バイレ群舞総評

菊地裕子
●今年の群舞部門の出場は5組。見事に作品の志向がそれぞれ違い、非常に楽しめた。私には、群舞はこうであらねばならぬという確固とした見識はないけれども、フラメンコ性、音楽性、舞踊レベル、ステージング、好感度などの指標を自分なりに持って拝見している。そういう意味では今回は、群舞に新たな指標を示そうとした作品や、まっすぐにひとつの指標を突き進んだグループなど、興味をそそられるものがほとんどだった。ただ奨励賞の選出ということになると、総合的にはどのグループも過去の奨励賞受賞作品に迫る作品とまでは言えず、推薦なしとしたわけだが、正直言って、今回はどのグループも出演者の精進のあとが心地よく映り、フラメンコを踊ることの楽しさや素晴らしさを伝えてくれる作品が多く、観る者にとって大きな喜びだった。こういう作品が、新人公演にとどまらず、アニフェリアにどんどん出てくれるようにならないものかと、老婆心ながら思った次第であります。
※評価=【特A】(今年は無し)>【A】>【A'】
※菊地が奨励賞に推薦したグループ=【推薦】(今年は無し)

奥濱春彦
●本番に目掛けて一生懸命に頑張る。それぞれの想いや努力を観させていただきこちらも勉強させていただきました。ありがとうございます。各個人への感想は上手い下手、技術レベルの上下という壁を作らず拝見させていただきました。こちらの総評では全体的に感じたことを書かせていただきます。
 目に見える物だけではなく、見えないが感じられるものの勉強も必要かと思います。
その一つに舞台の中心感覚というものがあります。
 【中心】といっても舞台中央にバッテンの場ミリがある場所ではなく、例えば今回ミュージシャンは上手にいたので、そうすると舞台全体でみると下手空間が軽くなってしまう。そうした場合、センターをほんの少し下手にずらしてポーズを決めると、舞台空間の中でその人間が美しく見えたりするものです。この中心は一曲の中でも移動してくるもので、照明の具合や小道具として使う椅子の位置、捨てたマントン場所等で変わってきます。この感覚はいろいろな舞台を観て勉強・研究するしかないのですが、この意識が生まれると踊りが前身頃だけではなく、背中の空間も使えて舞台が大きく見える踊りに変化します。
あとこれは見える物の事ですが、お衣装はみなさんとても良かったと思うのですが、それに見合った頭部の装飾がなかったかと思われます。正直、皆さん同じ花の付け方でモーニョの場所などももっと研究されたら良かったのにと残念に思いました。流行りの付け方なのかもしれませんが、もう少し個性出すように研究されていたら観ているお客様ももっと楽しめたかと思います。
 舞台の中心感覚も衣装や髪飾りの事も、やはり外(客席)から見てくれる方がいることが大切かと思います。各人の踊りは一生懸命な練習の成果が感じられましたが、客観的な部分が弱いのかなと感じたのが正直な感想です。

高橋英子
●今年の群舞参加は少なく、たったの5組だったのはちょっと寂しかったです。でもたまたま少なかったのかもしれません。群舞部門では沢山の踊り手さん達が一体となって作りだすスぺクタクルな世界が期待できると思います。あらゆるテーマとアイディアで、参加者各人の技量はあまり関係ない、各人の息吹や熱意が一体となるところが魅力です。ですから踊り手さんの人数は多い方が私は好きです。2,3人でも群舞と呼べるのか?群舞には変わりないとは言いますが......。それにしても2,3人というのは振付けるのが多数より難しいのでは、などと感じました。今年は際だった魅力のある作品はなかったように思いますが、非常に丁寧に作り上げられた力作や、和(輪)のムードで迫る雰囲気ある作品もあって、頼もしかったです。あと、録音されたCDなどの音楽で踊るより、やっぱり生演奏での演技の方が迫力あるのではないかと思いました。


写真:©大森有起

17.Estudio El Patio(ソレア)

17.Estudio El Patio(ソレア)

