踊るという肉体作業を生業にしているが、57歳という年齢であるので、当然筋力低下は免れない。衰えつつある肉体と戦うべく、若い頃は見向きもしなかった筋トレも取り入れ、身体に対する努力を怠らなくなった。歳を取ったらもっとゆっくり出来るかと思っていたが、そんなこんなで若い時よりもやることが増え、大変忙しい(汗)。
筋肉を付けて身体がいい具合に整って来ると、当然踊り手としてはやれることが増えて来る。フラメンコ舞踊手の大事なテクニックである足も、音がぶれずにしっかりと刺さって来る。うまく出来なかった足も出来るようになるので、さらに意欲が湧く。
いいことずくめのようだが、しかしそこには大きな罠も待っている。エスコビージャがやたら長くなったり、足のレマーテばかり入れたくなったり。いや足だけではなく、例えばブエルタなんかもやりやすくなるので、別に回らなくてもいいところでケブラーダがしたくなったり。結果が出ると人はそれを披露したくなるものなのだ。しかし。ふと立ち止まる。あれ、自分が惹かれたフラメンコってそんなんだったっけ?
カンテを聞くためにCDをかける。当然へレスのものを選ぶことが多い。25年ほど前、マドリー、セビージャと住んでへレスに辿り着いた時、ようやくフラメンコに心底魅了された私は、踊りの町セビージャのカッコいいバイレも好きだが、歌の中にこそ自分のアフィシオンが息衝いている。カンテヒターノが持つ世界、襞を潜り抜けて奥の奥にグッと入っていき、その先に一筋の光を見る、あの世界。
足の音一発で、その世界を出せるやもしれぬ。ブラソをゆっくりと上げる動きの中に、あの世界が生まれることもあるはずだ。自分の肉体の目指すところはまさにそこだ。しかしパロを踊る場合、「踊り」には「歌」が必要だ。カンテを切望する。自分がしびれたカンテを。導かれるように動く。すると、フラメンコを踊ることは他のダンスと全く違うと気付かされる。肉体的達成感とは違うところにフラメンコはある。そしてそれを確かめるべく、実現すべく、無理を押してまたフラメンコ達を呼んでしまうのだ。
11月2日(金)、へレスのフラメンコ達が東京・中野に集結する。たった1回の公演のために、遠くへレスからやってくる。生きたヘレサノ達のカンテ、ギター、パルマを舞台上に放ち、その時その瞬間に生まれたフラメンコを踊るエスポンタネアシリーズ。いよいよ5回目となる。
今回のメンバー、筆頭はサンティアゴ地区・ソト家が生んだ名カンタオール、Mateo Solea。今は亡き先人達のフラメンコ遺産を血肉に持つ、数少ない生き残りだ。同じサンティアゴ地区で育ったホセ・ガルベスのインタビュー動画が面白い!フラメンコについて、カンテについて語る二人の口調はまるでコンパス。マイレーナのCDでよく知られた「Solea de Charamusco」(27分あたり)や、親しかったティア・アニカのシギリージャ(34分あたり)も披露している。さあ、このカンテで踊るには?このカンテを踊るには???
フラメンコの礎はファミリアにある。皆さんよくご存知のManuel de la Malenaだが、日本での活躍の場を増やしたこともあり、ファミリアの中での彼のカンテは滅多に聞けない。今回、マテオとマレナ・イホという血縁関係のメンバーを得たことで、あの黒い野生の声の中に、彼のDNAが持つ深い記憶が現れることを予感している。
初来日のAleとJaviは、Jerez Puro(マヌエルの弟アントニオ・デ・ラ・マレナとマリア・デル・マル・モレノが作るコンパニア)でも活躍する、息の合ったパルメロ達。マレナ・イホもこのコンパニアで弾いている。いわゆるcolega「仲間」だ。
血によって、厳しい仕事によって、非常に強い一体感を持つこのグループの、生のへレスのカンテ、へレスのコンパスの中で、何を見つけ、どう踊るのか。
また恐ろしい挑戦が始まる。
果たしてどんな舞台になるのか。皆さんの眼で確かめていただきたいです。
そして、皆さんに生粋のヘレサノ達のコンパスを楽しんでいただきたいです。
11月2日(金)劇場にてお待ち申し上げております。
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