セビージャに着いた頃、辺りはすっかり日が落ち心地よい風が吹いていた。
金曜日の夜ということもあって、街はいつもより活気づいていた。
セビージャに宿をとっていたのでホテルへと向かった。
バルがたくさん並んだ通りを歩いていると、粋のいいセビジャーナスが耳をかすめた。
私はそのバルに吸い込まれるように入って行った。
大勢の客たちのずっと奥の席に10人ほどの団体がいた。仲間内のフェイスタである。
タブラオでもなく普通のバルの中で仕事も終わり仲間たちが揃い自然発生したペーニャといった趣である。
これがみたかった。、
周りの客は特に彼らの音楽を聞いているでもなくまた彼らも人前で演奏しているでもなく、
ただ気まぐれに仲間同士で音を出している、そんな様だった。
事実キューバのソンというジャンルも、
やはり仲間内でテーブルの端を指の第２関節でリズムをとり、
ギター（トレスギター／３弦副弦の6弦ギター）や歌を次々と披露しあうペーニャがあるのだが、
やはりよそ者は中々入れてもらえない。
座席もほとんどないスタンディングスタイルのその店内の、
私は少し離れた所からみていた。
曲はセビジャーナスとタンゴが主で、延々途切れることなく続けられた。
そのほとんどの歌詞の内容はビバ・セビージヤ、ビバ・トリアーナだった。
やはり曲がずっとつづいているとついつい肩や首でリズムをとってしまうものである。
自分の膝を軽く手で叩いていると何人かのセビジャーナスに興じているスペイン人たちが、チラチラと私を見ていた。
スペイン人でも中々フラメンコには関心がないのに、
外国人の私がリズムをとっていたので気になっていたのであろう。
しかし地元特有の仲間意識のオーラが全開しており、
彼らの宴に入ることは決して許さない、そんな感じだった。
人間関係というものがそれぞれの世界にはあることは充分知っているので、
彼らの世界に土足で入るような真似はしたくなかった。
その店を出るとまた別のバルでもペーニャらしきものが行われていた。
思えば金曜日の夜。そうか週末ならそこここのバルがフラメンコで盛り上がるのか。
するとヘレスに行く前にアルカザールで出会ったギタリストと再会した。
そう、「セビージャにフラメンコなどない」といったあの男だ。
私はヘレスでの出来事や今目の当たりにした週末フラメンコで盛り上がるセビージャのバルのことを彼に伝えた。
すると彼は今度は「週末ならセビージャのあちこちのバルでフラメンコやってるって言ったじゃん」とぬかした。
なにぃ～？ そんな事いうてへんぞ～！
「セビージャにフラメンコないから早くヘレス行け！」って言ったのお前やんけ～！ もう～！
毎度、ISSEYだす。ま～彼にしてみればセビージャのフラメンコはフラメンコじゃないってことなんでしょうけどね～。
マドリードの人らしくセビージャが住みやすいからセビージャに住んでるいうとりましたわ。
ファルーコの娘婿いうとりましたな。
彼のCD貰いましたわ。
まっ次の日もどっかのバルでフラメンコやってるやろし、ホテルに帰りましたわ。
次の日の昼間セビージャの町歩いとったら、
フラメンコ・スタジオのチラシ見つけてそこへ電話したんですわ。
とりあえずイタリアのフラメンコ・スタジオに何かスペインの土産話もほしかったし、ギター弾かせてもらえへんか思て。
そしたら今セマナサンタの前やからクラス・レッスンやってへんそうでした。
まっスペイン来て知り合いもおらんし、町のこともわからんし、無謀っちゅうたら無謀ですけど、
観光にきたわけちゃいますし、何でもいいから勉強したかったんすけどね。
そのまま歩いとったら、普通のバルでフラメンコのライブっぽいことを８時から演るって貼り紙してまして。
そのへんウロウロして７時には店入りましたわ。
わりと料理も上手くて店の人たちもいい人やってテンション上がって結構呑みやした。
８時からのライブ始まる頃には結構出来上がってました。
せやけど踊り手がおりまへんねん。
カンテ二人とギターっちゅう構成でした。
ライブやっちゅうのに仕事の作業着でしたわ。
セビジャーナス、タンゴ、ブレリアがほとんどでした。
こっちは酔うとるし、まっ、楽しくて肩や首でリズムとってるとわりと前にいたこともあって
カンタオールとよく目があい向こうも喜んでましたわ。
そのうちカンタオールが立ち上がって客を挑発しまして、
店の外まで行って外にいた子供つれて来まして踊らせてました。
ほとんど踊れない子供でしたが、やはり子供は強いでんな～。それなりに盛り上がってましたわ。
わしの所来たらいつでも行ったったんですが、来まへんでした。
まっ来ないなら暗黙の掟にしたがい遠慮してました。
よくそんな時遠慮するのは日本人の悪い癖とおっしゃる方いらっしゃいますけど、
それは空気を読んでるんでっせ。
まっ結構楽しくて酔いもあり、店出る時、
わしがスペイン人からされてた投げキスをわしが店のママに投げましたけどな。
貰ったもんは返しまっせ～。
それ以降、へんな投げキッスの癖がわしにできたのはいうまでもありまへん。
いや～フラメンコって本当にいいもんですね
