ホセレーロ老の朴訥な唄い口には、樽香が効いた日本酒、住吉がよく合う。肴は105円のニシンの缶詰。つまみも酒もシンプルで安いほうが、古いカンテと相性がいい。この住吉は純米のうえ、四合瓶で770円という、現代日本を代表する奇跡の銘酒だ。

 1975年、バルセロナの「サラ・セレステ」でのライヴ録音の本作は、発売後、長らく再プレスされない時期を経て90年代に復刻された。伴奏はホセレーロの息子、ディエゴ・トーレス・アマジャこと"ディエゴ・デ・モロン"だ。
 スペインの数ある流派の中でも、異彩を放つモロン・デ・ラ・フロンテーラのフラメンコ。カンテを唄うルイス・トーレス"ホセレーロ"(1910~1985)は、今に続くモロンの流れを作った偉大なギタリスト、ディエゴ・デル・ガストール(1908~1973)と、公私ともに深い親交があったことで知られる。ディエゴの妹、アンパロと結婚もした。その結果生まれたのが、本作で伴奏する息子の、ディエゴ・デ・モロン(1947~)なのだ。
 現代分岐するモロン流、いや、ガストール流(かつてディエゴ・デル・ガストールの甥のパコ・デル・ガストールにそう訂正された)の匂いを、最も強烈に受け継ぐギタリストが、ディエゴ・デ・モロンと言われる。
 ディエゴ・デ・モロンは、このライヴ当時は20代後半。空間がゆがむ暗黒の音、とも称される、極めて個性的なソロと比べ、60半ばの父ホセレーロとの共演のせいか、比較的オーソドックスなカンテ伴奏に徹している。それがまた、いっそう叔父のガストールの影響が色濃く見えて興味深い。少ない音数。絶妙の間。素晴らしくフラメンコだ。
 このライヴは、ライナー執筆のフランシスコ・ディアス・バスケス氏によれば、「ジャズやロック、エレクトリックなアメリカ音楽に感化された」、当時のバルセロナの若者たちを前に行われたという。
「ソレアをちょっと唄うよ。きっと気に入ると思う」「バルセロナ万歳!聴き方を知っている」「行け、わが息子よ!」など、いつもと違った聴衆を前にしても、泰然自若としたホセレーロ老のマイペースぶりが実にいい。選曲もレトラも伝統一直線。若きディエゴのファルセータも存分に聴ける。アンダルシアから遠く離れたバルセロナという、アウェーゆえに漂う若干の緊張感と音質の良さも、このアルバムの質を高めている。
 しかし何と言っても、濛々と湧き上がる土煙のような、ホセレーロ&ディエゴ親子の、濃厚なモロン・フラメンコ。本作の魅力はこれに尽きる。

※一週間ごとに更新します。次回は5月31日(木)の予定です。

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
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