●3名によるストイックな振付のソレア。舞踊手のレベルは突出して高いわけではないと思うが、クールな感じのステージングが伝えてくるフラメンコの感興が凄い。バイレ・ソロが自分の身体ひとつでカンテやギターと呼応しているのに対し、彼らはフォーメーションで呼応した。ソレアの骨の部分を、3人が増幅装置のように演じて胸を揺さぶった。このステージングには多くの人に参考になるところがあったと思う。今後、もっとレベルを上げて再演して欲しい。選考後に富山からのグループだと聞いてびっくり。地方の練習生たち、頑張れ頑張れ!個人的には準奨励賞!【A】(菊地裕子)
●3人での群舞というのはとても難しいものです。2人や4人やそれ以上の人数の群舞と違い、一人がちょっと立ち位置を外すと汚く見えてしまう。しかしこのグループはよく纏まっていて、よくここまで揃えたものだと感心しました。各人のレベルも高く、舞台空間が綺麗に見えていました。ただ、走って回り込むときに一歩一歩もう少し足首を爪先の方に乗せるようにしていたら、もっとスムーズに移動できたかと思います。(奥濱春彦)
●1人1人は心こめて頑張って踊っているのがよくわかりました。が、1曲を3人で踊っているというイメージが終始あって、全体としてちょっとおとなしい群舞だったかな?ちょっと残念!出演者の数が少ないので、難しいことかもしれませんが、もう少し振付構成の工夫をしてみると良かったのでは、と思いました。(高橋英子)

18.奥野裕貴子フラメンコ教室LOS TARANTOS京都(タラント)

18.奥野裕貴子フラメンコ教室LOS TARANTOS京都(タラント)

●6名によるドラマチックな仕立てのタラント(振付:奥野裕貴子)。赤い衣装の3人と青の衣装3人が対峙するという形で始まり、いくつかの葛藤の末、和解を迎えるという筋書き。創作フラメンコのワンシーンにありそうな設定で、舞踊レベルはまずまずなのだが、その対決や葛藤のありようが演技的に今ひとつリアリティに欠け、心に迫るまでに至らなかったのが惜しい。1人、ピラール・ラ・ファラオーナもかくやといった体格の女性がいて、彼女が真面目に対決を止めようとするのだけれど、むしろ彼女が混ぜっ返したほうが意外性があって面白かったのではないかな。要研究。【A'】(菊地)
●ストーリー的要素があると、フラメンコをあまり知らない方でも楽しめる。タラントという曲に構成・振り付けが上手く組み合わされたドラマティックな作品となっていた。衣装の対比も良く群舞の各ポジションと合っていて、各人の個性も活かされていたように思います。こういう作品が他にもあればもっと楽しいのになと感じました。(奥濱)
●ちょっとインパクトある踊り手さんを中心に、ドラマ色帯びた構成で、出だしから注意を引かせる演出。衣装はベリーダンスのようなアラブ風、これはちょっと色彩的に研究が必要だったかな?タラントからタンゴへと華やかに盛り上げ、最後はトレモロが利いて音楽的にもなかなかステキなできばえ。楽しめました!(高橋)

19.屋良有子フラメンコ教室「メンサヘ」(ファンダンゴ)

19.屋良有子フラメンコ教室「メンサヘ」(ファンダンゴ)

