天は二物を与えたという典型が、今回ご紹介する舞踊家、カルメン・アマジャ(1913~1963)だ。超高速サパテアード(足を踏み鳴らす技)、連続稲妻ブエルタ(回転)などは、早回し映像かと思ってしまうほどに激烈だ。が、筆者は映像よりも先にCDを聞いてファンになった一人である。それほどに彼女の唄は素晴らしい。

 しかも伴奏は全盛期のサビーカス(1912~1990)という極め付き。4曲目のハレオ・カナステーロのイントロ「al venir a una avenia~」の物憂い声を聞いただけでゾクゾクする。卓越した体力と身体能力を高次元で融合・爆発させるバイレとは明らかに異なる、意外なほどの叙情性がその声に潜むのだ。
 本作の録音は1957年頃に行われたという。その前年の1955~56年には、20週間以上にわたりアメリカ各地(ボストンからサンフランシスコ、フロリダからデトロイト)を巡業した、と英文ライナーにある。スペイン内戦(1936~1939)を避け、1937年から南米ツアーを敢行して大絶賛を得た彼女は、北上したアメリカ合衆国でも同様に脚光を浴び、前述のツアーにつながったのだ。
 南米ツアー時に仕入れたと思われる1曲目「Cuando pa chile me voy(チリへ行くとき)」は本作中、最も好きなカンシオン風ブレリアだ。なぎ倒すような本人のサパテアードが間奏に入り、直後、その影響を微塵も感じさせず、熱く堂々と唄い上げるカルメン。同時にビシビシと響くピトス(指鳴らし)。その勢いたるや、まさしく炎の化身という言葉がふさわしい。
 このレトラ(歌詞)の中に「ビバ・ラ・チチャ・イ・エル・ビーノ!(チチャとビーノ万歳!)」というくだりがある。そう、本稿読者ならお察しの通り、両方とも酒を指す言葉だ。
「チチャ」とは、主に南米のとうもろこしや芋の醸造酒を指す。筆者は昔エクアドルのオリエンテ(アマゾン地帯)で飲んだことがあり、余計にこの詞に親近感が沸く。「ビーノ」とは、ワインのことだ。
 本作をよく聞いた十数年前、一緒に飲んだワインが、チリの老舗ワイナリー、コンチャ・イ・トロが送り出すブランド「サンライズ」のカベルネ・ソーヴィニヨンだった。重厚で、アルコール度数が高い(13.5~14度)。しかもジャスト1000円(当時)。高いフランスワインを買っては、何度も煮え湯を飲まされた結果、最後はサンライズに絞って一年以上は買い続けただろうか。
 深夜、狭い安アパートで、サンライズをラッパ飲みしながら聴くカルメン・アマジャの炎は、より一層明るく、熱く、輝きを増した。ビバ・カルメン! ビバ・エル・ビーノ! ビバ・エル・フラメンコ!!

※トップの写真は筆者所有の旧盤(収録曲は同じ)です。
※一週間ごとに更新します。次回は8月2日(木)の予定です。

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