毎年恒例のヘレス・デ・ラ・フロンテーラのフラメンコフェスティバルが始まって三日経ち、すっかりエンジンもかかってきました。朝晩の冷え込みは激しいものの、日中は汗ばむ陽気。真っ青な空の下、ヘレスの街のあちこちでは、7箇所で1日3クラス、10時/13時/16時と合計21クラス走っている一週間の踊りのワークショップ、こちらでは通称:クルシージョに向かう生徒たちが行き交っています。(右上写真:オフ・フェスティバルの会場のひとつ、ラ・グアリダ・デル・アンヘル/La Guarida del Angel)
とっくに踊りはやめている筆者ですが、一年に一回、このフェスティバルのクルシージョだけは受講しています。アーティストの踊りや振り付けの仕方を間近で見れる楽しみに加え、踊りについて書く時に、踊りの難しさを忘れないようにと修行も兼ねています。ここヘレスのようにフェスティバル期間中のクルシージョは、現役練習生やプロの方にとってメリットが大きいと思います。まず短期間なので集中してフラメンコにどっぷり浸れること。毎日、フェスティバルの公演で見た本場のプロの踊りのイメージをもってクラスに臨めること。そしてなにより、フラメンコの生まれた土地の空気の中にいられること。例えば、外国人ばかりが集まるスペイン語のクラスにだけ通っていると、自分も含め、生徒たちのネイティブではないスペイン語ばかりを聞くことになり、本来のスペイン語のリズムを感じることができません。たとえ、ネイティブのスペイン人のように話せない初心者でも、本場で人々が話すスピード、リズム、よく使う表現を耳にすることは、スペイン語のイメージを持つ助けになり、将来の上達にも繋がると思います。このことに似たようなメリットが、フェスティバルのクルシージョにはあると思います。
さて、公演の方をみていきましょう。初日は地元のバイラオーラ、メルセデス・ルイス(Mercedez Ruiz)の公演。会場となったビジャマルタ劇場のホワイエでは、フェスティバル開幕初日恒例のシェリー酒のふるまいがありました。シェリー酒は、スペインでは、ビノ・デ・ヘレス-Vino de Jerez(または"ヘレス"のみ)とか、種類の名前で「フィノ(Fino)」とか「マンサニージャ(Manzanilla)」etc...、または、日本でもお馴染みの「ティオ・ぺぺ(Tio Pepe)」などの商品名でも呼ばれます。その"ヘレス"を湾曲した竿状の柄の先にお酒を酌むキャップ状の金具のついたベネンシア(Venencia)と呼ばれる道具で樽から汲み出し、グラスに一気に次ぐ技術を身につけたベネンシアドール(Venenciador)と呼ばれる人が一人。大勢の来客を相手に次々と注いでは配っていました。
公演「ELLA(=彼女)」の冒頭、黒のビロードのパンツスーツというマニッシュな姿で幕前に立つメルセデスの後ろ姿。エンディングではその場所に真っ赤なドレスで現れます。ロシオ・マルケス(Rocio Marquez)の歌声、サンティアゴ・ララ(Santiago lara)のギターの音に突き動かされるようにして踊るメルセデス。曲の流れは分かっていても、決して音楽に先んじることなく、音楽を感じて踊っていました。カンテを大切にするヘレスのアーティストらしく、昨年のウニオンのコンクールのカンテ部門のランパラミネーラを受賞したダビ・ラゴス(David lagos)、同郷のロンドロ(El Londro)、ウエルバのロシオ・マルケスらの歌をじっくり聴かせる場面もありました。セビージャのバイラオール、アントニオ・カナーレス(Antonio Canales)もゲスト出演し、いつものメルセデス公演とは違う味も加わっていました。。ELLA-一人の女性として、バイラオーラとしてのこれまでのキャリアをこの舞台で花咲かせるかのごとく、「彼女」のエッセンス満載のバイレ。映像はこちら。
初日の夜12時からは、カンタオール、ミゲル・オルテガ(MIguel Ortega)のコンサート「AMALGAMA」とオフ・フェスティバルイベントのカンタオール、ホセ・バレンシア(Jose Valencia)のライブがバッティング。なんとも贅沢な話ですが、両方に行くわけにもいかず。この日はライブ会場へと足を運びました。会場のグアリダ・デ・アンヘルは、ステージと客席が極めて近く、立ち見しながらお酒も飲めるカジュアルな場所。そして、開始時間も12時のはずがとうに1時を過ぎてからのスタート(笑)。初日からスペイン感満載です。伴奏は、ファルキートファミリー、ホアキン・グリロ、レメディオス・アマジャなどバイレにもカンテにも強いフアン・レケーナ(Juan Requena)。後半には、ホアキン・グリロ(Joaquin Grilo)とアントニオ・カナーレスが飛び入り参加し、なんとも贅沢で迫力のあるライブとなりました。
二日目のロシオ・マルケスのカンテコンサート、そしてマヌエラ・カラスコ(Manuela Carrasco)の公演は、昨年9月のビエナルと同タイトルのもの。会場の造りの違いによるフォーメーションの変更や出演者の変更はありましたが、内容はほぼ同じ。マヌエラ公演では、プログラム発表時にはビエナルの時と同様に、ピアノにディエゴ・アマドールがゲストとして名前が出ていましたが、公演カタログにはリカルド・ミーニョ。しかし、本番ではセルヒオ・モンロイが弾いていました。やむを得ない事情での出演者変更なのでしょうが、ビエナルではディエゴのピアノとマヌエラのバイレの場面が印象的だっただけに、ちょっと残念。その代わりではありませんが、以前、ソロ歌手としても活躍し、トマティートのグループでも歌っていながら、ここ数年舞台から遠ざかっていたエル・ポティート(El Potito)が出演というサプライズがありました。また、舞踊団として踊った3人のバイラオーラの一人、サライ・デ・ロス・レジェス(Saray de los Reyes)は、おめでたの大きなお腹ながら、女性らしい腕、手の動きで丁寧に踊っていたのが印象的でした
夜中0時からは、ルイサ・パリシオ(Luisa Palicio)の「SEVILLA」。現代のセビージャのバイラオーラの中でも、バタ・デ・コラの名手として知られるミラグロス・メンヒバル(Milagros Menjibal)のお弟子さんです。ゲストに、バイラオールのハビエル・バロン(Javier Baron)が出演し、珠玉のバイレを見せたようです。(写真;ハビエル・バロン)
次回に続く
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