今フラメンコファンの間で話題沸騰の様相を見せている映画「ジプシー・フラメンコ」。8月9日から東京:ユーロスペースと大阪:テアトル梅田で公開が始まり、名古屋、京都でも現在公開中。この秋以降もすでに全国20ヶ所近くの映画館で公開が決まっている。上映の予定はこちら。
facebookやtwiterでは。連日この映画を見に行ったフラメンカたちの 感動の声がアップされている。
「フラメンコやる人は見るべき。芸においては何でもそうだと思うんだけどいいメッセージがありました。」~FBより~
「スクリーンに向かって「Ole!」とハレオかけそうになりました。そして、踊りたくなりました」~twitterより~
「もう、終始鳥肌立ちっぱなし!物凄いエネルギーがギュッと凝縮した様な世界に圧倒されました。~」~FBより~
「まるで息をするかのように踊りと日常が一体化している人の凄まじさ」~twitterより~
この映画は、彼女を超える踊り手は永遠に現れないだろと言われる伝説の舞踊家、カルメン・アマジャの生誕100周年を記念して制作された。カルメン・アマジャを大叔母に持つバイラオーラのカリメ・アアマジャが自身のルーツと魂の伝承を追い求める姿を軸に、バルセロナのフラメメンコ・コミュニティの中で、伝統がいかに継承されていくのかを描いたドキュメンタリー作品だ。私達がなかなか垣間見ることができない閉ざされた世界であるヒターノたちの日常にカメラは淡々と迫っていく。そしてそこには、フラメンコの熱と、ヒターノたちの熱いく切実な思いが脈々と流れている。
フラメンコの真実に迫った貴重な作品だ。フラメンコに惹かれている者にとっては、垂涎ものである。だが、素晴らしい作品であっても、地味でマニアックなこのような映画が、一般公開され、全国各地に上映が広まっていくのは、そう簡単なことではない。
この映画の配給はこれまでも地道に真摯なドキュメンタリー作品を世に送り出してきたパンドラ。今回の上映の広がりには、パンドラの実績も大きかったであろうと推察するが、もう一人、熱きフラメンカ"ピカリン"こと飯田光代さんの情熱が大きな機動力となっている。彼女の熱意と太陽のような人柄~それはまさしく彼女のフラメンコ魂~が、日本のフラメンコ界に、"ジプシー・フラメンコ旋風"を巻き起こしたのだ。
美しき62歳のピカリンがフラメンコと出会ったのが55歳のとき。子育てを一段落させてスペインへ旅をした時、彼女のホームステイ先が、ヒターノのファミリアだったのだ。図らずも彼女はそこで、フラメンコの最もコアな一面を体験することになる。「もう、楽しくて楽しくてね、自分が開放された瞬間を体験しました」と、飯田さん。帰国後フラメンコを習い始め、現在は吉田久美子が主宰する教室に週に2回通っている。
飯田さんには、フラメンコを習う以前から情熱を注ぎ取り組んできたものがある。ドキュメンタリー映画の上映活動だ。重度の障害を持つ息子さんの子育て間最中の頃、一本の福祉のドキュメンタリー映画に出会ったことがきっかけだったという。もともと映画は好きだったが、いわゆる社会派ドキュメンタリーには全く関心がなかった飯田さんだったが、このあとドキュメンタリー映画を見まくる日々が続き、気がつけば、1999年、地域の大学を巻き込んで「すぐれたドキュメンタリー映画を見る会」を設立。地域での上映活動を続けてきたのだった。
そんな彼女が「ジプシー・フラメンコ」と出会ったのは、毎年参加している山形国際ドキュメンタリー映画祭に、昨年行った時だった。
「これだ!と思いました。私の大好きなフラメンコの真実がここにある! この映画をもっと多くの方に見ていただきたい。なんとか日本で公開の機会を作りたいと、見終わった瞬間に思いました。それは、私が情熱を注いできた2つのこと、映画とフラメンコが一つになった瞬間でもありました」と、その時のことを彼女は熱く語る。
だが、公開までの道のりは消してたやすいものでなかった。日本で映画が公開されるためには、当然、その配給の権利を買わなくてはならない。自主上映の活動をしてきたとはいえ、配給の経験は全くなかった。経済的なリスク、複雑な契約、そして上映先の映画館への営業活動、そうしたものをすべてクリアしなければならない。だが、ここで"ピカリン"は突き進んだのだ。
配給会社のパンドラもこの映画に興味を持っていることを知り、共同で配給することを提案。そして、自身も外国との契約業務の経験に長けたご主人を巻き込んで会社「ピカフィルム」を設立。配給の権利を手に入れる。そして、師・吉田久美子や教室仲間の協力をとりつけ、フラメンコ界内外を走り回り、ユーロスペースでの上映を実現させたのだ。
「ヨシクミ先生や教室の仲間たちには、ほんとうに力になっていただきました」と笑顔で語る飯田さん。いや、彼女が語ると苦労話もなんだかとても華やいだ話になってしまう。そんなオーラを彼女は持っている。映画に共感したのはもちろんだろうが、この"ピカリン・オーラ"に打たれて、大勢の協力者が動いたに違いない。そうして、「シプシー・フラメンコ」は、早くからフラメンコファンの間では話題に登るようになり、この夏の一つのムーブメントとなったとのである。
公開初日の8月9日には、代々木公演とユーロスペース前で総勢60名のチーム「ジプシー・フラメンコ」(ピカリンと仲間たち)によるパフオーマンスを実施。8月17日には小松原庸子さんと朝日新聞の伊藤千尋さんのトークショーを開催するなど、PR活動にも余年がない。ユーロスペース最終日の28日には再度フラメンコ・パフォーマンスが行われる予定。
これまでのところ、各地の客足も反応も好調のようで、この秋以降、続々と予定されている公開が待ち遠しい。兵庫、福岡、静岡などなど、これからも全国各地で公開が決まっている。映画「ジプシーフラメン」が全国を駆け巡る。
京都シネマは今日まで、大阪:テアトル梅田は29日までなので、まだ見ていない人は急いで!
「この映画は、単にフラメンコの魅力だけではなく、自分の人生、生きることそのものと向きあわせてくるものだと思います。いつもいい魂を持っていたい。熱い気持ち、純粋な気持ちを持ち続けたい。この映画は、まさにそうした心情で生きている人々を描いています」と、飯田さん。
今回の取材のため、彼女とは、新宿のとある喫茶店でお会いしたのだが、「もう、大変なんですよう~!」と語るピカリンは終始笑顔で、エネルギーに満ち溢れていた。まるで旧知の仲のような、人なつっこい暖かなオーラでこちらを包む。
一人のフラメンカの決意から始まった映画「ジプシー・フラメンコ」旋風、果たしてどこまで大きなものとなるのか?
いや、ピカリンの活動は今始まったばかりに違いない。
※映画「ジプシー・フラメンコ」公式ホームページ
※映画「ジプシー・フラメンコ」FBページ