●ビセンテ・アミーゴの曲を使った、6名による品の良いファンダンゴ。全員が白一色の美しさといい、センスの良いステージングといい、創り手の美意識の高さを感じた作品。既存の曲にインスパイアされた、音楽性に特化した舞踊作品として受け止めたが、そうなると、個々の舞踊手にかなりの舞踊レベルが要求される。いわゆる群舞として王道の創り方でも、アラが見えては作品としてどうかなと思う。個々の舞踊手の身体性や舞踊レベルを生かすような方向性も探ってもらえると、個人的に嬉しいわたくし。【A'】(菊地)
●これだけ生演奏が続いただけに録音物はどうかなと思いましたが、しっかり作りこまれていて見応えがありました。衣装も良く各人の個性も活かされていて後半の盛り上がりも良かった。出演者皆様の踊りも好感が持てたのですが、どうしても録音物の音は生演奏に比べると平面的なので、ある種ドラマティックな身体表現も踊り手に求められるかと思います。ストーリー的な要素を舞踊として表現できたら、あの最後の終わり方がもっと輝く作品になったかと思います。(奥濱)
●白い衣装の女性が音楽無しで動きはじめ、最後も同じ感じで終わる。照明も駆使して舞台芸術の世界を色々な角度から堪能できるように振付してあったようです。同じ白の衣装で同じぐらいの技量の女の子達が一体となり創り出した舞台はフレッシュで見応えありました。(高橋)

20.稲田SUSUMUjeres内圧と間舞踊団(タンギージョ)

20.稲田SUSUMUjeres内圧と間舞踊団(タンギージョ)

●8名(女性6名、男性2名)による硬派なタンギージョ(振付:稲田進)。既に奨励賞や準奨励賞を受賞した人など、舞踊レベルの高い人たちが、おそらくはテーマであろうフラメンコの「内圧と間(ま)」を追求しつつ、ユニセックスなダンスを披露。格好いい!と多くの群舞の選考委員が思ったようで、奨励賞を受賞した。でも私は、8名もいるのに、そのエネルギーが思ったほど伝わってこないもどかしさの方が大きく、「内圧と間」の表現のあり方に疑問が残った。また個人的な感想だけど、タンギージョなのに大人の茶目っ気といったものが皆無だったことも不満のひとつ。最後の最後にどんでん返しとかしてくれてたらなァ。ともあれ、面白いチャレンジだったことは確かで、奨励賞受賞に不満はありません。【A'】(菊地)
●よくここまで纏め上げたものだと感心いたしました。見どころ満載でしかもフラメンコ要素がたっぷり。いろいろ詰め込まれた振付と構成だったために、後半何人かの方が疲れてきてしまったのか背中が落っこちてきているのは気になりましたが、いやいや見事だったと思います。背が低い方の男性(中原さん?)の身体能力に未来を感じました。(奥濱)
●なんだかフラメンコに大切な内圧だの間だのの要素を前面に出し、それが踊りを見てもひしひしと感じさせる面白い群舞だったと思います。ちょっと年配にみえる踊り手さん達も、現代的な粋なムードにぴったりオサマっているのが何とも不思議、凄いパワーを生み出し、安定した迫力があり観る人を惹きつけました。(高橋)

21.Los motan~eros(アレグリアス)

21.Los motan~eros(アレグリアス)

●3名による非常に楽しげなアレグリアス。おそらく、そこそこ人生経験を積まれた女性たちが3名、パステルカラーの色違いの衣装で魅力的に踊った。3名とも舞踊レベルはさほど高くはないのだが、あまり難しくない振付のおかげか、踊りたいという気持ちとアレグリアスが大好き!という気持ちが、どの方もよく表れていて、とても心引かれた。真面目にフラメンコに取り組んでいると、こんなに良いことがあるんだよっていう、素晴らしいお手本だと思う。単純なパソ、エスコビージャにこそ、フラメンコのエッセンスが詰まっていることを改めて思い知らされました。ありがとう!(菊地)
●ほのぼのさせていただきました。フラメンコが本当に大好きだという気持ちが伝わってくるアレグリアス。上手い下手ではなく、3人で作り上げてきた時間と努力に拍手をお送りします。次回挑戦されるときは、群舞の構成をもっと見直されて立体的に空間を使えるともっと個人個人の個性が生きてくると思います。(奥濱)
●3人の妖精のような踊り手さん達がその奇数の世界を最大限に生かす研究、模索などしてできた構成でしょう。アイディア、工夫が沢山見えて、とても好感がもてる楽しい舞台を作っていました。微笑ましさを感じさせる素敵な群舞で良かったです。また何かやってみてください!(高橋)

アクースティカ倶楽部

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