_FE_3535.jpgのサムネイル画像この夏、例年になく寒暖差の激しい気象状況は、日本だけではなさそうです。スペインの各地でも「急に涼しくなった」「と思ったら、また暑くなるらしい」という声を聞きます。(左写真:市役所前に集まった、バルコニーからのコンサートの聴衆)

今年5年目を迎えるスペイン北部、ナバラ州パンプローナのフラメンコフェスティバル「Flamenco On Fire」。前回お伝えした豪華なプログラムがいよいよスタートしました。パンプローナ出身のクリエーター、ミケル・ウルメネタ氏のデザインの今年のポスターは黒地に白の水玉。それに因んで、フェスティバル事務局の車も水玉仕様。そして、私も含め、ついつい水玉の服を選んでしまう人も例年より多い傾向のパンプローナの街です。

オープニングの記者会見では、例年成長していくこのフェスティバルの今年のキックオフが宣言され、正午12時から市役所前の広場で最初のイベントが開催されました。このフェスティバル恒例の、バルコニーからのコンサートです。

40016026_10212232962811526_2335529621300183040_n.jpgフラメンコギタリストのぺぺ・アビチュエラ(Pepe Habichuela)の演奏で、スペインの人気番組Operaicion Triumfo(日本の「スター誕生」的な番組)出身の人気女性歌手、アマイア(Amaia)の歌が、生で、しかも無料で聴けるということで、スペインでは珍しく1時間も前から広場は人でいっぱい。始まる頃には広場に繋がる道の途中まで人がぎっしりと詰まって、ほぼ通行困難なまでの人気ぶり。聞くところによると、アマイアのファングループがいくつも出動してきていたらしいです。地元パンプローナ出身のアマイアはフラメンコ歌手ではないので、いわゆる「フラメンコ」は歌えませんが、フラメンコ歌謡的な曲をぺぺの伴奏で披露。集まったファンを熱狂させました。(右写真:会場である市役所のバルコニーに近づけなくても遠くから聞き入る人々)

ここパンプローナは以前にもご紹介したように、フラメンコギターの祖とも言えるサビーカス生誕の地。スペインの北部では、フラメンコは盛んではないとも言われていますが、フラメンコの教室は10校くらいあり、愛好家たちが運営するペーニャ、カサ・サビーカスもあります。数日後に行われるフラッシュモブの参加者もたくさんいて、何度も練習を繰り返して準備万端のようです。

_FE_3862.jpg初日のコンサートは、マイテ・マルティン(Mayte Martin)の「Tempo Rubato」。以前に取り上げたコンサートです。(記事はこちら
弦楽五重奏とギター、パーカッションにマイテの歌とギターという構成で、アルバムも既に発売されている作品です。今回は、バルアルテという大きな劇場でやるということで、初めてバイレ(踊り)を加えたフォーメーションとなりました。バイレとして加わるのは、ベレン・マジャ(Belen Maya)。マイテとベレンといえば、「Flamenco de Camara」という超名作の二人。2005年に日本公演もありました。しばらくコンビを解消していましたが、昨年あたりからマイテのコンサートに招待アーティストとしてベレンがバイレで華を添える機会もあり、今回の共演も実現しました。

このコンサートは、その構成からも分かるように、典型的なフラメンコの曲ではありません。フラメンコ歌手のマイテが選んだ曲、作った曲が中心となります。それをフラメンコフェスティバルのオープニングに持ってきたのも、このコンサートのクオリティの高さゆえ。実際、私の席の両隣はトップフラメンコアーティストでしたが、公演中も賛辞が度々聞こえてきました。マイテの声、歌唱力、そして、マイテが丹精を込めて磨き上げた弦楽カルテットの完成度。さらには、ベレンのバイレ。このコンサートの曲は、歌詞がとても重要です。そのニュアンスをしっかりと読み解いたベレンの振り付けは、音楽の魅力をさらに引き立てていました。

_FE_3928.jpg鳥かごを持って、まるで少女のように舞う場面もあれば、死を歌ったアルゼンチンタンゴでは、真っ赤なドレスで悲しみにくれる大人の女。踊るベレンに向かって歌うことで、マイテの歌もバイレなしの時よりも、より一層語りかける力が増し、聴く者にも強く訴えかけてきました。カンテがうるさすぎて踊りを集中して見れない、逆に踊りがカンテを邪魔して歌のいいところが聞こえない、という残念な共演のフラメンコというのも世にありますが、マイテとベレン、それに限らず、一流アーティストの公演が気持ち良く、より感動的に観られるのは、このカンテとバイレの相乗効果のおかげでしょう。

