「きみへ捧げるバラを切った。だけどここにいない・・・」と滑り出す渋いバラード「マラケシュの詩人」は、久々に喰らったKOパンチだった。ヘレスの人気デュオ「ナバヒータ・プラテア」が、昨年急逝したフラメンコ・ギタリスト、モライート・チーコのオマージュに出演して唄った曲だ。
ホセ・メルセー、ドゥケンデ、フェルナンド・デ・ラ・モレーナ、カルメン・リナーレスといった、なみいるカンテ・フラメンコ界のスターたちと共に登場した彼らだが、日本ではあまり知られておらず、「?」と思った人も多かったはずだ。(http://www.youtube.com/watch?v=U7BuglyDmCA のユーチューブのアドレスで、1:28:10頃から、彼らが登場します)
こけた頬に薄いサングラスをかけ、長髪で痩身のいかにもボヘミアン的風貌のペレは、ほとんどの作詞作曲を手掛けるヴォーカリスト。フラメンコギターとエレキ、カホンなどを操るマルチなクーロの二人がナバヒータだ。代表曲「ボヘミアの夜」は、アルバ・モリーナ(フラメンコ吟遊詩人、ローレ・イ・マヌエルの娘)とのコラボヴァージョンが本アルバムに収録。アップテンポのロック&ポップス、ラテン風味から、ブレリアのリズムまで駆使し、抜群のノリとセンスが随所に輝く。何をやっても根底にフラメンコがにじむのは、二人がヘレスの濃厚なフラメンコ地区、サンティアーゴ街出身だからだ。しかもペレは名物カンタオーラ、チキ・デ・ヘレスの兄である。
このアルバムは1999年発表だが、名作の常として、全く古さを感じさせない。色んな形式で愉しませてくれた後の、14曲目「セ・テルミノ(終わり)」に見る、チンピラ仲間の宴会のような、アナーキーなスキャットも入るブレリアは、ドロリとした濃いフラメンコの血を感じさせる。
しかし、ここまで褒めちぎっておきながら、本CDはアクースティカ取り扱い商品ではない。みなさん、どこかで探してね・・・。(加部さん、西脇さん、またもスミマセン!)
こんなゴキゲンな一枚をかけるときは、窓を開け放して、冷たいビーニョ・ベルデでも呷りながら、踊ってしまうのが一番。ビーニョ・ベルデ(緑のワイン)とは、近頃日本でも流行りのポルトガル産若飲みワインのこと。低アルコール(10~11%)、微発泡が特徴で、夏がその良さを最も味わえるとき。本アルバムにピタリとイメージが合うラベル、カサル・ガルシアとのコンビをぜひ!
「蝶がオレの周りを舞う/心の闇を感じる/キチガイの庭で/オレ一人だけが正気だ」「キチガイにも理由はある!」などと叫ぶ、ペレの狂気スレスレのアルテは、心身を十分にアルコールに浸してこそ、より深く響くはずだから。