情熱的に照りつける太陽、まさにそのとおりだった。
36℃の気だるい暑さの中、私はミラノ空港に降り立った。
さらに列車で3時間あまり。イタリア北部ベネチア近郊フリオリ州へと向かう。
以前からイタリアでフラメンコの伴奏を依頼されており、断り続けていたが今回は承諾した。
約束の時間より速く着いた私は、一軒のバルに立ち寄った。アペロルをソーダで割り、乾いたのどを癒した。
すると、まだ陽は高いというのに、一人の酔っ払いが近づいてきた。
奇妙な姿をした私に興味を持ったのだろう。
イタリア語とスペイン語はよく似たところがある。例えば「ポルファボール」は「ペルファボーレ」、「グラシァス」が「グラッチェ」など。
その中で「キエンエレス」(あなたは誰?)はイタリア語だと「キセイ?」になる。私は名前が「イッセイ」だから「ソノ・イッセイ」と応えた。
すると、「イッセイ・キセイ・イッセイ・キセイ......イッセイ?」。「チャオ・ピアチュレ」(よろしく!)と私は言った。
するとまた、「キセイ?」、「え?、だからイッセイ」。「イッセイ」、「チャオ」、「イッセイ?キセイ?イッセイ?キセイ?」...。なにぃ? お前人の名前であそんどるんかぁ? それともまだ誰やと聴いとんのかぁ? おまえはイタリアの志村ケンかぁ? そしたらその酔っ払いオヤジが歌い出したんですわぁ"ヘンなおじさん!~ヘンなおじさん......"んなわきゃねぇだろが~、ワレ~。
え~、すっかり春も盛りとなりまして、お久しぶりです。イッセイだす。
以前に申しましたように私パーカッションをやっていまして、日本国内でもフランス人やドイツ人のイベントに参加しとるんですわ。まぁ私がこんな"なり"ですさかいヨーロッパ人がおもしろがって、ついでにフラメンコギターをやっとる言うたら、ぜひ自分の国に来てくれゆうて呼ばれたんです。まーフラメンコを知らなくてフラメンコにあこがれるヨーロッパ人というところでんな。
本国スペインより隣国フランス、ドイツ、イタリアなどの方が、フラメンコ人気あるんですわ。スペイン国内ではその地域で"派閥"などあるし、ヒターノに対する偏見もありますやろ。全然関係ない国の方が自由に楽しめるからでしょうな。異国のものに憧れるのは、世界中どこでもそうでっせ。
そんなわけで今回は、外国人でフラメンコ以外の人たち(ミュージシャン)が、フラメンコにどんだけ憧れをもっとるか、少し書きます。
カルロス・サンタナっていうメキシコの一応ロック?ギタリストがおりまして、彼の曲の中に「グアヒーラ」っちゅうのがあるんです。グアヒーラとはまったく違う曲なんですが、レトラで「バーモス・バイラ・グアヒーラ」(さぁ、グアヒーラを踊ろう!)と、リピートしてます。
ジャズの帝王マイルス・デイビスは「フラメンコはスペイン人のジャズだ」と絶賛しており、マイルス・ファミリーのチックコリアは、フラメンコのリズムをイメージしたあの名曲「スペイン」を作曲しています。
R&Bの歌姫ジェニファ-・ロペスのプエルトリコ・ライブでは、ホアキン・コルテスがR&Bでサパテアード踏んでますわ。
ナイジェリア系フランス人シャーデーアデュの「スムース・オペレーター」という曲のライブ盤では、最後サンバ(バイーラ)になって各パートがソロをとるんですが、ホーン・セクションが入って盛り上がった時、ギタリストがまるでバイラオールのようなパルマを打っとります。
ドイツのヘビーメタルバンド、"スコーピオンズ"の名曲「ビックシティ・ナイツ」のDVDではボーカルのクラウス・マイネがバイラオーラと一緒にフラメンコを一瞬踊ってますわ。
カトリーヌ・ドヌーヴの出演映画「フェアリー・テイル」では、「ジョセフィーヌとジプシー楽団」というショートストーリーで(ミュウ・ミュウ主演)ジタン地区のジプシーたちがいっぱい出てくるんですが、全部ジプシー・キングスみたいでっせ。ジプシー・キングスがデビューした時、ヨーロッパ全土で話題になり、「ジョビジョバ」のクラブリミックスまでリリースされ随分感動したんですが、実はヒターノたちのファミリアって、みんなあれくらいの素晴らしい音楽は演っとるんですなぁ。
そしてイタリア系アメリカ人アルディメオラがパコ・デ・ルシアとマクラフリンとスーパーギター・トリオを結成したことはあまりに有名ですが、アルディメオラは世界中の人々から、パコ・デ・ルシアなる人を世に紹介したことが彼の最大の功績であるといわれとりました。
ジャズギタリストであるアルディメオラはフラメンコに憧れを持ち、「エレガント・ジプシー」なるアルバムを出し、ジャケットにはバイラオーラとディメオラが並んでます。そしてパコと共演したあの「地中海の舞踏」が収録されとります。
ざっと思い浮かべただけでも、どんどんでてきますわ。
名だたるミュージシャンたちがフラメンコに興味を持ち、アプローチしとるんですわ。
本来リズムとは人間の心臓からきているといわれています。興奮したりナーバスになると心臓のリズムが変わるんですわ。フラメンコはよけいな音もなくアコースティックやからこそパルマやサパテアードの音がよりリアルに感情を表現し、パーカッション以上に新鮮かつ斬新聞こえますわ。リズムとメロディがこれだけダイレクトに人間の感情を表現した音楽は、フラメンコがピカイチでっせ。せやさかいあらゆるジャンルのミュージシャンが魅了されるんでっせ。
いやぁ、フラメンコって、本当にいいもんですね。