ヘレスの泥酔ヒターノ・ギタリストとその壊れたギターとで興じている私を
一人の白人少年が興味深そうに観察していた。
聞けば彼もフラメンコを学ぶためパリからやって来たのだそうだ。
彼もまたスペイン人は地方によってはフラメンコの考え方がまるで違うので困惑していると言う。


フランス人はよく生牡蛎とシャブリ<白ワイン>は最高の取り合わせだと言う。
ところが私にしてみれば生牡蛎にあう白ワインなど存在しないと確信している。
何故ならワインにはわずかながら有機酸塩を含んでおり生牡蛎の生腐さを引き出してしまう。
生牡蛎に最高なのは純米大吟醸の日本酒しかない。
漁りたての魚あるいは生きている魚の刺身は最高に美味とされているが、
実はその場でシメ血を抜き6時間ほど熟成させた方が美味である。
日本のバルではブルゴーニュやボルドーより
カルフォルニア産オーパスワンがステイタスとされているのはまさに滑稽である。
人が何を言おうが私は自身で感じたままにしたがう。
だからヘレスのギタリストが、
カディス、セビージャ、グラナダなどヘレス以外にフラメンコが存在しないと言っても
私は何とも思わなかった。
しかし目の青いパリの少年はその澄んだエーゲ海のような瞳を輝かせ
シワがれた老人ギタリストの話を食い入るように聞いていた。
乱暴なその老人の話を一言一句もらすまいという意気込みで。
だが、その表情は戸惑いが明らかだ。
そや、さっき困惑しとると言っとったやないか!
お前ヘミングウェイの「老人と海」読み過ぎちゃうか?
フラメンコより人生勉強せー。
わしはヘレスのブレリアよりカディスのブレリアの方が好きじゃ!
ワインより日本酒じゃ!
毎度、ISSEYだす。前回の続きですわ。
いや~、せやけどその老人いうたら、ほんま勝手な事ベラベラ喋りまくって、
そんでも酔うとるくせにギターメチャ上手かったですわ。
さすがヘレスでんな。
酔っ払いまでドフラメンコでしたわ。
ほんでペーニャ・アントニオ・チャコンに向かいまして、ちょい迷いましたわ。
周りに人はおらへんし、教会ばっかでまたバルに入りましたわ。
そしたらスキンヘッドの刺青のおやじが6人、わしの方に来ましてな。
「何してんね?」って言いおるんすわ。
ペーニャ・アントニオ・チャコン行く言うたらえらい喜びましてな。
「お前フラメンコ好きなんか!」て。
まーこんななりしてますさかい余計そう思ったんでしょうな。
「どっから来た?」言うから「イタリア」いうて、
イタリアのフラメンコ・スタジオで踊りの伴奏やってる言うたら、
「お前みたいなやつ初めてみたわ」って言われましたわ。
「何人やね?」って言うから韓国人って言うたら「お前マジか!」って。
いやいやお互い様でっせ。
結局ペーニャの昼の部が終了しとりまして、
電車の時間もあったんで駅に向かいましたわ。
電車が来るのにまだ時間あったんで近くのバルでビールしばいとったんですが、
スキンヘッドの刺青野郎が近づいて来おりまして、 
「火貸してくれ」言うんですわ。あとわしの刺青見せてくれ言うて。僕も刺青あるよって。
彼もカンタオールや言うとりました。
わしトーケ(ギタリスト)やでって言うたら、お前みたいなギタリスト初めて見たって。
だからお互い様じゃ。
なんやカディスから来たらしく
今度スペインに来たらみんなに紹介したい、
一緒にタブラオ出ようって約束して駅に行きましたわ。
駅で電車待っとったら、
今度はベースボールキャップ斜めに被ったニューヨークのギャングスターみたいな若者が3人来よりましたわ。
こんな風体しとると、いろんな人が寄ってきますわ。
そいつらはリビア系っぽい感じやったですわ。
今スペイン、イタリア、フランスでラップが流行ってましてな。
特に亡命してきたリビアの連中がルーマニアや東ヨーロッパの連中と一緒に
ラップのCD出したり犯罪やったりしとるんすわ。
なりはジェロみたいな感じですわ。
したらいきなり、「金くれ!」って言いますんや。
フランス語で返したろかおもたけど大阪弁で返したったわいな。
「何言うてるかわからん! わしスペイン語わからへん!」
そしたら諦めてどっかいきおった。
ボケッ!人生の年輪と気合いが違うんじゃ! もっと恐喝の勉強してこい!って。
そんなこんなで、電車に乗りましたわ。もう夕日が落ちかけとりました。
行きはバスやったからわからへんかったけど、
ヘレス出てから5分 くらいしたらまわりは大草原でしてな。
初めて地平線見ましたわ。
太陽が大地に落ちて行って、オレンジ色に輝いてました。
そん時、40年前に別れてから一度も思い出したことのないおかんや、
親父のこと思い出したんですわ。。
地平線の話をしたおかんの言葉まで思い出しましてな。
帰る場所もなく身一つで生きてきたワシに、
なぜかこのオレンジ色の地平線がなつかしく思えたんですわ。
いや~、日本におってもそんな事考えたことないのに
遠い異国でそんな事考えるって、人生皮肉でんな。
周りに家なんか全然なくて、数頭の馬が走ってましたわ。
梅津かずおのまことちゃんハウスここにあったら目立ちまっせ~。
てな事考えてセビージャに向かいましたわ。
ヘレスではカディスの刺青はげのカンタオールと友達になったし、
知り合いもいないこんな異国でフラメンコを通して友達になれるんやから、
やっぱフラメンコって本当にいいもんでんなぁ。
次回はセビージャです。バイなら~。

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