昨年、日本フラメンコ協会主催の新人公演で奨励賞を受賞したバイラオーラ徳田志帆が、この8月上旬に、筆者お気に入りのフラメンコ・ピアニストと、北欧のノルウェーで共演するという。そのピアニストの名は、ラウラ・デ・ロス・アンヘレス。1986年9月22日セビージャ生まれの現在26歳だ。
日本ではほとんど知られていないが、「女性でCDを発表した初めてのフラメンコ・ピアニスト」という触れ込みで、2009年発表の第一作「エル・カジェホン・デル・アグアEl callejon del agua」で一躍注目を集めた。2012年には愛児誕生をテーマに「ミ・ヌエバ・エスペランサ Mi nueva esperanza」を出すなど、キャリアを順調に重ねている。
彼女との出会いは、コルドバの山奥の町のペーニャ公演を記録した一枚のDVDがきっかけだ。「これは面白いからぜひ見てみろ」と会長がくれたその一枚に、若きラウラの度肝を抜く演奏が入っていたのだ。
共演はグラナダのベテラン・カンタオール、エル・ポラコ、ギターにはセビージャの若手、マヌエル・エレーラ。
エル・ポラコは、今では珍しい古きカンテの美学を守る、洞窟生まれのベテランヒターノ。白の開襟シャツ、胸にはロサリオという昔のヒターノらしい、簡素な格好で舞台に上がる。
対照的にラウラは黒いドレス姿でお洒落な若き白人女性という風情。ところが、ブレリアの伴奏が始まるやいなや、ビビッドなフラメンコのコンパスが鍵盤から溢れ出し、どこか半信半疑で見ていた年配のペーニャ会員たちを唖然とさせ、最後には「オレ!」の大喝采を勝ち取ったのである。共演のポラコも、そんな彼女を信頼しきった圧巻の歌いぶりだった。
フラメンコ・ピアノといえば、本ウェブの「フラメンコウォーカー」第31回で坂倉真紀子さんがレポートする、ドランテスとディエゴ・アマドールが、名実ともに現代のトップ2と言っていい。
だが、このラウラのピアノも実にいい。最大の特徴であるパーカシッヴなタッチは、一時期パコ・デ・ルシアのセクステットで活躍した、踊り手でカホンの名手、マノロ・ソレールの影響という。しかも、その歯切れよく芯のある彼女のタッチには、つねに、琥珀色の古いフラメンコが匂うのである。
背筋をピンと伸ばしてカンタオールとの呼吸を見やる、まるでギタリストのような伴奏姿勢にも、それははっきりと現れている。同郷ではギタリストのヘスス・ボラやキケ・パレデスらが先輩で、ニーニョ・リカルドやサビーカスのファンだというのも、実に納得させられる話だ。
ノルウェーにおけるバイレの徳田志帆との共演は、8月8日、首都オスロのStopp Pressen(21:00)でスタート、続く10日はフレドリクスタのFjeldberg Marina(19:00)、11日はモスのQueens Pub(15:00)と続く三日間。現地へ行く機会がある方はぜひ! 筆者は東京で酒を飲みながら・・・・・・、もちろんアクアビットを片手に、公演の成功を祈ってます!!