アンコールでは、マイテのレパートリーの中でも人気曲の「SOS」を歌ってくれました。

_FE_4096.jpg夜のコンサート第2弾は23時半スタート。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラのバイラオーラ、ヘマ・モネオ(Gema Moneo)。ギターは、フアン・カンパージョ(Juan Campallo)、カンテは、ミゲル・ラビ(Miguel Lavi)、ぺぺ・デ・プーラ(Pepe de Pura)、パーカッションにアネ・カラスコ(Ane Carrasco)というメンバー。
オフステージでのヘマは、うらやましいほど小顔で気さくな可愛い女性ですが、舞台に立つと別人のように迫力あるアーティスト。サパテアード(足で打ち鳴らすリズム)の力強さにも圧倒されます。

_FE_4143.jpg一曲目のシギリージャ(曲種名)では、爆発的なサパテアード連発で、彼女の持ち味を全て出し切ったかのような10分超えのバイレ。次の曲では、どんなバイレを見せてくれるのだろうと思っていたら、彼女の持ち味は一曲で尽きるようなものではありませんでした。曲が変わることで、違ったニュアンスの身体の使い方でのソレア・ポル・ブレリア(曲種名)。最後のブレリアまで、20分近く踊り続けているにも関わらず、後半になってもエネルギーは全く衰えることなく、カホンとの絡みも完璧。正確にリズムを捉え、心地よいサパテアードを最後まで聞かせてくれました。

このフェスティバルでは、バイレのクラスも開催しており、ヘマもブレリア・デ・ヘレスの2時間クラスを担当。参加者は初心者から経験者まで様々だったようです。この感じなら、日本から来ても、気負わず参加できそうです。

_FE_4721.jpgフェスティバル二日目のコンサートは、エストレージャ・モレンテ。2010年に亡くなったグラナダ出身のフラメンコ歌手、エンリケ・モレンテの長女で、闘牛士のハビエル・コンデと結婚し、その美貌と歌唱力でスペインではセレブリティーの一人。カルロス・サウラ監督のフラメンコ映画にも登場し、そのゴージャスなオーラを披露しています。ペドロ・アルモドバルの映画「帰郷(Volver)」で、主人公のペネロペ・クルスの歌の吹き替えもしています。

_FE_4786.jpgコンサートのオープニングは、父エンリケのアルバム「Suena la Alhambra」を彷彿させるリズムから。コーラスの三人がそれぞれ歌い、やがてエストレージャが舞台奥から歌いながら登場。一段と貫禄を増して、声も以前よりも太くハスキーな感じがしました。ギター2台、パーカッション2名という計8名の大所帯の真ん中に座って熱唱が続きます。劇場の性質上か音響の作り方なのか、パルマ(手拍子)やコーラスの音の反響がかなり響き、肝心のエストレージャの声が聞こえにくかったのがやや残念でした。ゲストギタリストのアントニオ・カルボネル"エル・ボラ"のソロ、アバニコを使ってのセビジャーナス、エストレージャの定番曲とたっぷりの内容で2時間という長丁場のコンサート。

前のコンサートが長引いたので、次の23時からのコンサートは30分遅れで開始という、スペインらしいフレキシブルな対応で、カンタオール、イスラエル・フェルナンデスのコンサートがスタート。_FE_4806.jpgマドリード郊外、トレド出身のヒターノ。声は少し高めのナチュラルボイス。ちらりとカマロンを彷彿させるところのある歌い方で、メリスマ(声を震わせる部分)に、アラブの響きが濃いのが印象的。「お客さんにコンサートを楽しんでほしい。お客さんの反応で、もっと歌いたくなったり、他の曲にしようと思ったりしたりと影響されるものだ」と語り、このフェステバルへの出演を楽しみにしていたようです。

「Universo Pastora」というアルバムを発表しており、セビージャの往年の名カンタオーラのニーニャ・デ・ロス・ペイネスをお手本に学んだイスラエルらしいタンゴも含めた全6曲を、カルロス・デ・ハコバとジョニ・ヒメネスのギターで歌いました。インプロビゼーションの引き出しも多そうな余裕のある歌いっぷり。以前はサラ・バラスの舞踊団で歌っていたそうです。歌声はこちらのビデオを。

写真/FOTO : Copyright to JAVIER FERGO/ FLAMENCO ON FIRE
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