フラメンコ・フェスティバル・イン・東京が、開幕した。
初日の昨日、上演されたのはベレン・マジャとマヌエル・リニャンの「トラスミン」。
オープニング、はバタ・デ・コーラで踊るカンティーニャ。バタを着ているのはベレンだけではない、マヌエルも。男性のソロでバタを着て踊ったものは何度かみたことがあるが、男女のパレハで見るのは初めてだ。マチョなバイレのイメージのマヌエルのこの登場に驚かされるが、踊りが始まると、その完成度の高さにいきなり度肝を抜かれた。
なんと精緻なパレハであることか。まるで写し絵のように一分に隙も乱れもない2人の動き。しかもその一瞬一瞬のフォルムが、どこをとっても印象派の絵画を見ているがごとく、完璧な美しさなのだ。こんなフラメンコのパレハ、私は見たことがない。いわゆる統制美は、必ずしもフラメンコ舞踊が本望とするものではないが、この神業的クオリティの高さは、美しさは、それだけで感動を呼び起こす。


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続いては、マヌエルのソロ。
マヌエルは、微動だにしない軸をもち、完璧に自身の肉体を制御しながら、キレとパワーを炸裂させて、ソレアとタラントをたっぷり踊った。生身の彼を見たのは、実は私も始めてだったが、押しも押されもせぬ正統派バイラオール。鍛え抜かれたその身体は、パワフルで、時にしなやかで、近年めきめきと本国スペインで頭角を現してきた彼の実力を十分に感じさせるものだった。
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そしてこの日、何より私が圧倒されたのは、やはりベレン・マジャの素晴らしさだった。ベレン・マジャは何度も見て来たので、実をいうと、そのすごさはわかっていたものの新たな期待感は、私の中ではそれほど大きくなかった。だが、この日のベレンは、随所にベレンの真骨頂を見せつけてくれた。
作品全体としては、決してコンテンポラリー色の強いものではなく、構成も振付もオーソドックスなスタイル。だが、ポイント、ポイントで、今まで見たことのない動きが出てくる。特にユニークだったのが、ソロで踊ったロマンセの最初と最後の動き。大きな舞台の下手から上手へ、まるでベルトコンベアーに乗っているような感じで横に移動していく。そう、オルゴールの上で踊る踊り子みたいに。あら、これは、どこがどうなると、こんな動きになるのだろう? 頭の中が???に(こういうハッとした驚きって、フラメンコの公演ではあまりないけれど、舞台公演の醍醐味の一つなんですよね)。
そんなモダン派旗手としてのベレンを感じさせる一方、ベレンの中に染み付いた、ヒターノとしてのDNAに刻まれた、"フラメンコのツボ"が、ここかしこからこぼれ落ちてくるのだからたまらない。フラメンコ・ファンならおわかりいただけるだろう、思わずオレ!と言ってしまうあの瞬間が、いっぱいなのだ。特に、ラストのマルティネーテでは、父マリオの十八番と言える椅子に座ってのサパテアードや独特のマルカールなどが組み込まれ、マジャ家の継承者たるベレンの本領を発揮。マリオが二重写しに見えてきて、目頭が熱くなった。
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ベレン、マヌエルそれぞれれの2曲のソロの間には、ダビ・ラゴスのカンテ・ソロとアルフレッド・ラゴスのギター・ソロが上演された。もちろん、そのカンテとギターがすばらしかったことは、いうまでもない。
さて、初日から快進撃を見せたフェスティバル。
今日2日目のイスラエル、3日目のロシオ・モリーナにますます期待が膨らむ。
写真 青柳裕久
■フラメンコ・フェスティバル・イン・東京 初日 「トラスミン」
日時:(10月12日(土)14:00開演 
場所:新宿文化センター
バイレ:ベレン・マジャ、マヌエル・リニャン
カンテ:ダビ・ラゴス、マティアス・ロペス 
ギター:アルフレド・ラゴス
演目
1.カンティーニャ /ベレン y マヌエル
2.ソレア/マヌエル・リニャン
3.カンテ・ソロ グラナディーナy アバンドラオ /ダビ・ラゴス
4.タラント/マヌエル・リニャン
5.ロマンセ /ベレン・マジャ
6.ギター・ソロ ロンデーニャ/アルフレド・ラゴス
7.マルティネーテ/ベレン・マジャ

3つの壁の乗り越え方

【フラメンコに行き詰まりを感じている方へ】

フラメンコ(カンテ/踊り/ギター/他)が難しい...
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