無から形あるものへ。それは湧き上がるエネルギーによってこそ生み出される。既成の価値観に守られるものではないので、発表するには勇気もいる。一寸先は闇だ。そんな恐ろしい領域に漕ぎ出した舟に、まさかこの私も乗ることになろうとは。思いもよらぬ展開になった。舟の名前は、~infinito~「無限」。舵を取るのは、そう、あの佐藤浩希である。
鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団の代表作と言えば、まず皆さんよくご存知の「フラメンコ曾根崎心中」がある。他にも昨年再演された「道成寺」や、スペイン歌謡を踊る作品など、たくさんの作品があるが、共通しているのは、
ベースになる何かがある、ということだ。しかし、新作 ~infinito~「無限」は、佐藤浩希がゼロから作り上げる全くのオリジナル作品。音楽も、フラメンコの
パロを使うのではなく、この作品のために作られたオリジナル曲。作品のテーマはずばり「生命」。語り継がれる生命の神秘、という副題が付けられた。
ひろ君(佐藤浩希さんの愛称)との出会いは、おそらく20年位前だろうか。鍵田真由美さんのスタジオでエンリケ・パントーハのクルシージョがあった時かもしれない。知り合ったのは随分前だけれど、お互いの活動の接点はなく、
たまにばったり出会う程度。しかし、会えば挨拶もそこそこ、あっという間に
マニアックな話で盛り上がる。私にとってひろ君は、間違いなくご機嫌なフラメンコ話が出来る相手だった。
外側を見れば、フラメンコ舞踊家として発信していることは真逆とも言える二人なので、ひろ君とフラメンコ話で盛り上がったー!と言うと、よく不思議がられた。だから今回、鍵田真由美・佐藤浩希舞踊団の新作公演に私が出演することになったと言うと、かなりビックリされる。それも100パーセントの確率で!
何故このような流れが起きたのだろう。
活動の接点はなかった二人だが、今年に入って3回も一緒に仕事をする機会に恵まれた。最初は今枝友加さんのCD発売記念公演、次にアクースティカ30周年記念ライブ(なんとパレハを踊った!)、最後はヘレスのドミンゴ・ルビチを迎えてのエスペランサライブ。話す機会がぐっと増え、かなり真剣なフラメンコ話もしたし、でも最後はいつも笑い転げた。アクースティカライブで一緒に踊ったひろ君の振りは、ブレリアのツボを押さえたご機嫌なもので、普段パレハも、他の方の「振り」というようなものも踊らない私を、すんなり踊らせてしまった。
そんな中、そう、確かアクースティカライブの練習(と言う名目のお喋りタイム!)の日だったか、今度の舞台への出演を打診され、私は迷わず即答で受けた。言い出しっぺのひろ君自身が、「えっ?ほんとに?」と驚いたのはおかしかった。
ひろ君が話してくれた構想はとても漠然としたものだったが、生命賛歌のようなものを作りたいのだと受け取った。まずそこに惹かれた。聞くと、フラメンコの曲は使わずオリジナル曲を作ると言う。常々、作品作りにはオリジナル曲が必要だと思っていた私は、それにも興味が湧いた。
しかしそれより何より、私が即答出来た最大の理由は、やはり、感動するフラメンコが一緒だということ、それに尽きると思う。
さあ、いざ引き受けたはいいが、主演の鍵田真由美さんが「生」、私は「死」と言われて、さすがに唸った。テーマ性を持って踊ったことはない私に、いきなりの難題。ある人に「私はどっちと言われたら、死より生の方がいいわ。」とぼやくと、「由紀さん、死と生はくっついてるんですよ。」と一言。
そうか。生と死は表裏一体。生があるから死がある。うーむ。再び唸る。
しかしひろ君、なんという深く壮大なテーマを掲げたのですか!
この作品は、形の上では「フラメンコ」ではない。まず音楽がフラメンコではないし、踊りもフラメンコのスタイルとは違う。以前の私だったら引き受けられなかったと思う。しかし、3年前から自分の作品作りを始めた私が、少しずつ思い始めたことがある。
私達はフラメンコから深い感動を受けた。その感動をくれたフラメンコが親だとすれば、まずは親と同じものを自分もやろうとする。追い掛けて真似をして、親と同体となることを目指す。それは異国の文化であるフラメンコを学ぶ上で必然だし、また、同体を目指し続けることは、フラメンコの形を守ることにも繋がる。しかしまた一方で、フラメンコから受けた感動を糧に、形は違えど、同質の感動を生む何かを生みたくなったとしたら?それもまた、フラメンコという親から生まれた異形の子供なのではないだろうか。
以前、セビージャの歌い手クーロ・フェルナンデスが、「フラメンコは本当に懐が深い。」という話をしてくれたことがある。フラメンコの感動を糧に生きようとする子供に対しては、外見が自分に似ていようと、似ていなかろうと、そこに「嘘」がなければ、同じように愛をくれるのではないだろうか。勝手な解釈ではあるが、今の私はそう思っている。もっと前の私だったら、似ていない子はよその子だと言っただろうけれど。
皆さま、この問題作、いや意欲作を、どうぞ劇場でご覧になってください。
日本橋劇場にて、11月26日(木)19時、27日(金)14時、19時の3回公演です。何卒よろしくお願い致します。
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ARTE Y SOLERA オンラインチケットサービス
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0120-240-540 (平日10:00~18:00)
命の誕生の不可思議と神秘、生きていくことの苦悩や歓喜、様々な愛の形のありさま。
無限へと続く生命の螺旋への讃歌を高らかに謳い上げる、アルテイソレラ待望の新作。
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無限へと続く生命の螺旋への讃歌を高らかに謳い上げる、アルテイソレラ待望の新作。