimo Maya)

写真:ハビエル・フェルゴc Flamenco On Fire /Javier Fergo
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