音と音の間に隙間があると、速い細かい音でも慌ただしく感じない。
ゆっくりとしたテンポでのシンプルな音使いでも鈍重に聞こえない。
バイレフラメンコというものに夢中になって早30年。
この年月の中で今最もサパテアードの音に憑りつかれている。

大地に真っ直ぐに立つこと。マルカールすることで身体がぶれないこと。
それらのことを長くやっていたら、音の中の微細な世界がググっと顔を出して来た。

踊る時、両足か片足は、ほとんどいつも床についている(ほとんどというのは、ジャンプや足を踏みかえる時に、どちらの足も床についていない瞬間があるから)。かたやブラソは、床という支えどころを持つ足とは違って、ファルダを掴んだり、腰に手を当てたりする以外、空に放たれている。そのため動かし方のバリエーションも豊富で、トラディショナルな使い方から他ジャンルのダンスの影響を受けた動きまで様々だ。足は、音を鳴らすという役目も背負っているため、おのずと動かし方は限られるが、足さばきの美しさと、音という二つの世界を持っている。視覚的には非常にミニマム、しかし聴覚としては無限大。

フラメンコを踊る時、フラメンコシューズという普段履かないものを履いているので、特に靴を脱ぐ習慣を持つ私達は、足首から下の、靴を履いている部分に身体意識が行きがちになる。身体を支える役目を靴に取られると、当然ながら身体は下に落ちて、足が上がりにくくなる。そのような身体が出した音は、べしゃっとしている。靴によって蓋をされた音、音と音の間に隙間のない湿った音だ。反対に、引き上がった身体であれば足は上がりやすく、足裏と床の間に空気が入り、乾いた音になるだろう。

アンヘリータ・バルガスがクラスでよく「足を上げろー!」と言っていた。上げろと言うから上げなきゃと、とにかく一生懸命上げてはいたが、今考えると、アンヘリータに聞こえるのは湿った音だったのだろうなと思う。

大沼由紀
 ある程度スポーツをやって来た人にとっては、こういったことはごく当たり前のことで、そんなことを改めて説明しなくてもと思われるかもしれない。しかし大人になってからバイレフラメンコに取り組み始めた人にとっては、無意識に出来ることではないので、意識することがとても役に立つはずだ。ちなみに私も大人になってからバイレフラメンコを習い始めたくちなので、色々と試行錯誤を繰り返して今に至る、である。

 脚をうまく使うこと。足(足首から先)ではなく脚(太ももから下)。小さな細かい音でも、地底に突き刺さる大きなゴルペ一発でも、音の感覚は靴ではなく、もっと上。骨盤の中に音の始まりがあり、それが脚を通して足まで行きつき実際の音になるイメージ。

 いい音が出せる身体は、足が床に吸いつくようにスッと立てるので、マルカールも美しい。乾いた音が出せれば、リズムが生き生きして気持ちもワクワクしてくる。見た目もいいし楽しいとあればこれ以上のことはないので、もしサパテアードでお悩みの方がいたら、是非参考になさってください。

アクースティカ倶楽部

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